サービタイゼーションとは?製造業をサービス化する重要性・事例や戦略をご紹介
最終更新日:2023/10/26
サービタイゼーションとは、「製造業のサービス化」のこと。製品を買ってもらって終わりではなく、製品利用をサービスとして提供し続けるビジネスモデルです。
近年はさまざまな業種で、自社製品を月額制のサービスとして提供する「サブスクリプションモデル」が広く一般に浸透してきており、製造業においてもこのような事業形態に取り組む企業は増えてきました。
本記事では、サービタイゼーションが求められる時代背景から、国内外の企業の成功事例、サービタイゼーションにシフトする手順やポイントについて、わかりやすく解説します。
・サービタイゼーションってなぜ重要なの?
・サービタイゼーションって何から始めたらいいの?
・サービタイゼーションにはどんな事例がある?
こんな疑問を抱えている方には特におすすめです。ぜひお役立てください。
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目次
サービタイゼーションとは
サービタイゼーション(servitization)とは、「製造業をサービス化すること」を意味します。従来の製造業が「製品を売ること」を目的としてきたのに対して、サービタイゼーションは、「製品とそれに付随するサービスを売ること」を目的としています。製造・販売から保守管理まで一連のプロセスを「技術力」として売ることで、販売後も取引継続を目指すビジネスモデルです。
近年サブスクリプションというビジネスモデルは広く一般に定着しました。実際に、以前は私たちが購入していたCD・車・衣服などの「モノ」は、今では月定額料金制の「サービス」として享受できるように大きく変化してきました。その中で顧客は、従来の「購入がゴール」の売り切りビジネスの時代とは異なり、購入前〜購入後すべてにおける顧客体験価値を重視するようになり、その傾向は年々強まっています。
とくに「製造業領域」でのサービス化が重視されている理由に、製品そのものの収益性が低下したことがあげられます。ICTの進展なども影響して、低価格かつ高品質の新興国製品がマーケットに台頭し、日本製品の相対的価値が下がってきていることもまた事実です。このような時代背景については、次章から詳しく解説していきます。
サービタイゼーションが求められる背景
製造業で「サービス化」があらためて注目を集めているのには、どのような時代の変化の影響があるのでしょうか。ここでは、サービタイゼーションが強く求められるようになった理由について、3つのポイントに分けてご説明します。
モノからコトへ。CXの重要性
国内外を問わず、ユーザーの消費行動の対象が「モノからコトへ」移行していることは、サービタイゼーションを加速させている大きな要因です。大量のモノがあふれる現代で、ユーザーは「モノを所有すること」自体に価値を見出さなくなりつつあります。顧客が重視するのは製品を使うことで得られるメリット、つまり「モノによって得られる体験」=「コト」に移りつつあるのです。
ユーザーが製品を通じて得る体験のことは、CX(カスタマーエクスペリエンス)と表現されますが、このようにビジネスモデルがシフトしていく中、CXはさらに重視されるようになりました。もちろん製品そのものの機能や品質を高め、購入後のアフターフォローを行うという点は従来のビジネスと変わりません。その上でサービタイゼーションは、製品の利用を通して実現できる「顧客のビジョン達成」までを見通し、戦略に落とし込むのが特徴といえます。
具体的には、顧客の業務フローを知ることで課題を抽出し、導入後のサポートや改善への導きを提供することで、「さらなる付加価値の創出」を目指しています。複雑化する顧客の課題に伴走して顧客の自己実現をサポートし、CXを向上させることは、競合他社の中で優位性を示すことにもつながります。
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ICT・産業革命・スマートファクトリー
近年ICT(情報通信技術)が急速に進展したこと、産業革命によってスマートファクトリーが実現したことも、サービタイゼーションが求められる背景にあります。
製造業のサービス化自体は、実はそこまで新しい概念ではありません。実際に、製品購入後の「定期メンテナンス」を原価におりこんだ料金体系のサービスは多くの企業が訴求してきました。しかし顧客に提示する金額が高額になってしまい、コスト相応のメリットを提示するのがむずかしく、なかなか浸透しませんでした。
しかしICT、デジタル技術の進展によって、このメンテナンス手法自体が大きく変化しました。「IoT(モノのインターネット)」によってさまざまなモノがインターネットでつながり、センサーを通してデータを取得するため、機器の状態に合わせたメンテナンスが可能に。また低遅延の高速インターネット「5G」によって、画像データなどの重たいデータも瞬時にやりとりできるようになったことで、遠隔操作も可能になりました。
このようなメンテナンス手法の改革によって、問題が発生した場合のみに保守作業を行えるようになったため、企業顧客双方のコストを引き下げることを実現しました。さらに定期メンテナンスによって機器停止なども不要になるため、顧客にとってはサービタイゼーションを提供する企業を選ぶメリットが大きくなっています。
製品のコモディティ化
製品のコモディティ化もまたサービタイゼーションが強く求められる理由のひとつです。コモディティ化とは「一般大衆化」といった意味で、市場競争が激化している近年、製品の品質だけでは差別化がはかれなくなってきた現状をあらわしています。
高度経済成長期から、高い品質を強みとして市場拡大してきた日本の製造業の多くは、売り切りモデルを採用しているのが現状です。しかしテクノロジーの進化によって、東南アジアをはじめとする新興国企業が高品質製品を生産し安価で販売できるようになった現在、圧倒的な品質の差だけでは差別化がはかれなくなってきました。
日本製品の品質の高さは以前として世界をリードしているものの、その優位性が相対的に低下したことで、製品のコモディティ化は深刻化しています。グローバル市場においては、サービタイゼーションにシフトすることで顧客の嗜好性を加味したレコメンドをおこない、顧客の囲い込みをしていく必要性がでてきているのです。
サービタイゼーション実現を支えるデジタルテクノロジー
製造業のサービス化を実現するには、あらたなメンテナンス手法に着手する必要があることは前章でもお伝えしました。ここではサービタイゼーション実現に欠かせない、主要なデジタルテクノロジーについてそれぞれご説明します。
IoT(Internet of Things=モノのインターネット)とは、現実空間に存在するありとあらゆるモノのデータを取得するための技術です。たとえばセンサーが搭載された機器をつかって、環境(温度・騒音など)、モノの動きや位置、ドアの開閉、植物の水やりなどの情報を、インターネットを通じてリアルタイムで取得できます。
そのため実際に目視して確認しなくとも、顧客が利用している機器の状態を見える化し、製造業者と顧客の間で共有することができます。メンテナンスコスト削減はもちろん、顧客のワークフローを把握するのにも役立ちます。
AI(Artificial Intelligence=人工知能)は近年ますますその精度を上げ、IoTなどで収集した大容量のデータを解析して、未来的な予測にまでつなげることができるようになりました。とくに深層学習(ディープラーニング)技術が躍進したことで、いくつかのパターンを把握させて学習させることで、バラつきのある大量のデータも適切な判断が可能に。製造業においてプロセス管理を効率化することや、リアルで複雑な再現・シミュレーションを行うことで未然に機器トラブルを検知し、改善点の洗い出しにも役立っています。
5G(5th Generation=第5世代移動通信システム)は次世代の高速通信システムです。従来のインターネット通信より高速かつ低遅延・多接続を強みとしており、インターネット上で大容量データを扱うサービタイゼーションにおいては欠かせない要素といえます。
5Gを活用することで、IoTから取得した現実空間のさまざまなデータを高速でクラウドにあげられるため、リアルタイムで顧客の機器の状態を把握しサービス品質を保つために欠かせない要素といえます。
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サービタイゼーション日本企業事例6つ
大企業をはじめとして、サービタイゼーションにビジネスモデルをチェンジしたことで成果を出している企業は数々あります。ここでは、5つの日本企業の事例をご紹介します。
トヨタ
2022年も自動車の販売台数世界1位と自動車産業のトップを走るトヨタは、日本国内においてもサービタイゼーションに取り組む先進企業のひとつです。
「トヨタ・コネクティッドサービス」では、自動車とインターネットを接続し、車両の状態をリアルタイムで遠隔監視しメンテナンスをおこなうといったサービスを提供しています。顧客に対して、車両をいつでも安心・快適に利用できるという付加価値を与えています。
自社製車両による「トヨタレンタカーサービス」は、顧客の一時的に利用したいというニーズに応えるだけでなく、新車購入の際の試乗としても活用可能。カーシェアリングや交通インフラ管理を可能にする「トヨタ・モビリティ・サービス」では、専用のモビリティプラットフォーム「KINTO」を採用しており、顧客にとってベストな移動手段を提案することで、シームレスな移動体験を提供しています。
同社はサービタイゼーションの視点から、自動車の生産にとどまることなく、顧客のニーズに合わせた付加価値サービスの提供・CX向上にも注力していることがわかります。
ブリヂストン
ブリヂストンは、世界売上トップを誇る日本のタイヤメーカーです。同社も、サービタイゼーションとしてさまざまなサービスを提供しています。
同社は、バス・トラック事業者向けサービスとして、IoTによるセンサーでタイヤの空気圧・温度をモニタリングするデジタルソリューション「Tirematics」を提供しています。クラウドを通じてタイヤの摩擦や温度情報などを顧客と共有できるため、トラブルを未然に防止しながら車両稼働を最大化しました。適正なメンテナンスサイクルにより、高い資源生産性を保ち、環境保全の面からも訴求しています。
そのほか、同社はタイヤに関するデータ(顧客の装着しているタイヤの情報、保有する車両数から割り出したタイヤ需要、点検結果など)を管理するためのデジタルプラットフォーム「Toolbox」を提供しています。また使用によって摩耗したトレッドゴムを貼り替えて、機能性を復元しタイヤを再使用するまでのプロセスを、リアルタイムに把握し分析できる管理ツール「BASys」を導入することで、業務の効率性を高めています。
同社はタイヤメーカーとしてはもちろんのこと、CXや持続可能性にも重点を置き、自動車やモビリティに関連するさまざまなサービスを発展させています。
ダイキン
エアコンメーカーとして広く知られているダイキンは、日本の総合メーカーです。主に空調設備を生産しており、世界150か国以上で事業の幅を広げています。
同社が提供する「ダイキン グローバルプラットフォーム」は、IoTを活用した空調機のクラウドサービスです。同社の空調設備は、IoTによりインターネットに接続することで、稼働状況をクラウド上で一元管理し、遠隔で故障点検などのサービスを提供しています。さらにこれらの稼働状況から収集したデータを即時解析し、自動制御を行うことで、「常に快適な空調環境」という顧客体験を実現しました。
もともと行っていた「空調機の販売」から、「空調機を活用して、より顧客ニーズにフィットした付加価値を提供する空調ソリューションサービス」へと、ビジネスモデルの変革に成功した事例です。
クボタ
農機メーカーであるクボタが取り組むサービタイゼーションは、IoTによって農機をインターネットに接続し、土壌や作物収穫量の管理をサポートする「KSAS(クボタ・スマート・アグリ・システム」です。日本は大阪を拠点として、世界中にサービスを提供しています。
「KSAS」は農家向けのスマートファームソリューションサービス。IoTが搭載されたクボタの農機を使えば、インターネット上の地図データをもとに、農地情報や作業記録などのデータ収集を自動的に行います。これらのデータをAIが解析することで、作物の収穫量アップや、品質自体の向上も支援しています。
もちろん農機そのものの稼働率もリアルタイムで監視しているため、故障などを未然に防ぎメンテナンスコストをおさえ、収量の最大化にも役立っています。農機を通して農場を包括的にマネジメントすることで、利用者の利益にも大きく貢献しているサービタイゼーション事例のひとつです。
沖電気工業
沖電気工業は、東京に本社を構える大手電機メーカーです。通信機器をはじめとし、ATMなどの情報機器を主に製造・販売しています。
同社が取り組むサービス化事業は「Advanced M&EMS」。「M&EMS」は「Mechatronics & Electronics Manufacturing Service」の略称で、メカトロニクスから取り組んできた同社の強みを名前に組み込んでおり、商標登録もされています。
具体的には、建物や施設のエネルギー使用状況をリアルタイムでモニタリングし、エネルギーの消費パターンや使用効率を監視し、効率的なエネルギー管理をサポートするソリューションです。さらにデータ解析によって、エネルギー消費の最適化や省エネルギー対策を提案します。
長年にわたる情報通信分野のものづくりで培った、自社のノウハウや生産能力、高い信頼性をサービスとして提供するEMSというビジネスモデルによって、他社との差別化をはかることに成功しました。
古野電気株式会社
古野電気株式会社は、兵庫県に本社を構える電子機器メーカーです。 舶用事業を展開しており、大型商船をはじめとする漁船・小型ワークボートといったさまざまな船舶に対して、海洋関連機器を開発、船舶用電子機器・サービスを提供しています。
同社の取り組むサービタイゼーションは、「生化学自動分析装置」で、医療機器のひとつです。ヒトの血液中のさまざまな成分を精密測定できるものですが、このデータを個人情報を保護しながらクラウド上で扱えるようにしたことで、データ活用の可能性を広げ、付加価値を生み出しました。医療分野の臨床試験や研究機関などで、正確かつ迅速な診断・治療の実現に役立っています。
サービタイゼーション海外企業事例2つ
サービタイゼーションへの取り組みは世界的に進められており、すでに取り組んで成果をあげている企業は多く存在します。ここでは海外企業の成果事例についてもご紹介します。
Apple
洗練されたデザインのPCやスマートフォンなど、さまざまな製品の製造〜販売を行うApple。同社ではユーザーがこれらの製品を購入した後も、同社が提供するサービス・エコシステムを通じてユーザーに対して継続的に付加価値を提供するサービタイゼーションに取り組んでいます。
「Apple Music」はいわずとしれた月次課金制の音楽ストリーミングサービスです。ユーザーは数百万曲の音楽やラジオ番組、アーティストコンテンツなどを好きなだけストリーミング再生でき、ユーザーごとのプレイリスト作成といった機能も利用できます。
「Apple Pay」は同社の端末によって支払いができるデジタルウォレットサービスで、端末にカード情報を登録すれば、店頭からオンラインショップまで、手軽で簡単に支払いができる仕組みを提供。データ保管ができる「iCloud」では、撮影した写真・動画などのデータを保存して複数デバイスで共有できるだけでなく、バックアップ機能によりデバイスの故障時にもデータ復元を可能にしました。
さらに「App Store」で提供されるさまざまなアプリケーションをダウンロードすれば、ユーザーはスマホを多岐にわたる目的に使用できます。これによりユーザーのスマホの使用用途の幅を広げるだけでなく、同時にアプリ開発者に収益化のチャンスを提供しています。
このように広範なエコシステムを形成し、製品のブランディングだけでなく、あらゆる方面から自社製品をサービス化することで、多くのユーザーの囲い込みにも成功している事例といえます。
ロールス・ロイス
ロールス・ロイスは、航空エンジンをはじめとする、エネルギー関連機械を製造販売する会社です。ゼネラルエレクトリック、プラットアンドホイットニーと並ぶ世界三大航空エンジンメーカーのひとつです。
同社は、製品の製造・保守・整備すべてのプロセスにおいてデジタル技術を活用しており、中でもとくに注力されているのが販売後のアフターケア・メンテナンスなどのサービス分野です。ロールス・ロイスは約20年前からこれらのサービスを「トータルケア」として提供してきました。
サービタイゼーションの取り組みとしては、航空機エンジンを使用した飛行時間に応じて料金を請求する従量課金サービス「パワー・バイ・ザ・アワー」が有名です。IoTを活用しエンジン内のあらゆる箇所でセンシリングを行いデータを蓄積、エンジンの稼働状況を把握することで安全を担保し、同時にメンテナンスの最適化も実現しています。エンジン自体を販売しないため資源循環性も高く、消耗品のメンテナンス・交換サービスも含まれているのがこのサービスの特徴です。
またこれらのデータはエンジンの予兆保全のみならず、効率的なフライトパターンを分析する上でも役立てられています。
サービタイゼーション戦略構築の手順
サービタイゼーションへシフトするのは簡単とはいえませんが、段階的な転換プロセスを踏んでいくことで、改革による負担を最小限に抑えられるはずです。
サービタイゼーションを進めるには、それぞれ個別に提供していた製品とサービスを統合していき、その過程において、サポートやトレーニング、プラットフォームでの顧客のセルフマネジメントすべてを束ねていきます。具体的な戦略策定の手順は、以下のような手順で行います。
- 自社の強みの洗い出し
- ビジネスモデルを仮定(顧客ニーズ・提供価値・収益モデルなど)
- テスト運用と検証
- パートナー企業選定・エコシステム構築
- 事業開発プロセス・事業モデルを標準化
また実際にサービタイゼーション戦略を構築する上で、気をつけておくとよい2つのポイントについてお伝えします。
サービスの方向性策定
サービタイゼーションの戦略構築において大切になのは、顧客に一方的に製品の価値を与えるのではなく、顧客とビジョンを共有して価値共創につとめる考え方を理解することです。その上で、自社がサービタイゼーションで何を実現したいかを明確にし、どのような方向性でサービスを展開するかを策定します。
方向性の例としては以下のようなものがあります。
● 製品重視:製品を中心に位置付け、製品のカスタマイズ性や、メンテナンス・アフターフォローを充実させるサービスの方向性。
● マーケティング重視:CX強化を戦略の核に据えて、ブランド体験を通して自社製品の魅力を伝え、カスタマージャーニーを最適化するサービスの方向性。
基本的には自社のサービタイゼーションにおける目標と、現時点でのリソースを明らかにして、どのような方向性が戦略として有効かを見極めましょう。
組織の改新
サービタイゼーションは製品をサービスとして提供するビジネスモデルです。そのため、これまで製品製造を主な事業としてきた企業が、そもそもサービス提供を専門とする部門を持っていないというケースは少なくありません。とくに製造業の中小企業などでは、カスタマーサポートの組織化が必要になる場合も多くあります。
具体的には、もともとある事業部門に顧客サービスの機能を取り入れたり、またはあらたに顧客対応チームを設置したりするケースが多いでしょう。人材リソースが限られる場合は兼務体制で行われることも。前項でお伝えした自社の強みや、サービスの方向性をふまえ、効果的な方法で組織の再編成を行います。
サービタイゼーションによって得られるマーケティング効果
製造業がサービス化することで、企業の営業・マーケティング戦略の上でも非常に大きな効果を得られるはずです。以下3つのポイントでお伝えします。
顧客ニーズに最適なサービス提供
「サービタイゼーション」という一連のプロセスに取り組むことによって、より顧客ニーズに的確なサービスを提供できるようになります。
製品売り切りモデルでは、顧客が購入した時点でプロダクトは製造者の手を離れ、定期メンテナンス以外ではその状況を把握することができませんでした。しかしデジタル技術によってサービス化された製品提供においては、顧客の運用データがリアルタイムで取得可能に。予知保全サービス・最適化アドバイスなど、顧客のニーズに合わせた個別化サービスの提供が可能です。
さらにユーザー自身が利用可能なサービスプラットフォームを提供することで、より顧客ニーズにフィットしたサービス提供が可能になります。顧客自身がプラットフォームを通じて製品のカスタマイズから発注、サービスのリクエストなどを行える仕組みを整えましょう。顧客の業務フローに、自社製品の活用とそれに対するフォローを組み込むことで、顧客との関係もより強化できるはずです。
プラットフォームの提供においては自社のリソースに限らず、パートナー企業と連携することで、ユーザー視点で最適な付加価値サービスを提供できるかもしれません。
満足度・リピート率・ロイヤリティ向上による収益安定化
サービタイゼーションにビジネスシフトしていくことで、製品プラスアルファの価値提供が可能になり、顧客の満足度やロイヤリティ向上に寄与します。
サービタイゼーションは、一様に同じ製品を販売するのではなく、顧客のニーズに合った形で製品を提供していくビジネスモデルです。サービタイゼーションでは顧客の利用データを分析して提供するサービスをブラッシュアップしていくため、顧客は製品の性能以外にも高い付加価値をうけとることができます。また売って終わりではなく、製品をサービスとして継続利用してもらうビジネスモデルでは、顧客と良好な関係をつみあげていくことが収益安定化につながるのもメリットです。
顧客との長期的関係を築くためには、製品の利用・メンテナンスを含むアフターフォローはもちろん、製品のカスタマイズ・データ解析・トレーニングコース・コンサルティングプランなどさまざまなアプローチが考えられます。顧客の課題解決や自己実現に伴走することでロイヤリティを向上させ、ユーザーの「使いたい」という気持ちを高めていきましょう。
新たな収益源・ビジネスモデルの確立と競合との差別化
サービタイゼーションを実現できれば、製品の販売数だけに依存することなく、新たに収益源を得られるのも大きなメリットです。
たとえば、製品とその周辺サービス・サポートを組み合わせることで、顧客の微細なニーズに応じたトータルソリューションの提供も可能になります。
この場合注意したいのは、自社プロダクトを起点に戦略構築すると、提供できるサービスの限界値が決まってしまい、顧客ニーズに対する訴求力が弱まってしまうことです。自社の魅力を最大限に示し、顧客に対して高い価値提供をするためには、他社との連携が必要になることも少なくはありません。自前志向に固執せず、ユーザー起点でのサービスを展開していくことで、ひいては競合他社との差別化をはかることができ、市場での競争力を強めることができます。
サービタイゼーションへシフトする上での課題
サービタイゼーションにビジネスシフトしていく上で、課題となりやすいポイントについてもお伝えします。
人材や技術の確保
サービタイゼーションにおいて、ユーザーの情報解析を行うプロセスは必要不可欠です。もちろんAIによって自動化されつつある領域とはいえ、正しく運用するには専門的な人材リソースも必要になります。>かし実際に日本で、デジタル技術に関する知見、製造業の事業における経験、この両方を持ち合わせている人材を見つけることは非常にむずかしいのが現状です。
こういったケースでは、自社内でサービタイゼーションを推進する事業部門の人材が中心となってプロジェクトを立ち上げ、外部リソースを導入し、自社で何を行いたいかを伝えていくことが適切です。またこのとき重要になるのが、社外の人材が変革をリードできるよう、柔軟でオープンな社内文化を醸成していくことといえます。
人材確保においては、まずは自社にどのような人材(技術)がいて、どのような人材(技術)が足りないのかを把握し、必要な人材の要件を、人事部・事業部がともにすり合わせながら策定していくことが大切です。さらにサービタイゼーションで必要となる、「顧客の課題を抽出し解決に導くスキル」「顧客の自己実現に伴走するスキル」を習得するためには、座学だけでなく、eラーニング×OJTといった現場でのプロジェクトを通じて習得できるような機会を設けることも必要です。
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サービタイゼーションを実現させる上で難しさをともなう点として、製品とサービスをシームレスに統合し、そのバランスをとることが挙げられます。いくら質の高い製品をつかっていても使いやすいサービスとして落とし込めていないケースや、またその逆も然りと、サービタイゼーションにおいて陥りがちな問題といえます。
製造業の多くの現場においては、開発・生産ノウハウや高品質の製品を強みとする一方で、顧客の自己実現に伴走するスキルセットは不足している傾向があります。顧客ニーズを正確にキャッチし、最適なサービス提供を続けるには、顧客との対話が必要不可欠です。人材育成やツール選定も含めて、サービタイゼーションにモデルチェンジすることで自社が何を達成したいか、実現に必要な要素はなにかを明確にする必要があります。
またサービタイゼーションに移行する上ではデジタルツールの活用も必須項目といえます。とくに、デジタルツールに関して知見のある人材リソースが足りない、といった場合にはツールを提供するベンダーのサポート体制なども確認しておきたい点です。ツール選定の上では、サービタイゼーションで達成したい目的やそれを達成するためのサービス戦略を明確にし、なおかつ自社の規模感にあったツールを選ぶのが成功の秘訣といえます。
まずはできるところから「サービタイゼーション」を
製造業のサービス化、サービタイゼーションについて解説しました。
かつては高額なメンテナンスコストからメリット訴求が弱く、製造業において浸透をはかるのは困難とされてきたサービス化。ところが近年のICTの躍進=メンテナンス手法の変革によって、時代が大きく動き始めたのを肌で感じている方も多いのではないでしょうか。
「サービタイゼーションにモデルチェンジする」と聞くと大掛かりに感じ、何から始めてよいかわからないという方も、自社の事業内容や事業規模に近い企業の事例などを参考に、まずは取り入れられそうなデジタルツールから試してみるのもおすすめです。
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