サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?メリットから導入ステップまで
最終更新日:2023/10/27
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは、原材料の調達から消費まで、顧客に製品を届ける一連の流れを管理して最適化することを意味します。
インターネットの普及とともに、ECサイトが広く利用されるようになり、サプライチェーンマネジメントの仕組みも大きく変化しました。在庫はテクノロジーにより管理され、配送は24時間体制のネットワークでつながれています。これからのビジネスで勝ち残るために、さまざまな企業がサプライチェーンマネジメントに注力するようになりました。
そこで本コラムでは、サプライチェーンマネジメントの重要性やメリットなどについてご紹介します。
目次
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは
サプライチェーンマネジメントを解説する前に、まずサプライチェーンについて説明します。
サプライチェーンとは、原材料の調達から製品を消費者へ届けるまでのモノの流れです。日本語では「供給連鎖」と訳されます。自社の業務だけでなく、卸売業者や小売業者、配送業者などを含むフロー全体のことをいいます。
そしてサプライチェーンマネジメントとは、そのサプライチェーン全体のモノやお金、情報の流れを結びつけて、最適化する経営管理の手法のことです。Supply Chain Managementの頭文字を取って「SCM」とも呼ばれています。
サプライチェーン全体を統括して最適化し、コストやリソースを抑えながら利益向上を目指すのが、サプライチェーンマネジメントの役割です。各プロセスをひとつずつ効率化するのではなく、全体のバランスを見ながら連携することが大切なポイントになります。
サプライチェーンマネジメントが重要視されている理由
最近では、サプライチェーンマネジメントに取り組む企業が増えています。ここでは、重要視されている背景を4つのカテゴリーから解説します。
ビジネス環境の変化
インターネットの普及、デジタルの活用でビジネスモデルは大きく変わりました。ECサイトの拡充で販売と配送は一体化。消費者は、迅速で滞りのない供給を求めるようになっています。その需要に対応するため、企業ではサプライチェーンマネジメントを導入して最適化技術の開発を進めるようになりました。
大手化学メーカーの「花王」では、市場の需要に応じて商品をムダなく供給するためにSCM部門を設置しています。商品を速やかに届けるため卸店を通さず、全国8万点の小売店に直接供給するシステムを採用。需要予測の開発などにも取り組み、革新的なサプライチェーンの実現を目指しています。(参考:花王 サプライチェーンマネジメント)
また、少子高齢化による人手不足も深刻化しています。最近では、働き方改革関連法による「2024年問題」としてドライバー不足も大きく取り上げられました。そのような労働環境の変化もあり、企業ではムダな物流を防ぐなど、サプライチェーンの最適化が急がれています。
ニーズの多様化で顧客中心に
消費者は、自らインターネットで情報を集めて、自分の欲しい商品を手に入れるようになりました。ニーズは多様化し、ユーザーが必要とする商品を最適なタイミングで供給できるよう、企業では製造、販売、配送の効率化が求められています。
また、ビッグデータを活用した分析が可能になり、ニーズを細かく把握できるようになったこともサプライチェーンマネジメントが注視されている理由です。需要予測を行い、供給とのバランスを見直すことが、在庫調整やコスト削減、ひいては企業の利益へつながります。
インダストリー4.0との関係
「インダストリー4.0(第4次産業革命)」とは、2011年にドイツで提言された産業政策のことで、AIやIoTなど最新テクノロジーを取り入れた製造業の革新が進められてきました。 このプロジェクトにより、サプライチェーンにも積極的にIT技術が導入されるようになりました。
たとえば、従来の製造業では、商品の故障を待ってから修理を行っていましたが、テクノロジーの導入で機器の不具合を事前に予測することが可能に。故障を防ぐことでサプライチェーンを途切れさせない仕組みが作り出されました。
このような製造業のデジタル化が、サプライチェーンマネジメントの導入をさらに加速させています。
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グローバル化の加速
企業ではグローバル化が進み、製造や物流などをつなぐネットワークもいまや世界中に広がっています。海外への原材料の調達、在庫整理などを複雑なネットワークを個別管理していては迅速な対応ができず、他社との競争に勝てません。移り変わりの早いマーケットで勝ち残るためには、サプライチェーン全体の流れを一元管理することが不可欠です。
サプライチェーンマネジメントの業務
サプライチェーンマネジメントの業務は多岐に渡ります。企業や製品によっても業務は異なりますので、一般的な内容について紹介します。
計画
商品・サービスの事業計画を元に、原材料の調達や商品の生産、販売についての計画を立案。必要なリソースの計画・管理を行います。計画を実現するためには、目標達成を測定する指標設定も必要です。
調達
調達プロセスでは、安定して原材料を調達できる仕組みづくりがメインになります。高品質の原材料を低コストで迅速に調達することが目標です。価格交渉や発注、受け取り、在庫管理など幅広い業務が発生します。このプロセスで希望どおりの調達ができれば、市場での高い評価につながるでしょう。
生産
原材料を調達したら、次は製造に入ります。コスト面を考えながら、速やかに生産できるシステムづくりを構築。製造や品質検査、梱包などの体制を整えます。誰が作業しても同じ製品ができなければなりません。作業時間や設備、スキルなどを調整して、標準化の推進に努めましょう。
販売と物流
注文や出荷、配送の調整、請求など販売した顧客へ商品を届けるための工程です。ECサイトでは、迅速な配送体制が求められます。顧客が希望した日時に届けられる仕組みづくりができれば、顧客満足度の向上が期待できるでしょう。
返品
返品・交換への対応力を高めることも欠かせない業務のひとつです。欠陥商品や過剰供給で不要になった製品の回収対応、返金状況の見える化などの構築を行います。スムーズで丁寧な返品対応ができれば、固定ファンを増やすきっかけになります。
サプライチェーンマネジメントの導入メリット
サプライチェーンマネジメントを導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここからは、代表的な3つのメリットについて説明します。
在庫の最適化
サプライチェーンマネジメント導入のメリットは、在庫管理を最適化できることです。需要予測が重要で、市場ニーズをデータ化して消費量と在庫量が可視化できれば、余剰在庫を抱えることもありません。反対に、適正に在庫管理が行えない場合、経営悪化にもつながることも。また、在庫が可視化できれば原料不足に陥ることなく、生産ラインの停止も防げます。
コスト削減
サプライチェーンマネジメントで効率化できれば、さまざまなコスト削減が実現します。企業と販売業者で情報を共有することで、ニーズに合わせて製造量が調整でき、企業は余剰在庫にかかるコストをカットできます。販売業者側もムダな運送コストがかかりません。
配送業者とも連携すれば、立地を考慮してまとめて配送することも可能になり、運送の回数も減らせるでしょう。
人手不足の改善
サプライチェーンマネジメントに取り組むことで、製造や販売、物流などの体制が改善され、人手不足の解消につながります。市場のニーズを把握して、需要の高まる時期だけスタッフを増員することも可能です。閑散期に人手が余ってしまうこともなくなります。
また、業務効率が改善できれば、作業開始から終了までにかかる時間(リードタイム)を短縮できます。迅速で速やかな供給が可能になるでしょう。
サプライチェーンマネジメントのデメリット
一方、デメリットとして真っ先に挙げられるのは、導入コストが高いことです。ここでは、サプライチェーンマネジメントの2つのデメリットを紹介します。
導入コストが高い
サプライチェーンマネジメントを構築するには、自社だけでなく子会社や関連会社とのシステム連携が求められます。そのため、システムの運用・保守などを含めると、大規模なITインフラの費用がかかってしまうことに。柔軟性の高いクラウドサービスを利用するなど、企業に適したテクノロジーを選ぶ工夫が必要でしょう。
ただし、サプライチェーンマネジメントが順調に進めば、在庫管理や物流システムなどさまざまなコスト削減が期待できます。その後の運用次第で、カバーできる点とも考えられるでしょう。
運用が難しい
サプライチェーンマネジメントは、小売業者や配送業者など参画している企業が多いため運用が複雑になります。効率化に取り組んでいない企業があれば、その意識改革も必要です。海外企業との連携を図る場合、さらに調整は難しくなるでしょう。
適切な管理体制が設計できないと、システム全体のパフォーマンスも低下してしまいます。生産体制や物流、販売などの全体を把握できる高いスキルをもつ人材も求められるでしょう。
サプライチェーンマネジメント導入の手順
最後に、サプライチェーンマネジメントを導入する際のステップについて説明します。
導入目的の共有
最初に行うのは、導入の目的や解決したい課題を明確にし、社内で共有することです。そして、サプライチェーンマネジメントを実行することで、課題がクリアにできるのかを検討しましょう。その上で具体的な方針に落とし込んでいきます。
必要な人材、費用、役割なども話し合います。担当者や中心となる部署を決定し、メンバーが決まったら分担についても確認し、共有しておきましょう。
必要なサービスの選定
どのようなシステムが必要なのか、どのようなサービスがあるのか、自社に適したツールを比較・検討することも大切なプロセスです。 既存システムがある場合は、どう連携させるのかも確認します。
サプライチェーン全体に関わってくるので、トラブルが発生したとき、すぐにサポートしてくれるかどうかも重要な選定ポイントです。
効果の検証・改善
導入後は、どのような効果があったのか、課題が改善したのかを検証しましょう。目標数値の達成度や人員体制などを確認し、成果が出ていない部分は改善策が必要です。サプライチェーンマネジメントは、顧客体験の向上や在庫の最適化につながるだけでなく、収益にも大きく影響します。経営目標とあわせて検証し、PDCAを回しながらシステムの精度を高めていきましょう。
まとめ
サプライチェーンは、ビジネスモデルの変化に伴い、革新の時期に来ています。ECサイトの拡大で日用品をはじめ、アパレル、家電家具などほとんどの商品やサービスがインターネット経由で購入できるようになりました。消費者のニーズは多様化しています。
そのため企業は、需要にあわせた効率的な供給が求められています。サプライチェーンマネジメントは、ビジネス強化を目指すなら不可欠な仕組みづくりといえるでしょう。
ただし、管理・連携する業務は広範囲に及びます。人手が足りない、何から手をつけたらいいのかわからないという場合は、サポートしてくれるサービスやツールを上手に活用しながら課題をクリアしていきましょう。ぜひ、この機会にサプライチェーンマネジメントの導入を検討してみてください。
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