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インダストリー5.0とは?「次世代の自動化製造」に取り組むメリットや課題、各国の取り組みや歴史的背景を解説

記事公開日:2023/05/11
最終更新日:2023/10/19
インダストリー5.0とは?「次世代の自動化製造」に取り組むメリットや課題、各国の取り組みや歴史的背景を解説

 

インダストリー5.0とは、産業において「次世代の技術革新」と呼ばれる取り組みです。およそ10年前に提唱された産業革命「インダストリー4.0」に、人間中心・環境保全視点でのコンセプトが加えられ、現在世界中で取り組まれています。

日本の製造業は、パンデミックや激変する世界情勢、新興国の低価格製品がマーケットに台頭したことによって、苦戦を強いられているのも現状です。しかし、世界に誇れる「日本の高い技術力やノウハウ」は、これを最新デジタル技術によって磨き上げることで、ふたたび世界をリードするのに充分なポテンシャルを秘めています。そのために、インダストリー5.0への取り組みは、日本の製造業が避けては通れない道といえるのです。

本記事では、これまでの産業革命(インダストリーX)の歩みやインダストリー5.0に至った経緯、取り組むメリット、各国の取り組みなど、インダストリー5.0について包括的に解説していきます。

 

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インダストリー5.0とは

「インダストリー5.0(Industry 5.0)」とは、2021年1月に欧州委員会によって定義された産業革命の方針のことで、第5次産業革命ともいわれます。産業が、国や企業の枠組みにとらわれず、地球規模で目指すべき姿として提唱されました。

 

ひとつ前の産業革命「インダストリー4.0」がドイツによって提唱されたのは2011年。こちらは、現実空間×デジタル空間を高精度で融合させる技術によって産業の効率化をはかり、ビジネスモデルの革新を目指すものです。しかしこれらを推進する上で、プロセスの自動化によって失われるカスタマイズ性、環境保全視点での持続可能性、不測の事態への回復力といった面がカバーしきれないことも課題として見えてきました。

 

インダストリー4.0が目指す、デジタル技術を駆使した高精度の技術革新に加えて、「人間を中心とした産業のあり方」「環境・社会問題の解決」「パンデミックや災害・戦争など予測のできない事態への対応」、これらを包括的に実現する取り組みとして「インダストリー5.0」の構想が出来上がりました。

これまでのインダストリーX、インダストリー4.0とインダストリー5.0の違い

産業革命とは、人による手仕事が機械化していく歴史を表します。これまでに起こった産業革命それぞれの主な特徴として、以下のようなイメージを連想する方も多いのではないでしょうか。

 

  • 第1次産業革命:蒸気機関
  • 第2次産業革命:電力化と大量生産
  • 第3次産業革命:IT・自動化
  • 第4次産業革命:スマートファクトリー

 

ここではそれぞれの産業革命について詳しく説明し、どのようにインダストリー5.0に至ったかを振り返っていきます。

インダストリー1.0「産業の工業化」

18世紀半ばにイギリスで起こったインダストリー1.0(第1次産業革命)は、「蒸気機関」による発展です。それまで人の手で行われていた作業が、蒸気機関という動力によって機械化され、とくに綿織物などの繊維製造技術において大きく発展しました。

 

またジェームズ・ワットが完成させた「蒸気機関」によって蒸気船や鉄道が生まれたことで、人の移動手段や物流の可能性は大きく広がります。さらにこの蒸気機関を原動力とした機械化によって、製品製造は自動化を実現しました。実際に当時イギリスでは、植民地から輸入した綿花で加工品をつくり、中国・インドとの三角貿易において輸出することで、大きな利益を生み出していました。産業の機械化によって、人々の生活へ大きな変革をもたらしたのが、このインダストリー1.0といえます。

インダストリー2.0「大量生産」

インダストリー2.0(第2次産業革命)の中心舞台は、イギリスからドイツ・アメリカへ移り変わっていきます。エネルギーは石炭をつかった蒸気機関から、石油燃料を活用した内燃機関に移り変わり、また一方で電力化も進みました。18世紀末から19世紀のことです。

 

1880年前後にはエジソンによって電力システムが実用化され、また同時期には電気通信=電話が発明されたことで、人々の生活における通信手法に革命が起こります。また石油燃料は熱効率がよく、従来よりも小型化しやすくなったことでエンジンが開発され、自動車や航空機の開発に寄与しました。

 

これらの電力の供給や、よりパワフルな原動力によって産業の大量生産化が進み、時代は大量生産・大量消費の時代に突入します。

インダストリー3.0「コンピューターの普及」

インダストリー3.0(第3次産業革命)は、20世紀半ばから後半にかけて起こった、コンピュータの登場による産業革命です。第二次世界大戦ごろからアメリカで開発されてきた「コンピュータ」や、これらをつなぐ通信技術「インターネット」が導入されたことで、もともと自動化されていた機械作業がコンピュータによって制御されるようになり、生産性やその正確性はさらに向上しました。

 

単純作業であれば、産業用ロボットが人の手作業を代替できるようになり、組み立て工程の無人化が実現しました。このインダストリー3.0を皮切りに、本格的に産業の電子化・IT化がすすんでいくことになります。

インダストリー4.0「スマートセル化」

インダストリー4.0(第4次産業革命)は、2011年にドイツが提示したコンセプトで、ドイツの国家戦略として進められてきたものです。この概念はドイツ国内にとどまらず、欧米をはじめ中国や日本、東南アジアの新興国まで世界市場に大きく影響を与えました。

 

このプロジェクトは、IoTやAIによる高精度な生産管理、現実空間とデジタル空間をつなげるサイバーフィジカルシステム(CPS=Cyber Physical System)による技術革新が大きな特徴です。CPSは通称デジタルツインと呼ばれ、高精度な自動化管理が可能になることから、現在多くの産業で導入されています。

 

インダストリー4.0の主題となる「スマートセル」は、生産ラインをセル=区画で管理することで、生産ライン全体の最適化をおこなうもの。IoTによるセンサー、AIの機械学習による高度解析によって工場全体を見える化することで、人がいなくても安心して稼働できる仕組みづくりを実現するのはもちろん、個々の顧客ニーズにカスタマイズした製品製造が可能に。AIはすばやく問題を検出して将来的な予測をするため、高い生産性を実現できます。

 

インダストリー4.0の目的は主に2つ、製造技術のサービス化と、新興国への効率的展開の二軸です。さらに蓄積したデータやノウハウ販売によってあらたに収益源を生み出す手法も、インダストリー4.0において新たに確立されているビジネスモデルといえます。

インダストリー5.0を構成する3つの軸

インダストリー5.0の概念は、3つの柱によって支えられています。どれも今後、世界や日本の製造業が発展を遂げていく上で非常に重要なポイントです。

ヒューマン・セントリック「人間中心主義」

インダストリー5.0で新たに掲げられたコンセプトに、「ヒューマン・セントリック(Human-centric)」=「人間中心主義」があります。技術革新は人々の生活をよりよくするため、産業の発展は人間の価値を最も重んじ、人間の利益を最大化するためにおこなうべき、という人間中心の考え方です。

 

インダストリー4.0では、ロボットなどの導入により高度な自動化・生産効率性を重視するあまり、人間視点・社会視点でのカスタマイズ性が失われていたことが課題でした。インダストリー5.0では、人間主導の産業において、ロボットの役割を明確にして協業することで、より高度な価値創造を目指しています。

 

ヒューマン・セントリックを実現するには、人間とロボットが協働できる人間中心のデザイン、たとえばスキルシフトのための現場教育や労働条件の改善などが重要です。この「人間の能力や創造性を重んじる」コンセプトは、日本企業がもとより重要視してきた「現場主義/職人主義」の考え方そのものであることからも、日本の製造業は今後、グローバル市場で重要な役割を担うポテンシャルを秘めているのではないでしょうか。

サステナビリティ「持続可能性」

「サステナビリティ(Sustainability)」=「持続可能性」とは、産業革新において、社会的な環境負荷を最小限におさえながら、経済成長を実現する考え方です。

 

産業発展においては、経済成長や利便性を追求していく一方で、常に環境課題を抱えてきました。そのためインダストリー5.0ではあらためて、「次世代の環境に負担をかけずに経済発展すること」を重要なコンセプトとして掲げています。

 

具体的には、CO2排出量や廃棄物の削減、再生可能エネルギー・省エネルギー技術の活用など、エネルギーのより効率的な利用について謳われています。SDGsなどに見られる、企業や組織が社会に対して果たすべき責任についても言及されており、地域社会への貢献やサプライチェーンの透明性を高めるべく「サステナブルであること」に取り組む企業は増えてきました。

 

またIoTやAIなどを活用することで、異なる産業や組織が連携してプラットフォームやネットワークを築き、社会全体でサステナビリティを実現する「循環型社会」の考え方も重視されるようになっています。

レジリエンス「回復力」

環境の変化や、不確実性に対する「レジリエンス(resilience)」=「回復力」もインダストリー5.0の重要なコンセプトのひとつです。生産活動の上で不測の事態が起こった際に、デジタル技術を活用してできるリスクマネジメントの考え方を示しています。

 

不確実性とは、自然災害や戦争などの環境変化による回避しがたい事態のこと。ここ数年は多くの産業がパンデミックの影響を受け、不確実性に対して、生産システムの頑健性を高めて回復する力がより重視されるようになりました。

 

製造ラインにロボットを導入することで、人手不足を解消し、生産性をあげて、さまざまな変化に対して柔軟な対応ができるシステム構築を目指します。たとえば災害時などに、サプライチェーンに生産・物流の障害が発生することを想定して、さまざまな地域に生産拠点や代理店を分散する考え方も、「レジリエンス」への取り組みのひとつです。

インダストリー5.0へ取り組むメリット

インダストリー5.0に取り組むことで得られるメリットについて、ここでは3つのポイントに分けて解説します。

環境に配慮した産業(IoT・ AI活用)

インダストリー5.0に取り組むことで、環境に配慮した産業を実現できます。環境に配慮した産業では、資源の有限性を考えた循環型社会の実現や、海洋汚染や地球温暖化などさまざまな環境課題の解決を目指しています。

 

さまざまなモノとセンサーでつながるIoTや、ここから収集したデータを高精度に分析するAIを活用することで、製造プロセスの適正化をはかり、生産につかう原材料や廃棄物を最小限におさえられるようになります。たとえば従来の大量生産に対して、顧客ニーズにカスタマイズした製品製造が可能になるのはまさにインダストリー5.0に取り組むメリットです。

 

注意すべきは、デジタル技術の導入は生産効率化がはかれる一方で、多くのエネルギーを消費する点です。エネルギー消費を最小限におさえるシステムを導入したり、再生可能エネルギーを活用したりすることで、最適な取り組みが求められます。

予測値の正確性向上(デジタルツイン活用)

インダストリー5.0に取り組むメリットは、デジタルツインを活用することで、予測値の正確性を向上させられることです。

 

デジタルツインは、現実空間のモノや環境から取得したデータを、デジタル空間にそっくりそのまま再現するテクノロジーのこと。AIがデジタル空間で行った分析・検証を、リアルタイムで現実世界にフィードバックすることで、未来の変化までを予測できるのがデジタルツインの特徴であり目的です。

 

実際に使われている製品・稼働している設備や生産ラインなどの動的なデータを、リアルタイムで再現しながら予測を行えるため、予測値の正確性は劇的に向上します。またトラブル発生も事前に予測でき、問題発生後もリアルタイムで対処できるシステムは、よけいな運用コストを削減し、製造業における競争力向上に寄与するはずです。

 

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労働力不足解消(ロボット・コボット活用)

ロボットやコボットによって人手不足・労働力不足の解消が見込めるのもまた、インダストリー5.0に取り組むメリットのひとつです。コボットは人間と同じ空間で、人間の存在を認識して一緒に作業ができる協働ロボット。組み立てや運搬などの軽作業をまかせられるのはもちろん、ロボット間でのデータ連携も可能です。

 

製造業では単純作業だけでなく、高度なスキルや経験値を必要とする工程も少なくない反面、高齢化や少子化により、この領域の人材不足は深刻化しています。このような現場にロボットやコボットを導入し、単純作業や危険をともなう作業を任せることで、労働力不足の解消・生産性向上が見込まれることから注目されています。

 

ロボット・コボット導入は、コストや保守管理、教育の面でも少々ハードルが高いと感じるかもしれません。しかし日本の総人口予測は、2030年には約11,900万人・2040年には約10,700万人・2050年には約9,500万人ほどに減少すると考えられており、人手不足はますます深刻化していくことが予想されます。将来的な労働力不足にそなえて、ICTを取り入れた適切な環境整備を、段階的におこなっていくことが必要です。

インダストリー5.0で製造業が取り組むべき3つの「X」

インダストリー5.0において製造業に求められる変革は、以下3つの「X」で表現されます。

 

「BX」=システムの導入と意識変革

「SX」=サステナブルな企業価値創出

「EX」=働く人の体験価値

 

ひとつずつ解説していきます。

「BX」(ビジネス・トランスフォーメーション)

BX(ビジネス・トランスフォーメーション)は、IT・デジタルテクノロジーを導入することで、業務プロセスやビジネスモデルの改善をおこなうことです。近年、デジタル技術の進化やグローバル競争の激化などの影響で、必要性が高まっています。

 

BXにおいてよく導入されるシステムには、顧客データを一元管理するCRMや、経営情報を一元化するERPなどがあります。製造業においては、原材料調達から製造・販売までを一元管理するSCM(サプライチェーンマネジメントシステム)や、製造プロセスの稼働状況を把握できるMES(製造実行システム)なども有用です。

 

これらのシステムを導入することで提供価値の品質向上につながる一方、BXはこれらのシステムを導入するだけでなく、システムを活用する人員・組織全体としての意識改革も必要になります。場合に応じて組織の変革や人材育成など、柔軟に取り組んでいくことが重要です。

「SX」(サステナビリティ・トランスフォーメーション)

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)は、不確実性が高まる社会のなかで、企業の稼ぐ力と社会の持続可能性を両立させるための戦略です。経済産業省が2020年8月に公開した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」において提唱されました。

 

参考:「 サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会

 

ここでいう社会の持続可能性とは、エコロジー(環境)・ソーシャル(社会)・ガバナンス(企業統治)の3つの軸で支えられた概念で、今や国家経済が持続的に発展する上で欠かせない考え方として浸透してきています。SXへの取り組みは、社会的な信頼やブランド価値向上だけでなく、企業の競争力にも影響すると考えられています。SXで具体的に示された施策は以下の3つです。

 

  1. ビジネスモデルを強化するため、企業と社会のサステナビリティを同期させ、事業ポートフォリオ管理・イノベーション創出などの経営戦略を実行する
  2. 社会としてのサステナビリティから逆算し、企業が稼ぐ力を持続させるためのチャンスとリスクを把握して経営に反映させる
  3. 中長期的に企業と投資家が対話を行うことで価値創造シナリオを磨き、不確実性の中でも企業のサステナビリティを確立できるレジリエンスを高めていく

「EX」(エンプロイー・エクスペリエンス)

EX(エンプロイー・エクスペリエンス)は、従業員が業務を通じて得られる体験・経験のことです。基本的には金銭以外の価値を指し、「仕事を通して得られる全体的な印象」について言われます。たとえば労働環境、社内文化、雇用条件、福利厚生や人間関係、そこから従業員本人が得た評価や達成感などすべてがあてはまります。

 

人材不足がさけばれて久しい昨今、EXを改善することで離職率を下げ、優秀な人材を確保する考え方はますます重視されています。製造業においては、若手に対するスキルアップ支援やアイディアを出しやすい環境づくりはもちろんのこと、デジタル技術を活用することでフレキシブルな働き方を選択できるような、労働環境改善に取り組む企業も増えてきました。

インダストリー5.0への日本の取り組み「Society 5.0」

ソサエティ5.0(Society5.0)とは、日本国内におけるインダストリー5.0における取り組みで、内閣府が2016年、第五期科学技術基本計画において提唱した概念です。現実空間とデジタル空間を融合させる高度なテクノロジーにより、「経済成長」と「社会課題解決」を同時に実現することを目的としており、まさに日本の産業が描く理想の未来といえます。

 

ここでは、ソサエティ5.0はどういった取り組みなのか、3つの観点から詳しく解説していきます。

「Society 5.0」が目指すもの

ソサエティ5.0が目指す「超スマート社会」は、デジタル技術を使って持続可能なものづくりを高度化し、社会的課題に対して機先を制することで、経済成長をはかることを目的としています。

 

たとえば人材育成や若手人材が活躍できる仕組みづくりをはじめとし、社会全体で循環型社会を形成するためのシステム構築など、さまざまな取り組みを盛り込むことで、SDGsでも提唱される「誰一人取り残さない社会」の実現を目指しているのも特徴です。

 

とくに日本の製造業ビジョンにおいては、他国とどのように連携していくかや、どのように世界標準化をはかっていくかが重要なポイントです。具体的にはインダストリー4.0で、企業の海外展開・連携を国家レベルで推進したドイツにならって、インダストリー5.0でも世界市場における主導権争いが行われています。日本はこのグローバル連携における展開スピードが課題となっており、今後も積極的な仲間づくりや標準化活動が求められてきます。

「Society 5.0」が解決しうる社会的課題

ソサエティ5.0は、さまざまな社会課題の解決策としても注目されています。たとえば少子高齢化による人口減少・過疎化といった課題に対して、高齢者に対するIoTを活用した健康状態のモニタリング、ロボットの補助による自立支援サービスなどを行うことで、医療・介護分野での人手不足解消が期待されています。

 

またテレワークやオンライン教育、IoTを活用したスマートシティ技術を活用することで、住む地域にかかわらず生活の質を担保できるようになり、今後も地域格差解消策として役立つはずです。

 

とくにレジリエンスの観点において、日本の道路インフラは災害時の復旧を想定して設計されているのが特徴で、実際の災害発生後に非常にスピーディかつ高いクオリティで復旧作業をおさめてきた日本の高い技術力は、世界中から注目を集めてきました。ソサエティ5.0において、このような暗黙知やノウハウをスピード感をもってグローバル展開すれば、日本のプレゼンスを世界に示すとともに、世界全体のレジリエンスを向上させることにもつながるはずです。

「Society 5.0」の実現に必要なデジタルテクノロジー

ソサエティ5.0を実現するには、デジタルテクノロジーの活用が欠かせないことは前述しました。CPS=デジタルツインの活用によって、原材料やエネルギーを削減したり、業務効率化をはかって生産性を高めたりするため、主要となる技術には以下のようなものがあります。

 

IoT(モノのインターネット):機器やセンサーによって、あらゆるモノ(自動車・家電・製造ラインなど)をインターネットに接続する。モノの情報を取得できるだけでなく、モノ同士で情報交換も可能に。遠隔でモノの状態を把握し操作できるため、人手不足問題の解決策としても注目を集めている。

 

AI(人工知能):ビッグデータから機械学習し、人間の知能や作業などを高精度で模倣するため、より的確なサービスを提供できる。デジタルツインにおけるAIのデータ解析で、より正確な予測も可能に。

 

5G(高速通信システム)/クラウド技術:低遅延・多数接続が特徴の、最新の高速通信インターネットにより、IoTやAIでやりとりする大容量のデータを高い正確性で扱えるように。またこれらの膨大なデータを蓄積しながら、それぞれの技術を連携できるクラウドサービスも開発されており、デジタルツイン実現の重要な基盤となっている。

 

ブロックチェーン技術:取引記録などを改ざんできないよう暗号技術で保護し、分散的なネットワークで管理する仕組み。業務プロセスやデータの透明性を高めるのに役立つため、ソサエティ5.0の実現に欠かせない要素のひとつ。

 

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インダストリー5.0への諸外国の取り組み

インダストリー5.0に先進する国や、目立った動きを見せている国など、各国でさまざまな取り組みが見られます。ここではドイツ・アメリカ・中国の例についてそれぞれ解説していきます。

ドイツ

ドイツは2019年に、インダストリー4.0に続く方針として、「2030 Vision for Industrie 4.0」を発表しています。

 

ここでは

 

  1. 自律性:人間が主体となって労働環境改善・スキルシフト教育に取り組む
  2. 相互運用性:企業や国の垣根をこえて協業することで社会を変革する
  3. 持続可能性:資源効率をあげてものづくりを持続可能にする

 

という3つの指針を柱としています。

 

またさらに翌年2020年11月には「Sustainable production: actively shaping the ecological transformation with Industrie 4.0(持続可能な製造 ~Industry 4.0によるエコロジカルな変革~)」といったコンセプトを発表し、主題である「サステナビリティ」を実現するための方向性が定義されました。

 

  • 従来の大量生産から脱却し、製品やサービスの製造・提供プロセスにおける透明性を重視する
  • 消費を最小限におさえるビジネスモデルながら、社会課題解決に大きく影響を与える
  • 他部署・他業界・他社・他国をとわず連携することで循環型社会を形成する

 

この3つの指針に沿って細かく設計されたシナリオに沿って、さまざまな取り組みが行われており、インダストリー4.0に引き続き持続可能な製造業において世界を牽引しています。

アメリカ

アメリカでは、バイデン大統領が持続可能な環境配慮型の政策を打ち出しています。2021年4月には、ドイツの製造業のデジタル化を目指すプログラム「Platform Industry 4.0」と、アメリカ製造業のスマート化を推進する研究機関「CESMII」が、環境や気候変動に対応した持続可能な製造領域において連携することを表明しました。

 

またほかにもアメリカは、アドバンスト・メイク・パートナーシップ2.0(AMP 2.0)という国家プログラムにも取り組んでいます。AMP 2.0の目的は、産業界だけでなく大学や政府などが連携し、製造業が発展するための新しいテクノロジーやプロセスを開発・実装すること。さらに、IoT活用によって社会課題の解決をめざす「Smart America Challenge」、製造業のデジタル化を推進する「製造業イノベーションネットワーク(MNN)」なども積極的に進めています。

中国

2015年5月中国では習近平政権が「中国製造2025」を発表し、スマート製造に向けた国家戦略としてかかげています。これまで大きなマーケットと安い人件費を活かした「製造大国」のイメージの強かった中国は、イノベーション創出により他国を牽引する「製造強国」へ転換すべくロードマップを実行しています。

 

この国家政策ビジョンでは、5つの基本方針と4つの基本原則から構成され、また中国建国100周年となる2049年までに3段階の目標を設定しています。

 

2025年まで:製造強国への仲間入り

2035年まで:世界の製造強国の中等レベルへ到達

2049年まで:製造強国のトップ

 

実際に、世界経済フォーラムが「製造業のロールモデル」として指定するグローバルライトハウスにおいて、2023年1月現在、世界全132工場の中でも中国は世界最多である34%の工場が指定され、他国を圧倒しています。

 

(参考: Global Lighthouse Network

インダストリー5.0実現における課題

インダストリー5.0実現においては、さまざまな課題を抱えているのも事実です。ここでは2つの課題についてお伝えします。

世界標準化への壁

インダストリー5.0で提唱されている理想の未来を実現するには、すでに連携しているドイツやアメリカなどの例にならって、世界標準化して他国と協業していく体制づくりが不可欠です。実際にソリューション展開を行う上では、自社・自国のリソースや開発力、顧客基盤が事業の限界値とならないよう、柔軟な姿勢で仲間づくりを進めていく必要があります。

 

とくに日本企業は、自社製品に対する責任感の強さからも自前志向が強く、企業や国の垣根を超えた共同開発=オープンイノベーションに対して、心理的な障壁が大きい傾向も。しかし現在、所有から利用へと顧客ニーズが変化し、製造業そのもののサービス化も加速していている中、自社の持続的な成長にとって世界標準化は喫緊の課題となっています。

 

まずは顧客のニーズや課題に対して、自社が提供できるもの、自社では扱えないものを明らかにすることで、必要に応じて他社・他国との連携を積極的に進めていく必要があります。これらの壁を乗り越えることで、自社・自国の発展ひいては産業全体の成長にもつながるのです。

人材不足の壁

インダストリー5.0は、IoTやAI、ロボットなどのテクノロジーを活用して、業務プロセスを最適化することです。しかし最新テクノロジーを活用するには高度な技術や豊富な知識が必要となり、これらのスキルを持つ人材は市場において圧倒的に不足していることが指摘されています。

 

この分野における人材獲得・育成においては、教育体制を整えた上で、技術進化のスピードに応じて常に最新のスキルに更新していかなければなりません。さらに製造業において、現場の業務に精通した人物となると条件は非常に限られてしまうため、社内でも人材を育成するとともに、社外リソースを活用するのも一手です。

 

専門分野の知識を持ち、最新テクノロジーを適切に扱える人材の育成は国全体としても急務となっていますが、自社内でも積極的に体制を整え、次世代の技術革新にそなえていく必要があります。

インダストリー5.0により営業・マーケティング領域で実現できること

インダストリー5.0によって、これまでの営業・マーケティング領域で実現できることにはどのようなことがあるでしょうか。

顧客ニーズに対して最適なアプローチ・カスタマイズができる

IoTやAIなどさまざまな最新技術を活用するインダストリー5.0では、顧客ニーズに応じて最適にカスタマイズした製品を提供できるようになります。「顧客がどのような製品や機能を求めているか」「どのようなアフターケアを必要としているか」といったデータ分析は、新製品の開発に役立つだけでなく、営業部門やマーケティング部門が最適なアプローチをする上でも競争優位性を獲得できるのです。

 

また製造プロセスはリアルタイムでモニタリングできるため、過不足のない在庫管理が可能に。生産コストをおさえながらも顧客満足度をあげられるため、持続的な売上向上につながります。

サプライチェーンの一元化によりコストや人件費を削減できる

インダストリー5.0を通してサプライチェーンを一元化することで、よりスムーズな営業活動が可能になります。サプライチェーンとは、製品の製造から販売までの一連の流れのこと。最新のデジタル技術を活用しすればサプライチェーンを一元管理し見える化できるようになります。

 

製造プロセス全体の可視化により、改善点の洗い出しも容易になり、問題に対する対応スピードもあがります。また在庫管理に関してもAIが正確に分析して把握するため、在庫ロスを抱えたり、在庫が足りなくて販売機会を損失したり、といったミスを減らしてコスト削減にもつなげられるのです。業務工程を一元化・自動化することで、人的コストをより創造性のある営業・マーケティング領域で活用できるのは、インダストリー5.0に取り組む大きなメリットといえます。

AIを活用してマーケティング戦略を最適化できる

インダストリー5.0の実現に欠かせない要素のひとつ、「AI(人工知能)」は、マーケティング戦略の最適化にも役立ちます。

 

たとえば製品の購入プロセスにおいて購入者情報のようなビッグデータを解析することで、ターゲットを正確に定め、カスタマージャーニーを最適化できます。カスタマージャーニーとは、ユーザーがどのような過程を経て購入決定にいたるかを可視化したもので、この精度をあげることで、マーケティング戦略においてより効果のある広告やキャンペーン施策を打つのに役立ちます。

 

また施策に対するパフォーマンスを、リアルタイムで取得・分析できるのもAIあってこそ。マーケットトレンドや競合などと照らし合わせ、将来的な需要の予測を行えば適切な生産計画の策定にも役立ち、マーケティング活動の強い味方となってくれるはずです。

 取り組みの発信によるブランディングの強化

インダストリー5.0での活動を発信することで、自社のブランディングにも役立てることが可能です。「サスティナブル」や「最先端の技術や思想」に積極的に取り組んでいることを伝えることで、先進的なイメージを与え採用やIRにも影響を与えます。

 

また、重要な発信の手段の1つがWebサイトです。せっかくの取り組みをできるだけ多くの方に知ってもらえるように、定期的に更新をしていくようにしましょう。もし自社での更新が難しかったり、サイトが古くて発信をできなかったりする場合は、弊社では製造業に特化したブランディング向けWeb制作も実施しておりますので、お気軽にご相談ください。

 

 

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まとめ

インダストリー5.0の基礎知識から各国の取り組み、製造業に求められる変革や、営業・マーケティング戦略での活かし方について解説しました。

 

インダストリー5.0の実現においてはまだまだ課題もあるものの、日本の高い技術力を誇る製造業が、今後世界を舞台にさらなる発展をとげていく上では、必要不可欠な取り組みです。ぜひ自社に必要なデジタル化の検討や、自社成長のヒントとしてお役立てください。

 

 

 

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  • この記事を書いた人
  • エムタメ!編集部
  • クラウドサーカス株式会社 製造業マーケティング課

    プロフィール :

    2006年よりWeb制作事業を展開し、これまでBtoB製造業を中心に2,300社以上のデジタルマーケティング支援をしてきたクラウドサーカス株式会社のメディア編集部。53,000以上のユーザーを抱える「Cloud CIRCUS」も保有し、そこから得たデータを元にマーケティング活動も行う。SEOやMAツールをはじめとするWebマーケティングのコンサルティングが得意。

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