「CONTENT MARKETING DAY 2019」レポート 第六回「【対談】私たちはBtoBオウンドメディアをこう評価する~PV至上主義からの脱却~」
アメリカでインバウンドマーケティングが提唱されてから日本でもコンテンツマーケティングが注目を浴び、企業はこぞってブログ型のオウンドメディアサイトを立ち上げ、潜在層や見込客に情報を提供するようになりました。
SNSマーケティングが活発に行われるようになると、テキストや画像以外にホワイトペーパーや動画、アニメーションなど、ユーザーに求められるようなコンテンツを制作する重要性がさらに増しました。
そして、コンテンツマーケティングに限らず、施策の効果測定をはじめとするデータ分析やコンテンツ制作など、さまざまな場面でマーケターがデジタルツールに触れる機会も確実に増えています。
こうしたマーケターを取り巻く状況を受けて、2019年11月28日(木)、株式会社日本SPセンターが運営するメディア「CONTENT MARKETING LAB」主催、コンテンツマーケティング支援などを手がける株式会社クマベイス共催で、コンテンツマーケティングに特化した専門カンファレンス「CONTENT MARKETING DAY 2019」が開催されました。
「エムタメ!」では、当日の様子を数回にわたりレポートしていきます。第六回は、BtoBコンテンツマーケティングのトップランナー3名による「【対談】私たちはBtoBオウンドメディアをこう評価する~PV至上主義からの脱却~」の模様をお届けします。
自己紹介と対談テーマの背景紹介
左から、田中 森士氏(株式会社クマベイス 代表取締役 CEO)、栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)、枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)、中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)
セッションはパネルディスカッション形式で行われました。
登壇者
モデレーター:
田中 森士氏(株式会社クマベイス 代表取締役 CEO、CONTENT MARKETING DAY Co-Founder、Content Marketing Academy Co-Founder)(Twitter:@shinjitnk1)
BtoBコンテンツマーケティングコンサルタントであり、ライターとしても活動。
大学院でマーケティングを研究し、高校の常勤講師を務めた後、産経新聞社会部での新聞記者を経て2015年に株式会社クマベイスを設立。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
パネリスト:
枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)(Twitter:@sogitani_baigie)
株式会社エヌ・ティ・ティ・データでの勤務を経て、2011年にWebデザイナーとしてWeb制作業界へ。2010年に株式会社ベイジを設立。広報目的で長年、ブログ執筆やSNSでのコンテンツ発信に携わる。自社Webサイトでのコンテンツマーケティングで、マーケティングや営業の専門部隊を持たない20名弱のweb制作会社でありながら、年間約800件のリードを獲得。
左から、栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)、枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)、中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)
中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)(Twitter:@nakata_omega)
Web解析、データ解析に22年間携わる。and,a株式会社では、解析をベースとしたWebマーケティングのソリューション全般を提供。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)(Twitter:@kotakurihara)
2008年頃から約10年間、BtoBマーケティングに関わる。過去に関わったBtoBマーケティングプロジェクトは数百件にものぼる。BtoBマーケティングに関するオウンドメディアを2つ立ち上げ、10万PV規模へ育てた経験を持つ。自社でもオウンドメディアを運営し、毎月約200件のリードを獲得。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
冒頭で、モデレーターの田中氏は、対談テーマである「私たちはBtoBオウンドメディアをこう評価する~PV至上主義からの脱却~」について、2019年に入って有名オウンドメディアが次々と閉鎖されるなか、「本当にオウンドメディアに効果はあるのか?」という議論が起きている背景を受け、「そもそも、オウンドメディアに取り組むべきなのか?」という根源的な疑問に答え、具体的なオウンドメディアの評価方法や事例を紹介すると述べました。
オウンドメディアに取り組むべきケース・取り組むべきでないケースとは?
画像引用元:当日の登壇資料より引用
対談に入る前に、オウンドメディアの位置づけ、コンテンツマーケティングの定義が紹介されました。
トリプルメディア
- オウンドメディア…自社のWebサイト、企業アカウントのソーシャルメディア、メルマガなど
- アーンドメディア…ニュース番組、新聞、SNSでの言及
- ペイドメディア…広告
コンテンツマーケティングの定義
適切な人に適切なタイミングで適切なコンテンツを配信することを通して、何らかの企業利益につなげるマーケティングの考え方。
※オウンドメディア≠コンテンツマーケティング。
オウンドメディアとコンテンツマーケティングの関係
オウンドメディアは、コンテンツマーケティング戦略に取り組むうえで重要なプラットフォームの一つ。
オウンドメディアに取り組むべきケース・取り組むべきでないケース
(以下、敬称略)
田中:オウンドメディアに取り組むべきケースと、逆に取り組むべきでないケースについて伺います。栗原さん、いかがでしょうか?
栗原:実は、取り組むべきでないケースの方が非常に多いと感じます。逆に、取り組むべきケースとしては二つあり、一つがコンバージョンにつながるクエリが明確にある場合。BtoBなら、たとえば会計ソフトのfreeeの「会計の基礎知識」のように検索ボリュームがたくさんあって、かつ商材とのマッチ度が高いコンテンツだと、流入がビジネスに直結しやすいですね。
もう一つは、コンテンツを発信するメリットとしてユーザーの意思決定の労力を下げるということが挙げられるので、意思決定の労力が高い商材(コンサルティング型ビジネスなど)や採用活動で取り組むと良いでしょう。
田中:商材は選びますよね。レッドオーシャンでオウンドメディアに取り組もうと思ったら、余程、ブランディングがないと難しい。枌谷さん、いかがでしょうか?
枌谷:たとえば、BtoBでずっと工場内で働いているような人がターゲットの場合、ネット上でコンテンツを流通させても彼らに届けることは難しいですよね。商材やターゲットの性質がコンテンツマーケティングとマッチするかを見極める必要はあると思います。
一方、マーケティング目的だけではなく、もっと広い視野で経営課題を改善する施策として考えると、オウンドメディア運用の新たな意義が生まれたりもします。たとえば、ナレッジの言語化だったり、社員教育だったり、メディア運営を通じたカルチャー作りだったり。組織の課題と絡めていけば、どんな企業にとっても、オウンドメディアに取り組む価値は見いだせると思います。
田中:なるほど。中田さんは、いかがでしょうか?
中田:お二人の意見とは異なるのですが、私は「十分な知名度がある」という自負がある企業以外、すべての企業が取り組んだ方が良いと思います。どういう会社がどういう知見を持っているかは、コンテンツがないとわからないからです。
たとえば、ライトノベルやコミックには恋愛をテーマとした作品がたくさんありますが、大勢の読者が「自分にとっての恋愛」を探し求めているから、あれだけのバリエーションがあるわけです。
BtoBにおいても、課題や悩みは企業や担当者によって千差万別です。担当者は日々、解決しようと検索して探しています。「当社ならこういう解決法を提供できます」という知見を1ページでも多く出して、マッチングさせることが大事です。
BtoBのメリットとして、一度、取引が始まると、ライフタイムバリューが大きいという点があるため、一人のお客様との出会いが大きな価値を持ちます。だから、すべての会社が、保有している知見をコンテンツ化してどんどん出していくことが大切だと思っています。
田中:入口としては、ブランド力があるかどうかという点が判断材料になるのですか?
中田:たとえば、スタジオジブリさんの場合「うちは良いアニメを作ります」ということを伝える必要はないでしょう。知られていないアニメ制作会社だったらそこを訴求する必要があります。
田中:では、取り組むべき企業とは、知見の溜まっている会社ということになりますか?
中田:ええ。コンテンツ化する過程で、知見を発見したり再確認したりということも多いでしょう。個人的には「知見がなくても頑張る!」ぐらいの心意気で取り組んで欲しいと思います。
コンテンツのターゲットとなるペルソナは設計するべきか?
左から、栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)、枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)、中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)
田中:悩み・課題が千差万別ということで、ペルソナ設計はどうしたら良いでしょう?ペルソナ設計ができるかどうかも、オウンドメディアに取り組むべきかどうかの判断基準の一つになるんでしょうか?
枌谷:社員が記事を書いている当社のオウンドメディアでは、ペルソナまでは作っていませんが、誰に読ませたい記事なのかは、明確に意識して作っていますね。
栗原:クライアント企業のオウンドメディアでは設計しているのですが、自社のオウンドメディアだとそこまでやっていないというのが正直なところです。
普段、クライアントに話しているおすすめの記事の書き方として、BtoBでマーケティングを目的としてリード獲得したい場合では、営業の現場などでお客様からよく質問されることについてアンサーを書くと良いとアドバイスしています。
田中:それを聞いて思い出したのですが、以前、枌谷さんが「お客様や従業員から質問されたことに回答するツイートをすると伸びる気がする」とおっしゃっていましたね。
枌谷:ええ。栗原さんの方法も、特定の誰かを想定しているので、ペルソナ的な効果が得られる発想法だと思います。ペルソナは、架空のペルソナを作ること自体が大事なのではなく、具体的な誰かを想定することが大事、ということなので。
中田:LPでもWebサイト丸ごとの場合でも、ペルソナ設計はした方が良いと思いますが、当社は解析する立場なので、解析しながらペルソナを固めていくという手法を取っています。
たとえば、先日、証券会社のクライアントで「ETFとは?」というコンテンツがどのぐらい熟読されているかをヒートマップツールを使って解析しました。すると、すごく読まれていることがわかったんです。投資に慣れている方は、今さら「ETFとは?」なんて読みませんから、初心者を集めているということ。解析によってこういった当たりをつけて、「初心者向けのコンテンツもおろそかにはできないな」という結論を裏付けています。
オウンドメディアの評価指標は?
左から、田中 森士氏(株式会社クマベイス 代表取締役 CEO)、栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)、枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)、中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)
数値的指標について
田中:オウンドメディアの評価指標は第一にコンバージョンだと思うのですが、そこだけ見ても、長期的にはどうなのだろうという疑問があります。皆さんの評価指標は何を設定されていますか?
栗原:オウンドメディアはビジネス貢献をすべきなので、リード獲得やお問い合わせ獲得、採用であればエントリー獲得がまずは評価指標になると思います。
細かいことをいえば、最初の半年から一年は効果が出にくいので、その期間は更新記事本数といった行動が指標になりますが、立ち上げから一年経ったら、成果としてビジネス貢献度を見るべきです。
枌谷:オウンドメディアをマーケティング目的で運用する場合は、リード獲得など、どれだけ商談創出に貢献しているかは見るべきですが、栗原さんもおっしゃったようにオウンドメディアは成果を出すまでに時間がかかることがほとんどですね。
田中:Content Marketing World 2019のキーノートでも、コンテンツマーケティングには最低18ヵ月は取り組みましょうと言っていました。
枌谷:いきなりコンバージョンを指標にすると、挫折する恐れがあるので、最初は更新ペースを指標にして、更新が軌道に乗ったらPVを指標にし、徐々にハードルを上げていって、最終的にコンバージョンを指標にするのが良いのではないかな、と思います。
最終的にと言いましたが、実は、コンバージョンも中間計測指標だと考えています。BtoBでは意思決定が多層構造で、コンテンツを読んでくれた人がお問い合わせをしてくるとは限りません。
当社の場合でも、初訪問でトップページからお問い合わせフォームに遷移して、そのまま問い合わせするケースは少なくありません。その方に会って話を聞いてみると、社内で紹介されて問い合わせしたという話になったりしオウンドメディアの訪問履歴は残りません。アクセス解析だけを頼りにしていると、オウンドメディアは貢献していない、となってしまいますが、当然そうではありませんよね。当社では、より正確に状況を把握するために、問い合わせフォームに「どこで当社を知りましたか?」という項目を設定しています。ツールの数値だけで単純に評価しないようにしているわけです。
田中:その結果によって、Webサイト改善につなげたりもするんですか?
枌谷:認知経路の把握なので、Webサイト改善まではいきませんが、SNS運用は効果があるのか、オウンドメディアはやった方が良いかどうか、の判断材料にはなりますね。
たとえば、ログだけを見ているとオウンドメディア経由のコンバージョンは10~20%程度なのですが、フォームのアンケート結果も加味すると30%ぐらいの肌感で、商談化したものだけ見ると、60%を超えています。だから、ログに依存しない指標の立て方は大事なのではないでしょうか。
田中:当社のお客様に「コンバージョンだけを見ていて良いのか?」と相談されたことがあります。問い合わせにもさまざまな確度があるので、スコアリングまではしないにしても、ある程度はセグメントしないと、インサイドセールス部署にパスしたとしてもその後、対応できない。中田さんは、どう見ていますか?
中田:二点あって、まず一つが、評価はセッション単位ではなくユーザー単位ですべきだということ。たとえば、初回訪問でコラムを読み、コンバージョンにはつながらなくても、その会社の初回訪問でのコンバージョン率が3割だとしたら、2回、3回と訪問してもらうことが大切になります。
Google Analyticsのユーザーエクスプローラー機能を使うと、「昨日はコラムだけ。2回目の訪問でもコラムだけ。でも、3回目の訪問で商品詳細を閲覧し、4回目の訪問でコンバージョン」というように、ユーザーごとの行動を把握できます。コンバージョンまでの行動パターンで多いものを複数ピックアップして、割合も把握しておくことが重要でしょう。
そうすれば、初回訪問でコラムを読んだだけで帰ってしまったユーザーも「これでOK」と判断できます。
もう一つが、コンバージョンした後のライフタイムバリューまで見ること。たとえば、オウンドメディアから一社しか獲得できなかったとしても、毎月50万円の売上で5年間のお付き合いができれば良い。採用なら、1名でも獲得できて、その後、長く働いてくれればOKなんです。逆に、3ヵ月で辞めてしまったら失敗です。コンバージョンしたお客様が、その後、どうなったかも含めて評価すべきだと思います。
数値以外の指標について
左から、田中 森士氏(株式会社クマベイス 代表取締役 CEO)、栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)、枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)、中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)
田中:数値以外にも、アセット(資産)を獲得できるという面でオウンドメディアの運営メリットがあると思います。ほかにも、編集部隊が社内にできたとか、外部とのつながりができたとか、そういった部分はどう評価されていますか?
栗原:そこは意識しています。オウンドメディアを持っていると、取材申し込みというかたちでBtoBマーケターとコンタクトやアポが取りやすくなります。取材の際に先進的なマーケティングの話が聞けて、自社のマーケティングノウハウとしても蓄積され、本業でお客様に提供できるという好循環になっています。
枌谷:私も数値で見える以外の効果を感じています。社員の言語化能力が上がったり、「ベイジ=BtoBのWeb制作会社」という市場認知や第一想起が得られたりなども大きいです。
他社でも、オウンドメディアで成功している企業は、単純に顧客が増えた以上の効果を感じているところが多いようです。クライアント企業で200万PVもあるオウンドメディアを運用しているある企業は、「オウンドメディアは自社のカルチャーの結晶だから、数値を見てどうこうするということはしない」と断言していました。実際は、オウンドメディアが事業の利益にも貢献しているのですが、だからといって、数値から短絡的に成果を測るようなことはしていないそうです。
どうしたらオウンドメディアで効果が出るか?
左から、田中 森士氏(株式会社クマベイス 代表取締役 CEO)、栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)、枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)、中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)
田中:オウンドメディアに取り組んで、結果を出すにはどうしたら良いでしょうか?
中田:「結果」の定義が各社で異なると思うので、たとえば、「知見を持っている会社であるということが認知されること」を結果とするなら、コンバージョンが上がらなくても、認知が広がれば結果が出たということになります。
また、直帰が多いメディアではあるが、ユーザー単位で追いかけていくと1ヵ月後、2ヵ月後にまた戻ってきて資料請求してくれれば、同様に結果が出たということ。
ということは、どう結果を出すかという前に、どう計測するかという話になってきます。それに基づいて、たとえば、数値的指標を取るなら、Google Analyticsの設定を正しく行うといった準備を入念に行う必要があるでしょう。
栗原:BtoBのオウンドメディアは昔からありましたが、プレイヤーが増えてきたのは2010年頃。それから10年近く経っているので、成功者がたくさん現れています。私がおすすめの方法は、そうした先人たちに相談することです。
先ほど、数値的指標以外の効果について話が出ましたが、そういった効果を得てみないと見えない景色があります。実際にその景色を見たことがある人に相談すると、良いアドバイスがもらえると思います。
枌谷:精神論になってしまいますが「気合い」だと思います。気合が入っていれば、結果は出ると思います(笑)。
最近オウンドメディアを立ち上げたときは、「本業の顧客対応をしながら、コツコツとコンテンツを作ってアップし、毎日しっかり定時で終わる」みたいな働き方ではなかったですね。公開前の3連休もずっと細部を調整していました。最初の立ち上げはとても大事なので、できるだけ多くの時間を割きました。
「気合い」というと、少し幼稚に聞こえますが、要するに、成果が出るまで責任を持って絶対にやり遂げるというリーダーを据えないとダメということです。これは、オウンドメディアだけの話ではなく、仕事とはそういうもだと思っています。
登壇者が注目しているオウンドメディアは?
左から、栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)、枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)、中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)
田中:登壇者の皆さんが、いま注目しているオウンドメディアを教えてください。
中田:先ほどお話した「知見を世にアピールする」という面で注目しているのは、AIアナリストというツールを提供している株式会社WACULのオウンドメディア「AIanalyst BLOG」です。
Google Analyticsの設定について検索していると、AIanalyst BLOGの記事がヒットすることが多く、詳細に設定方法が載っているので、「これだけGoogle Analyticsについて詳しい人が開発したツールなら」と信頼性が高まります。
もう一つ、日本碍子株式会社の「セラミック アカデミー 」にも注目しています。セラミックとはどういうものかという基礎的な内容から掲載されていて、大学で素材について学んでいる人からも検索されていると思うので、採用目的で運営されているメディアではないですが、就職活動生へのブランディングにもなっていると思います。
田中:コンテンツマーケティングには、ニッチな空いている分野をいち早く押さえるというイス取りゲームのような要素もあると思います。同じ分野にすでに有名なメディアがあったら、後発組は参入しづらくなりますよね。
枌谷:単に成功しているオウンドメディアを見てもあまり参考にはならないことが多いです。大事なのは、運営スタイルが自分たちと似ているところを参考にする、ということではないかと思います。
運営スタイルは大きく分けて、中央集権型とコミュニティ型の2種類があると私は考えています。
前者は、編集部を置いて質やスケジュールをきちんと管理して運営する。後者は、社員に自由にアップさせていて、質の管理に固執せず、量と多様性を重視する。そして、中央集権型でも、記事を内製化しているところと、ライターに外注しているところとで分かれます。
私が注目しているオウンドメディアは、中央集権型で内製型だと、デジタル広告運用などを手がけているアナグラム株式会社のブログ。広告運用に特化した質の高いコンテンツが揃っています。
中央集権型で外注型だと「サイボウズ式」。編集部は社内に持ちつつ、記事は外部のライターに依頼するというスタイルで運営されています。
コミュニティ型だと、クラスメソッド株式会社の「Developers.IO」。先ほどお話した200万PVのオウンドメディアです。約1万7,000記事が公開されていて、多いときは、1日に20~30記事もアップされているのですが、すべて社員が自主的に行っているそうです。
栗原:オウンドメディアではないのですが、オウンドメディア作る際、検索エンジンから集客するのか、それともSNSから集客するのか、それ以外から集客するのかという集客経路が課題になります。検索エンジンからの集客も現在はコンテンツがあふれているので効果を出すのが難しくなってきているし、SNSからの集客で成功している企業はほんの一部なので、あまり参考にはなりません。
そこでYouTubeやVoisyなどに注目しています。YouTubeをビジネス活用しているところはまだ少なく、まだポジションが空いているので、狙い目です。ユーザー層も20~40代まで幅広く閲覧しています。実際に、YouTubeで成果が出ているBtoB企業の話をいくつか聞いています。実は、当社でも取り組もうと考えているところです(笑)。
田中:たしかに、アメリカだとBtoB企業がYouTubeでウェビナーを流すことは一般的ですが、まだ日本ではあまり見ないですね。
栗原:Twitterも、最近ではビジネス活用が盛んですが、最初は「ビジネスで使えるの?」という懐疑的な見方が一般的でしたよね。同じように、YouTubeも今後はビジネス活用が一般化していくと考えています。
粉谷:空いているメディアを狙うという方法は一つありますよね。当社で最近、議論しているのがSpotifyをマーケティング活用できないかということ。BtoB企業なのでハードルは高いかもしれませんが、取り組む方向で進めているところです。
【質疑応答】会場からの3つの質問に登壇者が回答
左から、田中 森士氏(株式会社クマベイス 代表取締役 CEO)、栗原 康太氏(株式会社才流 代表取締役)、枌谷 力氏(株式会社ベイジ 代表)、中田 吉彦氏(and,a株式会社 取締役CAO)
ブログ記事とホワイトペーパーのどちらで情報を出すべきか?
田中:「オウンドメディアでコンテンツとして掲載する情報と、リード獲得のためホワイトペーパーなどで公開する情報と、どのように出し分けたら良いか基準はありますでしょうか?」とあります。実践されている栗原さん、いかがでしょうか?
栗原:明確な基準は設けていません。ただ、イラストが多い方がわかりやすかったり、PDFの方が良いような資料などはホワイトペーパーにしています。
枌谷:業態・商材・ターゲット次第ではありますが、基本的に、いろいろな種類のホワイトペーパーを用意した方が、リード情報を取得するきっかけは作りやすいです。
ただ、当社自身のオウンドメディアではホワイトペーパーは1種類しか置いておらず、なるべくブログで情報を公開しています。データを取得することより、「こんなに有益な情報を無料で公開してくれるなんて」とユーザーの心を動かし、UGCが出ることを重視しています。
また、ユーザーインタビューなどをしていると、「ダウンロードしようと思っても、フォーム入力を求められるとダウンロードしない」という声も聞いたことがあります。ホワイトペーパーをダウンロードするとメルマガがどんどん届くんじゃないか、その割には大した資料じゃないんじゃないか、と疑われてしまう環境が、すでにできてしまっているということですね。もしそうだとしたら、フォーム入力させずにどんどんダウンロードしてもらい、その代わりにホワイトペーパーの最後にメールフォームへのリンクや電話の問い合わせ先を記載しておいた方が良いのかもしれません。
オウンドメディアのペルソナは一つが良いか?複数でも良いか?
田中:次の質問です。「一つのオウンドメディアでペルソナを複数持つのはやめた方が良いでしょうか?もちろん、一記事にペルソナは一つですが、お客様が多様な場合にどう設定するか知りたいです」
これは、中田さんにぜひ伺いたいですね。
中田:立ち上げ当初は潜在顧客としてどういった人がどのぐらいの割合で存在しているかがわからないので、初心者向けのコンテンツから中級者、上級者向けのコンテンツまで幅広く用意した方が良いと思います。そのうえで、どのコンテンツがどのぐらい読まれているか、どのぐらいコンバージョンにつながるかを検証して調整していくと良いでしょう。
あとは、獲得したいリードの層に合わせるべきだと思います。
枌谷:ケースバイケースだと思います。Webサイト制作の際は、ペルソナを設定することがほとんどですが、よく誤解されることですが、ペルソナ=ターゲットではありません。ペルソナを設定すると、それ以外は相手にしないかのように思われてしまいますが、母数の多いターゲットの中から代表的なサンプルを取り上げて明確にすることで、コンテンツを作りやすくしているのがペルソナ。そこさえ誤解しなければ、記事によっては複数のペルソナを立てるなど、自由に扱って良いと思いますよ。
栗原:私は、ニュースメディアのようなものを運営するのでない限り、複数のペルソナを持って良いと思います。BtoBのオウンドメディアなので、そのメディアを選んで読みに来るというよりも、個別の記事にいきなり訪れるケースの方が多いためです。記事ごとのペルソナが複数ある状態で問題ないと思います。
オウンドメディアへの再訪を促す施策は?
田中:最後の質問です。「一度目の訪問でコンバージョンしないパターンが多いと思いますが、再訪を促すために何かした方が良いでしょうか?」
中田:マーケティングオートメーションを導入した方がやりやすいのですが、再訪問したユーザーが初訪のときにどのページを見ているか、どんな行動をしているかをチェックすると良いです。そしてそこからの導線を使いやすく改善することで再訪してもらいやすくします。
栗原:前提条件次第でかなり異なると思いますが、ユーザーとのエンゲージメントが高まるような良いコンテンツを用意すれば再訪の確率は高まると思います。
良いイベントを頻繁に開催している企業があるのですが、メルマガの開封率が60%以上と非常に高いそうです。これは、ユーザーにとってその企業が良いコンテンツを出してくれるだろうという期待値が高いことの現れです。そういった企業のオウンドメディアは再訪率が高くなります。
枌谷:現代のBtoBマーケティング的なやり方といえば、ホワイトペーパーをダウンロードしてもらい、メールアドレスを獲得してメルマガを配信して更新記事の告知をすることだと思います。ただ、それができない場合も多いでしょうから、初訪で良いコンテンツだと覚えてもらうことを前提とし、「良いメディアだからまた来て、読みたいな」というユーザーの行動をアシスト促すのが正攻法だと思います。
昔ならRSSやブックマークが一般的でしたが、今ならその記事を書いた人や企業のSNSアカウントをフォローできるよう、リンクを設置しておくのも良いのではないでしょうか。多くのユーザーは、良いコンテンツを読んでも忘れてしまうので、日常的に触れられるような仕掛けを作っておく必要があると思います。
田中:あっという間の1時間でした。本セッションの内容がオウンドメディア運営の判断材料となれば幸いです。本日はありがとうございました。
2020年も開催決定!
2020年の開催も既に決定していて、11月20日(金)に昨年と同会場の恵比寿でおこなわれます。
三年目となる今回は「直感と理性のマーケティング」をテーマに、実用的なコンテンツマーケティングを学ぶ機会、そしてコンテンツマーケティングに取り組む人々同士をつなぐイベントとなるようです。