【#成功のバトン】カスタマーサクセス(CS)で成功した「ユニリタ」は、ノウハウを集約した「Growwwing」で顧客のCSを支援している
最終更新日:2023/11/14
消費の対象がモノからコトへとシフトし、ソフトウェアの利用形態も従来のパッケージ型を購入する方法から、毎月定額料金を支払って利用するSaaS型へと変化してきています。サブスクリプションモデルで提供されるサービスが、私たちの生活に浸透してきた感があります。
これを、サービスを提供する企業側から見てみると、さらに大きく複雑な変化が生じています。ビジネスモデルが変われば、見るべきKPIも顧客へのサービス提供体制も変わります。 なかでも、サブスクリプションモデルにおける新たな顧客対応として注目を浴びているのが「カスタマーサクセス」。当「エムタメ!」上でも、カスタマーサクセスについては何度か取り上げてきました。
今回は、自社のカスタマーサクセスにおいて利用してきた内製のカスタマーサクセスツールを「Growwwing(グローウィング)」としてプロダクト化し、成功している株式会社ユニリタで、カスタマーサクセスの責任者を務める尾上様にお話を伺いました。
- Profile
- 尾上 雄馬さん
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株式会社ユニリタ ビジネスイノベーション部 部長代理
- プロフィール :
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2007年に株式会社ビーエスピー(現ユニリタ)入社。ITサービス向けヘルプデスクSaaS「LMIS」を新規開発から開発を担当。開発業務の傍らサポートも兼務していたが、解約率の高まりに危機感を感じ、2017年より同サービスのカスタマーサクセスチームを立ち上げ責任者を担当。カスタマーサクセス管理用のツールを内製し、解約率半減を実現。 この管理ツールを汎用化し、Salesforce上で稼働するカスタマーサクセス管理SaaS「Growwwing」として販売開始、2020年7月より事業化し責任者を担当。 itSMF JapanにおいてクラウドSLA分科会副座長、サービスカタログ分科会座長も歴任。
1.会社として初めてのSaaSリリースで、カスタマーサクセスに取り組む
ユニリタさんは、もともとカスタマーサクセス部門を持っていたのですか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
いえ、ずっとパッケージ型でのソフトウェア提供を行ってきたので、カスタマーサクセス活動はしていませんでした。
私が2007年に入社してから開発に携わったIT部門向けのヘルプデスクツール「LMIS(エルミス)」もソフトウェア提供のパッケージでした。
翌2008年から提供を開始したのですが、当時は、当社はまだ機能別の部門制組織であり、カスタマーサポートの部門がヘルプデスクを担当していました。
私は当時は開発部門所属でしたが2次サポートも担当しており、サポート部門からエスカレーションされてきた技術的に深い質問に関して回答するという形でサポートに携わっていました。
では、カスタマーサクセス部門を立ち上げるきっかけとなったのは?
エムタメ!
編集部
尾上さん
LMISは2010年からSalesforce(セールスフォース)のプラットフォーム上で稼働するSaaSとしてリブランディングしたのですが、顧客数が増加していくにつれて解約数も増えてしまっていました。
当時はカスタマーサポートの中で、1社ずつ個社でオンボーディング※を行っていたのですが、これがカスタマーサポートの仕事の大部分になってしまい、利用後のサポートまで手が回らなくなってしまうという事態に陥りました。
そこで、オンボーディング部隊は専属チームを立ち上げて、これとは別に従来のカスタマーサポートではなく、カスタマーサクセスのチームを作ろうと思い立ちました。2017年のことです。
※オンボーディング…新たに導入した製品を定着させるための活動。
2017年というと、まだ「カスタマーサクセス」という言葉が日本でもやっと聞かれ始めたくらいの頃ですよね?
エムタメ!
編集部
尾上さん
そうですね。私も書籍でカスタマーサクセスのことを知り、3名体制でカスタマーサクセス部門を立ち上げました。
2.カスタマーサクセス業務を行うに当たり、課題は「現状把握ができていないこと」
CS活動をする上で、何か課題はありましたか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
まず、「現状を可視化できていない」という点でつまずきました。解約を含む契約状況や、解約されたタイミング、どの顧客がうまくサービスを活用できていないのかといったことなどが、整理されていなかったのです。スタート地点がわからないので、ゴール設定もできないという状態だったので、まずは現状を知る必要があると思いました。そこで、Excelファイルでの契約管理に着手しました。
Salesforceも利用していたのですが、商談・契約単位での管理には向いていても、サブスク的な管理は十分に可視化できなかったのです。それで、Excelで計算していたのですが、分析まではしにくい。
そこで、LMISをベースに、サブスクリプションビジネスの契約周りを管理できるように改修しました。
なるほど。もともとLMISの開発担当者だったんですからね。
エムタメ!
編集部
尾上さん
ええ、これが現在、カスタマーサクセスツールとして提供している「Growwwing」のプロトタイプになりました。これで、ARR※やLTV※などを可視化できるようになりました。
※ARR…Annual Recurring Revenue(アニュアル・リカーリング・レベニュー)の頭文字を取ったもの。年間経常収益。1年間に入ってくる収益のこと。
※LTV…Life Time Value(ライフ・タイム・バリュー)の頭文字を取ったもの。顧客生涯価値。そのユーザーが将来までに渡ってどの程度の利益を生むかという予測。
3.取り組みから2年で、年次解約率を10%から5%に半減!
現状を可視化した後に取り組まれたのは、どんなことですか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
解約原因・傾向の分析です。解約傾向を分析することで、どの顧客に対して優先度を上げてフォローをしなければいけないのかを明確にすることができました。
解約のリスクが高い顧客に対して優先的に対応を行うことで、当時の年次解約率10%から2年で5%に半減させることができました。
その後も継続してカスタマーサクセスに取り組み、さらに3%に低減させることができています。
いわゆる「びっくり解約」というものはなくなり、サービスを活用できずに解約に至るというケースも、ほぼ0にすることができました。
4.カスタマーサクセス文化の醸成のために現場や経営層にサブスクの考え方を浸透
カスタマーサクセスに注力する中で、苦労したことは何ですか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
一番大変なのはカスタマーサクセス文化の醸成です。
当社はもともと、サブスクリプションモデルでずっと事業を行ってきたわけではないので、当然ながら管理会計上の数字もサブスク指向ではありませんでした。そこから、サブスクにおける解約率の低減が、いかにビジネスに貢献するのかというようなことを、経営層に理解してもらうために、月次の定例会議などで、解約率やARRの事業インパクトを、経営層になじみのある「売上」といった用語や数字に置き換えながら説明し、理解してもらえるように努力しましたね。
現場に対してはどのように説明してカスタマーサクセスを浸透させたのですか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
現場のメンバーには、月次の勉強会などで「サブスクとは?」といった基本的なところから説明し、カスタマーサクセスがいかに大事か、どういう考え方で臨むべきか、それはなぜかといった話を繰り返して、意識から変えていけるように活動しました。
部門長には、顧客フォローに時間をさけていないという課題をあらかじめ共有していたので、理解してもらいやすかったですね。
LMISでのカスタマーサクセスから、ほかの商材への波及などはありましたか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
そうですね。世の中の流れとも重なり、オンプレミスからクラウドへ、サブスク商材へという会社としての転換期ともマッチした結果、社内にカスタマーサクセスが広がっていきました。現在は、全部門でカスタマーサクセスに取り組んでいます。
当社の社名「ユニリタ」には、“ユニーク”な発想と“利他”の精神をもって社会に貢献するという想いが込められており、「利他の精神」という由来とカスタマーサクセスの相性が良かったのも後押しになり、経営資料に「カスタマーサクセスを意識して」の文言が盛り込まれるまでになりました。
5.内製したカスタマーサクセスの管理ツールを「Growwwing」としてプロダクト化
カスタマーサクセスで活用された内製の管理ツールで成果を出して、そこからプロダクト化は一気に進んだのですか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
ちょこちょこ手を加えながら管理ツールを利用して、1年ほど経ったところでさまざまなタイミングが重なり、プロダクト化が進みました。
一つは、LMISのほかにもう一つSaaSとしての柱が欲しいと考え始めていたこと。当時、日本にはまだカスタマーサクセスの管理ツールが出回っていなかったので、汎用性を持たせてリリースしたら需要がありそうだと考えていました。
また、このタイミングで、社内でベンチャー支援の企画が発表されたのです。
そこで、データ連携のツールを開発・販売している別事業部に所属していた同期と2人でブラッシュアップして応募したところ、採用。晴れてプロダクト化が決まり、2020年7月から事業化しました。
ただ、もしベンチャー支援企画がなかったとしても、または落選していたとしても、自部門で事業化していずれはリリースしていたと思っています。
Growwwingの開発のポイントや特長を教えてください。
エムタメ!
編集部
尾上さん
もともと、IT部門向けのヘルプデスクツールだったため、リアクティブ※な業務に強みを持つツールだったため、カスタマーサクセスのプロアクティブ※な業務に適するようにチューニングしました。
※リアクティブ(reactive)…反応性が高いという意味を持つ。受動的であること。
※プロアクティブ(proactive)…積極的・能動的に促すこと。事前に対策を行う様子を指す。
特長としては、カスタマーサクセスに欠かせないプレイブック(指示書)の使いやすさや視認性が高くわかりやすいレポーティング機能、また、そこから各カスタマーサクセスメンバーの行動管理にまでつなげられる点などが挙げられます。 分析したり、タスクを作って終わりのツールではなく、レポートから、顧客に対してどのような活動をしたかを把握でき、それをまた次のタスクに活かすというOODAループ※(ウーダループ)を回せる点が強みです。
※OODAループ…「Observe(観察する)」「Orient(方向づける)」「Decide(決断する)」「Act(実行)」の4つを繰り返すことで最適で迅速な意思決定を行うフレームワーク。 OODAループについて詳しくは、別記事「OODAループ(ウーダループ)とは?PDCAとの違い」をご覧ください。
実際にサービス提供を開始してみて、顧客から多く寄せられるのは、導入の際のサポート体制がしっかりしていて、サービス開始まで伴走してくれたという感謝の声。また、CRMと同じデータを確認しながらカスタマーサクセス活動が行えるため、顧客満足度の向上につながっているという声もよくいただいています。
6.カスタマーサクセスを実現させるために重要な4つのP
カスタマーサクセスで重要なことは何だと思いますか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
サービスマネジメントの成功事例をまとめ体系化したITIL※というガイドラインがあるのですが、その中で、顧客に提供するサービスで価値を上手く届けるために必要なポイントとして4つの「P」が挙げられています。
※ITIL…Information Technology Infrastructure Libraryの頭文字を取ったもの。ITサービスマネジメントにおける成功事例をまとめた書籍群。
・People…1つ目が「組織と人材」です。これは、いうまでもなくカスタマーサクセスを実行する組織を構築することと、そこに優秀な人材(People)を配置することになります。また、現在のメンバーへの教育も含みます。
・Product…2つ目が「情報と技術」です。これは、サービスの利用状況や契約情報などを収集・可視化・分析していくことになります。「Growwwing」のようなツール(Product)を使うことで可能になります。
・Process…3つ目が「バリューストリームとプロセス」です。これは、顧客に実際に価値提供していくためのプロセスをきちんと構築していくことです。カスタマージャーニーマップなどを駆使して顧客接点から施策を考えるとともに、それを下支えする業務プロセスやロジスティクスも設計しておくことが大事です。
・Partner…4つ目が「パートナーとサプライヤ」です。上記のようなことを自社だけで実現しようとすると、なかなか難しいことがあると思いますが、コアとなる業務や技術以外は私たちのようなパートナーを上手く使うことも大事です。
このうちのどれか1つが欠けてもダメで、4つの視点で現状を把握していくことが大切です。
7.サブスクへ転換するなら、KPIも変える必要がある
ユニリタさんのように、既存のパッケージ型からSaaS型へビジネスを転換しようとしてもうまくいっていないところもありますが、成功と失敗の分かれ目は、何でしょうか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
個人的な意見にはなりますが、KPIが従来の評価指標のままだからではないでしょうか。経営指標をサブスクへシフトさせることが重要です。 「いくら売り上げるために、コストをどのくらい削って、どれだけ利益を出すか?」という従来の指標は、最初は赤字で一定の期間、継続利用してもらって黒字化するサブスクとの相性は悪いですから。
人は、評価指標に合わせ、評価される方向で行動するものなので、評価指標は変える必要があります。ビジネスモデルを変えるのですから、経営層にも現場にも、それ相応の覚悟が求められると思います。もし既存のビジネスモデルをすべてサブスクへ転換させるわけではない場合は、別会社にするという出島戦略をとるなどの対応も検討し両利きの経営を実施していくとより現実的になると思います。
8.これからはどの企業でもカスタマーサクセスの取り組みが必須になる
日本でのカスタマーサクセスは、まだ黎明期ですが、今後、どのようになると予想されますか?
エムタメ!
編集部
尾上さん
サブスクリプションというビジネスモデルにおいて、カスタマーサクセスが重要といわれていますが、今後、シュリンクしていく日本市場においてはあらゆる企業・サービスがカスタマーサクセスに取り組まないとならなくなると考えています。
これからのビジネスでは、顧客をどれくらい深く理解し、ニーズ・シーズを的確に把握し、価値を継続的に提供していくかということが最重要課題になっていくと思います。
今はまだ多くの企業が、カスタマーサクセスのやり方を模索しているという状況だと感じますが、過去にWabマーケティングが企業に定着していったのと同じように、今後、必ずあらゆる企業で必須の活動として浸透していくと考えています。
Wabマーケティングと同じように、カスタマーサクセスもどの企業にも必須の取り組みになっていくのですね。
この度は、経験に基づいた貴重なノウハウを聞かせていただき、ありがとうございました!
エムタメ!
編集部
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