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リカーリングモデルとは?製造業のビジネスにおける重要性、導入事例やサブスクリプションとの違いを解説

記事公開日:2023/07/27
最終更新日:2023/10/26
リカーリングモデルとは?製造業のビジネスにおける重要性、導入事例やサブスクリプションとの違いを解説

リカーリングモデルとは、継続収益によって安定的に売上を創出するビジネスモデルのこと。「Recurring(リカーリング)」は「繰り返す」という意味で、顧客に製品やサービスを何度も購入してもらう収益構造を表しています。

 

近年はICTの急成長や世界情勢の影響もあり、激しい市場環境の変化が続いています。そんな中、もともと弊社も売り切り型のソフトウェア(電子ブック・Web制作等)を提供していたため、サブスクリプション型ビジネスモデルに移行する際にはその大変さを痛感してきました。本記事では、このような経験からお伝えできる、リカーリングモデルにシフトする上でのコツやポイントについても解説していきます。

 

まずはリカーリングモデルの定義と種類、サブスクリプションとの違いから、製造業におけるリカーリングモデルとマーケティング手法について説明します。製造業においてリカーリングモデルを導入したことで成果をあげている成功事例についてもご紹介しますので、ぜひ自社のビジネスモデル構築にお役立てください。

 

こんな人におすすめの記事です!
・リカーリングモデルの基本を知りたい
・リカーリングモデルの事例を知りたい
・リカーリングモデルの重要性を知りたい

 

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リカーリングモデルとは

リカーリングモデルとは、継続収益をあげることで安定的な売上を維持するビジネスモデルのこと。「Recurring(リカーリング)」は「繰り返す」という意味で、顧客に製品・サービスを何度も繰り返して購入してもらう収益構造を表します。

 

従来の売り切り型ビジネスは、基本的には一度買ってもらったら終わりという販売モデルのため、「いかにして顧客に製品を買ってもらうか」をもとにビジネス戦略が設計されてきました。一方のリカーリングモデルは、「顧客へどのような価値を提供できるか」を軸に展開します。顧客のビジョン・課題にともに取り組むことで、長期的に信頼関係を構築していき、継続利用してもらうことで収益を安定化します。

 

さらに顧客との良好なリテンション構築によって、クロスセル・アップセルなどの追加受注も可能。このようにLTV(顧客生涯価値=ひとりあたりの顧客が生涯に支払う金額)の最大化を追求していくのも、リカーリングモデルの特徴です。

 

ここでは、リカーリングモデルにおいてよく使われる、いくつかの用語についてもご説明していきます。

 

参考記事:クロスセル・アップセルとは?LTVを最大化させ顧客収益性を上げる戦略

リカーリング・レベニュー

リカーリング・レベニュー(Recurring Revenue)とは、継続収益・繰延収益のことで、リカーリング・モデルのビジネスにおいて得られる収益そのもののことを指します。たとえば電気やガスなどの公共料金、プロバイダや電話会社の通信料金、そのほかサブスクリプション型のビジネスは、リカーリング・レベニューによる収益を中心としたビジネスモデルに分類できます。

リカーリング・コスト

リカーリング・コスト(Recurring Cost)は、ユーザーが継続して支払う費用のことで、経常経費ともよばれます。一般的にはエンドユーザー視点で、製品やサービスに対して継続的に支払う料金のことで、公共料金や定期的に支払うメンテナンス費用、月次制のサブスクリプションサービスに支払う利用料などもこれに該当します。

フィッシュカーブ

フィッシュカーブ(fish curve)は、ビジネスをサブスクリプション型にシフトしていく時間経過において、「収益とコストの関係性」のグラフが描く、魚のような形の曲線に対して名付けられました。

 

ビジネスの体制をサブスクリプションに移行すると、「初期投資がかかること」「月次制の安価な料金体制を取り入れること」によって、一時的にコストがあがり、収益額が低下します。しかし時間の経過にともなって、顧客の継続利用によって収益が安定化し、生産管理コストの適正化・顧客管理の自動化がすすむことで、より少ないコストでより大きな成果を実現できるようになるというものです。

 

フィッシュカーブ(フィッシュモデル)

リカーリングモデルの種類

リカーリングモデルには、比較的古くから行われてきたものから、近年新しく登場したものまでたくさんの種類があります。

 

BtoCで身近なリカーリングモデルといえば、サブスクリプション型のサービスですが、代表的なものには以下のような種類があります。

 

  • 新聞や雑誌の定期購読
  • 賃貸物件や月極駐車場
  • 通信料金(電話・インターネット)
  • 教育(塾・英会話スクール)
  • 会員制ジム・ゴルフクラブ
  • SaaS(ソフトウェア・アプリケーション)
  • デジタルコンテンツ(動画、音楽、書籍)
  • レンタルサービス(衣類やカバン、家電、車、バイク、カメラ、ドローン、ペット)
  • 消耗品(食品、ウォーターサーバー、ペットフード、コーヒー、髭剃りの替刃)

 

BtoBで扱われるリカーリングモデルは、おおまかに3種類、全部で5種類に分類できます。自社の事業内容に照らし合わせて、新しいビジネスモデル開拓のヒントにしてみてください。

 

定額 定額モデル リカーリングモデルで最も多く普及しているモデル。顧客は期間に対して料金を支払い、その期間内であればサービスが受けられる仕組み。
IoTによる従量課金 成果報酬モデル 顧客の成果に対してコミットメントをおこない、創出した成果に対する一定率の料金を請求するモデル。
融資・与信モデル 機器にIoTを搭載し、支払いが滞っている顧客の稼働を遠隔で止められるため、与信のないユーザーにも提供でき、貸し倒れによる損失も防ぐモデル。
業務代行 マネージドサービスモデル 運用から管理までを一括で請け負うことで顧客の業務を代行するモデル。
業界プラットフォームモデル 顧客のバリューチェーン全域をデジタル化するモデル。共通化できる作業においては、業界全体で利用可能なプラットフォームを構築する。企業の垣根を越えて協業するケースも。

リカーリングモデルとサブスクリプションモデルの違い

リカーリングモデルとサブスクリプションモデルは非常によく似ており、どこがどう違うの?と迷われる方も多いのではないでしょうか。結論から言えば、サブスクリプションモデルはリカーリングモデルのひとつです。

 

リカーリングは、直訳すると「循環する」「繰り返す」という意味です。顧客からの定期的な支払いによって成り立つビジネスモデルの総称で、従量制・定額制さまざまなものがあります。基本契約に対して、使用量にともって料金が決定する公共料金や、インクの購入が別途必要になる印刷機のリースなどもリカーリングモデルの代表的なもの。またサブスクリプションモデルのほか、ローン契約、レンタル・リースサービスなどもリカーリングモデルに含まれます。

 

サブスクリプションは、直訳では「継続購入」「定期購読」を表します。ユーザーが、ある一定期間内、定額で契約・支払いをすることで、製品やサービスを利用できるビジネスモデルです。ほかのリカーリングモデルとの違いとしては、定額制である点と、利用がなくても定額料金が発生する点があげられます。また契約期間に縛りのあるリースなどと違い、基本的には好きなときにいつでも解約可能。そのため、データ解析によってチャーンを防ぐ工夫をしたり、LTVを最大化できるよう顧客満足度向上をはかったり、といった観点からビジネスの成長をはかっていくのも特徴です。

製造業におけるリカーリングモデルの重要性とは

日本の製造業は従来からサービス化に取り組んできたものの、顧客にメリットを示せないことからうまく進まない側面がありました。しかし近年、IoT(モノのインターネット)によるセンサー解析や、5G(高速通信技術)による高速ネットワークといった技術進展により、これらの課題を乗り越え、製造業におけるリカーリングモデルの実現可能性も高まってきました。またこれらの技術革新によって新興国が躍進したことで競争が激化し、顧客ニーズも多様をきわめていることから、リカーリングモデルの重要性は年々高まっています。

 

製造業において、リカーリングモデルを導入することの重要性は、以下の3つのポイントに集約できます。

 

  1. 安定的な収益確保

 

従来の売り切り型モデルでは、顧客ごとに1回の購入機会に対して1回きりの納品のため、予測も立てにくく定期的な収益を得ることが困難でした。これに対してリカーリングモデルでは定期的な納品スケジュールを組み立て、定期的に収益を確保できる上、正確性の高い売上予測により長期的にビジネスを安定化できるようになります。

 

  1. 生産性向上

 

リカーリングモデルによって顧客の継続購入というサイクルを築くことで、売上予測の正確性を上げて、生産ラインを安定的に稼働させられるように。また生産プランの最適化ができれば生産性も向上、在庫管理の精度が上がることでロスを削減し、コストダウンにもつながります。

 

  1. 顧客ロイヤリティ向上

 

顧客の生活・ビジネスの上で必要不可欠となる製品やサービスに対して、リカーリングモデルを導入することで、継続的関係を確約できるようになります。また継続購入によって蓄積されるデータを解析すれば、顧客ニーズに対してより適切なアプローチも可能。顧客ロイヤリティを向上させ、製品やサービス・自社を「顧客にとってなくてはならないものにする」ための仕組みづくりができます。

 

参考記事:顧客ロイヤリティとは?重要性や向上させるためのヒントをご紹介!

製造業でリカーリングモデルが求められる背景

ここからは、製造業でリカーリングモデルが求められるようになった世界情勢・時代的な背景について、4つのポイントでお伝えしていきます。

デジタルテクノロジーの急速な進展

製造業でリカーリングモデルが求められる背景の1つめには、デジタルテクノロジーの急速な進展があります。近年、IoTAI(人工知能)の進化はめざましく、インターネットと接続したさまざまなモノのデータを、高い精度で自動解析できるようになりました。またMACRMなどのツールによって、顧客とのリレーション構築方法も大きく変化しています。

 

とくに製造業においては、5Gによる設備やフィールドセールスのIoT化が世界的に進んでおり、またそれぞれのITインフラも高い精度で連携できるようになりました。製造業が今後さらなる発展を遂げていく上で、まさにICTは避けては通れない道といえます。

 

実際に製造業においてこれらのデジタル技術を活用すれば、リアルタイムに顧客の状態を把握して、定期的なメンテナンスやアップデートをより適切なタイミングで提供できるようになります。顧客に快適な体験価値を与えるだけでなく、企業側も業務を効率化でき、本当に必要な業務に人手を割けるようになるのもメリットです。

 

このようにデジタルテクノロジーを活用してリカーリングモデルを導入することで、顧客との関係をより強固にして継続的な売上確保ができ、長期安定的なビジネスモデルが実現可能になります。

売り切りモデルの限界、所有から利用へ

2つめは、売り切り型のビジネスモデルが限界を迎え、業種・業態をとわず、世界規模でビジネスモデルが「所有から利用へ」シフトしていることにあります。

 

インターネットの普及やシェアリングエコノミーの発展により、ユーザーにとっては「モノを所有すること」よりも「利用によってどのような体験が得られるか」がより重視されるようになりました。近年の経済情勢によって、若年層や低所得層において、モノよりも体験を重視する価値観が強まっているのもその一因とされています。

 

さらにSDGsをはじめとする世界的な環境問題への取り組みにおいても、過剰な消費主義に対する批判的な意識は年々高まっており、顧客ニーズそのものも、よりエコロジカルな消費活動・ライフスタイルを求めるようになりました。この時流において売り切り型モデルは限界を迎えており、社会全体の「モノ」に対する意識が「所有から利用へ」と変化しつつある中、製造業のあり方も変容を余儀なくされているといえます。

製品・サービスのコモディティ化による収益低下

3つめには、製品・サービスのコモディティ化によって価格競争が激化し、収益が低下したことがあげられます。コモディティ化とは一般大衆化という意味で、市場がおなじような製品・サービスであふれ、それらの機能や品質だけでは差別化できなくなってしまうこと。製造業のマーケットにおいても例外なく、コモディティ化を原因とした収益低下を招いていることが課題となっています。

 

製品の低価格化は、たび重なる産業革命によって製造ラインの機械化が整い、大量生産が可能になったことで、世界規模ですすんできました。とくに近年の技術進歩はめざましく、世界の多くの製造業が、生産コストをおさえて、高い品質を実現できるようになっています。そのため、ブランド価値としての「日本の高い技術力」は、おなじ品質でより安く手に入る新興国製品にとってかわられつつあるのも現状です。

 

このように向かい風ともいえる製造業の現場を立て直すにはまず、収益性を高めることが喫緊の課題といえます。リカーリングモデルは、この収益の予測が立てやすい上、安定的な収益確保が可能になるため、国内外問わず大きな期待が集まっています。

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CXの重要性向上、NewNomal時代到来

4つめは、CX(カスタマーエクスペリエンス)の重要性が増したことです。先に説明した技術進展・ビジネスモデルや市場の変化により、顧客ニーズは製品・サービスだけでなく、これらを利用することで得られる体験価値に重きを置くようになりました。

 

顧客体験価値を向上させて競合と差別化をはかるためには、単に製品やサービスを提供するだけではなく、顧客の課題の発見から解決までに伴走し、顧客の自己実現をともに果たすCXやCS(カスタマーサクセス)の考え方が重要になってきます。

 

またコロナ禍において多くの企業が営業活動の困難につきあたったことは、顧客との関係性や顧客接点の創出を考え直すきっかけとなり、デジタルテクノロジーの進展を加速させました。これら一連の動きを表す、「NewNomal時代」の幕開けにより、顧客とより密接な関係性を構築できるようになったことからも、CXの重要性はますます重要視されています。

 

参考記事:サービタイゼーションとは?製造業をサービス化する重要性・事例や戦略をご紹介

製造業がリカーリングモデルにシフトするメリット

製造業がリカーリングモデルにシフトチェンジすることによって得られるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。以下2つの軸から見ていきます。

顧客の維持による収益向上

リカーリングモデルは、顧客と長期的関係性を築くことで事業の安定性を保てるビジネスモデルです。売り切り型ビジネスモデルでは、一度購入した顧客に対して、リピートしてもらうために再度アプローチする必要がありました。一方のリカーリングモデルでは、はじめから顧客に対して「継続利用」を取り付ける上、顧客の購入データなどをもとにレコメンドをおこなうことで顧客を囲い込みやすい点もメリットといえます。

 

また顧客との良好な関係性を維持するメリットは、「買うなら自社から買いたい!」と思ってもらうことで、アップセルやクロスセル、ご紹介といった選択肢によりさらなる収益向上が見込めることです。

 

自動化・最適化されたリカーリングモデルでは、顧客を維持することで、従来モデルでは得られなかった顧客データの収集・蓄積も可能になります。これらのデータによって製品やサービスの品質改善ができるだけでなく、マーケティング領域で活用することで収益向上に役立てられるはずです。

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コスト削減

製造業がリカーリングモデルにシフトすることで、顧客ニーズや購買頻度に合わせて生産計画を最適化できます。定期的な収益によりビジネスの見通しを立てやすいため、在庫を抑えられたり、生産ラインの効率化ができたりと、長期視点で考えればコスト・リソースの大幅な削減が可能です。たとえば売上予測を誤ったことで大量の在庫を抱えてしまう、逆に在庫が足りないために販売機会を失う、といったことも防げるようになります。

 

また新規顧客獲得は、広告費などコストのかさむ施策も多く、既存顧客維持に対しては5倍ものコストがかかるともいわれています。また既存顧客による継続購入を中心としたリカーリングモデルによって、収益が安定するのはもちろんのこと、顧客管理にかかわる工程の多くを自動化でき、人的コストを削減できるのも大きなメリットです。

製造業がリカーリングモデルにシフトする上での課題

製造業がリカーリングモデルにシフトする上で抱えている課題を、4つのポイントに分けてご説明します。

ビジネスモデルの構築

1つめは、新たにビジネスモデルを構築することのむずかしさです。まずはリカーリングモデルにシフトすることによって、従来の売り切りモデルに対してどのようなメリットがあるかを組織に示す必要があります。

 

とくにリカーリングモデルは導入初期にコストがかさんだり、安価な料金体系に変わることで収益が低下したりと一時的に経営が赤字になることも少なくありません。組織を動かすためには、従来モデルにおける成功法則に固執せず、モデルチェンジすることでより大きな成果を出せること、たとえば生産性の向上率や収益システムなどを、自社内でしっかりと示すことが重要です。

 

自社内のリソースのみでは足りない、モデルシフトするメリットを充分に提示できない、というケースも往々にしてあります。日本ではまだ少ないものの、世界的にはオープン・イノベーションへの取り組みが進んでおり、他社との連携によってこの障害を打開している企業も多いです。顧客の理想実現を優先し、他社連携も含めた柔軟なビジネスモデルを構築することで、自社の収益拡大につなげていく視点も必要になります。

人材の採用・育成

2つめは人材の採用や育成です。リカーリングモデルに着手しようと考えているが、どのような人材が必要かはっきり定義できない、といった企業は少なくありません。またリカーリングモデルにシフトする上では、顧客データの取得と解析により、顧客にとっての付加価値を定義する必要がありますが、実際にはこのプロセスを行えるスキルのある人材は市場において圧倒的に不足しているのが現状です。

 

必要な人材を明らかにするには、まずは自社がリカーリングモデルによって実現したい価値を明確化し、その上で必要となる人物像を定義し、人事部や事業部の垣根をこえて一致させましょう。

 

リカーリングモデルを推進する人物には、おおまかに以下のようなスキルが必要です。

 

  • ICTを活用してビジネスモデルを拡大する視野を持っている
  • 顧客の課題やビジョンに寄り添って提案ができる
  • データ解析を通じてビジネスモデルを検証できる
  • 顧客に導入効果を提示できる

 

すべてを兼ね備える人物を採用する・育成するのは短期的にはむずかしいため、必要に応じて外部リソースを活用するのも手段のひとつです。ただ基本的には自社内の人物が中心となって進めるため、自社内の人材にどのようなスキルがあり、またどのようなスキルが足りないかを明確化しておくのも大切です。

 

参考記事:製造業が人材不足になる原因とは?データからわかる実態や課題、解決策を解説

データの取得・活用

3つめは、どのようにユーザーデータを取得し、安全に活用するかといった点です。近年はIoTが進展したことで、機器自体にセンサーを搭載して、ユーザーの操作・行動データを取得することが可能になりました。たとえば、GPSや加速度センサーによって位置情報や移動記録を取得したり、スマートホームにより家電をインターネットにつなぐことで住環境に関する情報を蓄積したり、といった方法です。このデータ収集方法はさまざまな活用可能性を秘めている一方、プライバシーが含まれる情報であることから活用法が課題視されています。

 

とくに製造業においては、これらのデータは従来のビジネスモデルにおいて社内機密として取り扱ってきた「自社の競争力」の一部であると考える企業も少なくありません。そのため、データ取得を敬遠する顧客の行動変容を促すためには、データ取得によりどのようなメリットがあるかをわかりやすく示すシナリオ構築が必要不可欠といえます。

 

またこれらのデータや、データから算出できるアルゴリズムなどの知的財産がだれの所有物であるか、という議題についてはいまだに答えが出ておらず、データ取得における課題点のひとつです。リカーリングモデルを実現する上では、「データ取得によって自社の知財をとられてしまうのではないか」といった不安を抱く顧客に対してメリットを明示し、データ取得の連携スキームを構築する必要があります。

投資回収期間

4つめの課題は、リカーリングモデルでは、従来の売り切り型モデルのように、顧客の購入と同時には収益を回収しきれない点です。先に説明したフィッシュカーブでも示されるように、リカーリングモデルへシフトした初期には、設備やシステムを整えるためにある程度の投資額が必要になります。

 

また、売り切り型のビジネスでは販売が成立した時点でほとんどの収益を回収できる仕組みになっていますが、リカーリングモデルに用いられる月次の収益モデルでは、すべての収益を回収するのに非常に時間がかかります。そのためビジネス立ち上げ直後には赤字が続くことから、途中で断念してしまうケースも少なくないため、中長期的な視点をもって粘り強く取り組んでいくことが重要です。

 

収益化を加速させるためには、マーケットに沿ったビジネスモデルをいかに素早く展開できるか、マーケットに対して柔軟にビジネスモデルを切り替えられるかがカギとなります。

製造業がリカーリングモデルへシフトする方法

リカーリングモデルで収益化を成功させ、経営を軌道に乗せるために実践すべきステップについて説明します。

導入に必要なプロセス

製造業がリカーリングモデルを導入するために必要なプロセスは、おおまかに以下の3ステップに分けられます。

 

①製品・サービス選定と価格設定、ブランディングのためのパッケージング戦略

 

リカーリングモデルにおいては「収益化」が成功のカギを握っており、収益化するためには「どのような製品をラインナップするか」「どのくらいの価格で提供するか」の2点が重要です。分析した顧客ニーズに合わせて、リカーリングモデルに適した製品やサービスの選定と価格設定を行いましょう。

 

アンケートやフィードバックなどのデータを収集することで既存顧客のニーズを分析し、リカーリングモデルにおけるカスタマージャーニーを再設計することでより理解を深めていきます。また顧客ニーズに寄り添うのはもちろん、差別化のためにはブランドイメージを明示するパッケージ戦略も必要になります。質の高い製品や体験・高い満足度を提供しながら、価格の適正化をはかる意識が大切です。

 

②システムやサポート体制の整備

 

リカーリングシステムでは、定期的に購入するためのシステムが必要になるため、自社で提供する製品・サービスに対して、注文・契約処理を自動化できるツールの導入が望ましくなります。また継続購入によって収益を得るリカーリングモデルでは、顧客の満足度維持・向上も重要なポイントとなるため、サポート体制の整備も必須です。

 

そのため、リカーリングのモデルへの切り替えに伴い「カスタマーサクセス」に力を入れる企業も増えています。弊社もソフトウェアという無形商材ではあるものの、もともとはパッケージソフトから月額制のSaaSに切り替えてきた経緯があり、それに伴いカスタマーサクセスへの投資を進めました。同様に、製造業の企業もリカーリングモデルを取り入れるならば、従来のサポートからカスタマーサクセスへの変革が必要となります。

 

③マーケティング施策と、データ分析によるPDCAサイクル

 

リカーリングモデルにおいて継続収益を創出するためには、マーケティング施策によって顧客を維持する必要があります。この上でデータ分析は重要な役割を担っており、データ分析によって製品やサービス・製造ラインやシステムの改善点を洗い出し、適切なマーケティング施策をおこなうことで、PDCAサイクルをまわしていきましょう。

実装する上での注意点

製造業がリカーリングモデルを実装する上では、以下のポイントに注意して進めていきます。

 

  • マーケットのリサーチ、新規市場開拓を欠かさないこと。
  • 顧客ニーズ分析(既存顧客のログや属性など)を行うこと。
  • 適切な価格設定(市場調査とブランディングによる適正価格算出)を行うこと。
  • 顧客データの収集・活用におけるデータの取り扱い、セキュリティ対策を行うこと。

製造業がリカーリングモデルで成果を出すためのマーケティング戦略

リカーリングモデルにシフトチェンジするには、顧客維持、つまり「売れる仕組み」を支えるための「マーケティング体制強化」が必要になります。ビジネスモデルチェンジのハードルは決して低くないからこそ、リカーリングモデルで確実に成果を出すには、顧客体験・満足度を向上させる「マーケティング視点」での取り組みがとても重要です。ここでは、製造業がリカーリングモデルで成果を出すためのマーケティング手法についてご説明していきます。

CXの改善・向上

リカーリングモデルにおいては、顧客に継続的に利用してもらうことがなによりも重要で、そのためには優れた顧客体験「CX(カスタマーエクスペリエンス)」を提供する必要があります。リカーリングモデルをすすめる上で、CXを改善したり向上したりするためにできるアプローチは、たとえば以下のようなものがあります。

 

  • 自動支払い・自動契約更新など顧客がより快適に利用できるシステムの導入
  • メール・Webコンテンツ、セミナーなどを通して顧客にとって役立つ情報提供
  • 顧客の利用データをもとに、興味関心・趣味嗜好に対してカスタマイズされたアプローチ
  • アンケートの実施と分析、会員向けの丁寧なサポートサービスの提供
  • SNSマーケティングにおけるコミュニケーションの構築
  • 会員特典やキャンペーン

 

これらのアプローチは、必要に応じて複数を組み合わせて行うことで効果を最大化できます。データドリブンのマーケティング施策によって、顧客とのつながりを強化し、CXを向上させていきましょう。

 

参考記事:CX(カスタマーエクスペリエンス)とは?定義、UI・UX・CEとの違い

キャンペーン/プロモーション施策

リカーリングモデル存続のためのポイントとして、

 

定期的なキャンペーンやプロモーション施策を実施することで、顧客の継続利用を促します。以下は、リカーリングモデルで実践しやすく、効果の出しやすいキャンペーンやプロモーション施策の一例です。

 

  • フリートライアルキャンペーン:新規顧客獲得
  • 初回割引キャンペーン:新規顧客獲得
  • ◯ヶ月無料キャンペーン:新規顧客獲得
  • アップグレード特典◯%割引キャンペーン:既存顧客のアップセル
  • お友達紹介キャンペーン:既存顧客の満足度向上+新規顧客獲得
  • ポイント付与:一定数の期間や購入でポイントを付与し、割引に利用できる。満足度向上+チャーン回避
  • ステータス付与:一定数の期間や購入で顧客のステータスが上がり、特典が受けられる。満足度向上+チャーン回避

 

キャンペーン・プロモーションごとに付与する特典には、製品やサービスの割引だけでなく、イベント招待や会員ランク限定のコンテンツ、ステータスに応じた割引率アップなどがあります。

データ分析によるカスタマイズ

リカーリングモデルの運用・改善においては、データ分析の結果を用いてカスタマイズを行う必要があります。とくに顧客ニーズの多様化する現代では、画一的なマーケティング施策では効果が得られなくなってきました。またせっかくマーケティング施策を行っても、データ分析による検証を行わなければ、成果につながっているかの判断もむずかしくなります。

 

  • 顧客のビジョンや課題
  • 顧客の企業規模・業界・決済者などの属性
  • 顧客の購入データ(興味・関心や趣味嗜好、傾向)
  • 顧客からの要望や不満などのフィードバックデータ
  • どの製品が売れている・どの製品の売上が落ちているなどの製品ライフサイクル

 

このようなデータを分析して、製品・サービス・提供方法・生産企画・在庫管理などに反映させれば、より高い顧客価値を提供できるようになります。また、経験などにもとづく主観的な判断だけに依存せずに、客観的な意思決定をするためには、これらのデータ分析が非常に重要です。

 

参考記事:BtoB製造業におけるデジタルマーケティングの第一歩!施策・成功事例から組織づくりまで

製造業におけるリカーリングモデル導入企業事例6選

製造業においてリカーリングモデルを導入し、成果を出している企業の事例を6つご紹介します。食品やロボット、乗り物から農業まで幅広い企業の事例を参考に、ぜひ自社のリカーリングシフトのヒントとしてお役立てください。

ゼネラル・エレクトリック(General Electric)-飛行機

ゼネラル・エレクトリック社(General Electric/GE社)は、アメリカに拠点を置く、ハイテク産業メーカーです。同社は、世界中の航空会社で採用されている航空機用エンジンをはじめとして、鉄道の車両や信号機、発電用タービンやジェネレーター、エネルギー関連製品から医療用装置まで、幅広いラインナップの製品を製造・提供しています。

 

同社は製品の販売のみにとどまらず、製品のアフターケアやメンテナンスなどの保守サービスを、リカーリングモデルとして提供しています。IoTを活用した同社の有名なサービスのひとつに、航空機エンジンに搭載したセンサーから、エンジンの状態をリアルタイムで監視することで高い安全性を担保し、メンテナンスの最適化を行うというものがあります。

 

自社製品に対して定期的なメンテナンスを実施するプログラムを提供し、アフターフォローすることで、製品の寿命をのばすだけでなく、顧客のビジネスをサポートしながら高い収益性を実現しています。

ケーザー・コンプレッサー(KAESER Kompressoren)-圧縮空気

ケーザー・コンプレッサー社(KAESER Kompressoren)は、1919年創業、ドイツに本社を置くコンプレッサー(圧縮空気システム)専門メーカーです。圧縮空気とはモーターやシリンダーを動かす動力として使われるもの。また同社はほかにもフィルターやドライヤー、真空ポンプなどの製品も開発しており、世界中の産業で活用されています。

 

同社は、圧縮空気システムのリース・レンタル・購入から運用・保守・修理までのあらゆるプロセスを、リカーリングモデルとして提供しています。圧縮空気システム「シグマ・エア・ユーリティ」は、半導体業界や食品加工、薬品などのあらゆる製造業で活用されており、顧客は安定した圧縮空気の供給が受けられるだけでなく、リカーリングモデルならではの総コスト低減というメリットも享受できます。同時に、同社は顧客が利用した圧縮空気の量に合わせて、安定的な収益を得られるようになりました。

 

特筆すべきは、圧縮空気の提供・保守・修理と一貫したサービス提供から顧客の状況をより詳細に把握できるようになったことで、顧客の事業課題によりフィットするサービスを提供し、多くの競合他社との差別化に成功している点です。顧客の課題に対する理解力や解決力、利便性など、高い品質を訴求したことで、顧客にとって唯一無二のパートナーとしての地位を確立しています。

ゼネラルモーターズ(General Motors)-自動車

ゼネラルモーターズ(General Motors/GM社)は、シボレー(Chevrolet)やキャデラック(Cadillac)といった自動車ブランドでも有名な、アメリカの自動車メーカーです。1908年に創業以来、いまでは世界的に有名な自動車メーカーとして知られています。

 

同社が提供する代表的なリカーリングモデルは、1960年代ごろから提供されてきた、車両のリースプログラム。一括高額購入のイメージの強い自動車をリースプログラムで提供することで顧客の購入ハードルをさげることに成功しました。

 

またリースは最終的に車両を買い取ることのできるモデルですが、近年では、サブスクリプションサービスやカーシェアリングサービスなど体系の異なるリカーリングモデルにも積極的に取り組んでいます。同社が提供する「Maven」は、顧客のニーズに合わせた利便性の高いサービスで、自動車の長期レンタルからカーシェアリングなど柔軟な利用プランを提供。これらのサービス提供により顧客ニーズを把握し、新たなビジネスモデルの開拓をはかっています。

ディア・アンド・カンパニー(D&C)-農業

ディア・アンド・カンパニー(D&C)は、1837年に設立されたアメリカの農業・建設機械のメーカーです。

 

同社は、2013年にプラットフォーム「MyJohnDeere」を発足し、それまでの「農業機械の販売」から「データ事業」へと大きく舵を切りました。農場経営者に対して、農機だけでなく「農作業のデータ」「天候情報」などから割り出した作業計画立案を提供するリカーリングモデルを提供しています。

 

具体的には、農機の動きを遠隔でモニタリングすることで、現場の作業員に対して作業効率をあげるための指示やサポートも行っています。農機には通信機器が搭載されているため、使用状況データを常に収集可能。さらに同社が販売する土壌監視装置で、水分量や気温などの情報も取得し、これらの情報はプラットフォーム上で顧客が扱えるようにしています。

 

ICTを使って農業を効率化したことで、農場を総合的にマネジメントできるプラットフォームを提供したことで、利用者の利益向上に貢献しています。また収集したデータを広く販売することでも収益を安定化させながら、農業全体の発展にも役立てており、データ販売によってもリカーリングモデルを強化させている成功事例といえます。

エービービー(ABB)-ロボット

エービービー(ABB)は、1988年に誕生したスイスの企業で、製造業・エネルギー業などの幅広い業種をターゲットに、電力やロボットを中心に事業展開しています。

 

同社が取り組むリカーリングモデルは、2本の腕をもつ産業向けロボットの提供により、工場の人手不足を解消するもの。具体的には、頻繁に組み立て工程の変わる、スマホや時計などの組み立て作業に用いられ、これまで人が行ってきた手作業を正確に再現できます。

 

同社はロボットとともにいくつかのサポートサービスも提供しており、ロボットを遠隔視するサービス「Connected Service」を活用すれば、異常発生の際もサポートセンターからすばやく指示を仰ぐことができます。さらに「EXTENDED CARE」で遠隔の技術サポート、ロボットの一括管理が可能。ロボット運用、生産業務や管理コストが一元化されるためコストが明確化するのは、顧客にとっても大きなメリットとなっています。

 

またターゲット業界にリーチするため、ロボット提供だけでなく、操業データ取得・分析により業界内のプラットフォームを構築し、販売モデルに組み込んでいるのも特徴です。遠隔サービスの提案を通して顧客のメリットを訴求する手法は、これからリカーリングモデルにシフトしたいと考える企業の参考になるはずです。

クラフトフーズ(Kraft Foods)-食品

クラフトフーズは食品製造メーカーで、顧客に対して、定期的に購入してもらうリカーリングモデルを取り入れることで売上を伸ばしてきました。具体的には、食品のサブスクリプションモデルを導入し、定期的にフードボックスを届ける仕組みを取り入れることで収益を安定させています。

 

フードボックスの商品内容は、同社の定番商品のほか、ワクワクするような季節限定の特別商品を提供することで顧客満足度向上を目指しています。また定期的に配信するメルマガにおいて、商品情報だけでなくお得なクーポンを付与。商品購入に対しては、商品やギフトカードに交換可能なポイント付与など、繰り返し購入してもらえるようなマーケティング施策も実施しています。

まとめ

製造業のリカーリングモデルについてご説明しました。

 

自社の製品やサービスに誇りを持っているものの、近年テクノロジーの急速な発展により顧客ニーズが大きく変化していること、高品質の新興国製品がマーケットに台頭していることから、企業の今後に不安を感じる方も少なくないのではないでしょうか。

 

リカーリングモデルを導入することは、現在抱えている多くの課題を解決するヒントになるだけでなく、顧客との関係性を見直し、企業の大幅な成長を実現するカギとなるはずです。抜本的な改革がむずかしい、というケースであっても、顧客管理やマーケティング施策など身近なファクターからシステム化してみることで、自動化によるメリットを実感できるかもしれません。ぜひ自社のビジネス成長のヒントとして、参考にしてみてください。

 

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  • この記事を書いた人
  • エムタメ!編集部
  • クラウドサーカス株式会社 製造業マーケティング課

    プロフィール :

    2006年よりWeb制作事業を展開し、これまでBtoB製造業を中心に2,300社以上のデジタルマーケティング支援をしてきたクラウドサーカス株式会社のメディア編集部。53,000以上のユーザーを抱える「Cloud CIRCUS」も保有し、そこから得たデータを元にマーケティング活動も行う。SEOやMAツールをはじめとするWebマーケティングのコンサルティングが得意。

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