「無料(フリーミアム)」戦略は武器になることもあれば、弱点にもなる。成功事例から学ぼう。
最終更新日:2025/10/22

【この記事の要約】
フリーミアムとは、基本的な機能やサービスを「無料(Free)」で提供し、より高度な機能や付加価値に対して「料金(Premium)」を支払ってもらうビジネスモデルです。多くのWebサービスやアプリで採用されています。
このモデルの最大の目的は、無料提供によって利用のハードルを下げ、まず多くのユーザーを獲得することにあります。そして、無料ユーザーの一部が、サービスの価値を実感した上で有料プランに移行することで収益を上げます。成功の鍵は、無料プランでも十分に魅力的でありながら、有料プランに移行したくなる絶妙な機能制限と価値設計、そして、無料ユーザーを有料ユーザーへと転換させるための継続的な働きかけです。
【よくある質問と回答】
Q1. 「フリーミアム」と「無料トライアル」の違いは何ですか?
A1. 無料トライアルは、期間限定で有料プランの全機能を試せるものです。期間が終了すると、課金しない限りサービスが利用できなくなります。一方、フリーミアムは、期間無制限で基本的な機能は無料で使い続けられます。機能が制限されている点が大きな違いです。
Q2. フリーミアムモデルを成功させる上で、最も難しい点は何ですか?
A2. 無料プランと有料プランのバランス設定です。無料プランの機能が貧弱すぎるとユーザーが集まらず、逆に機能が充実しすぎると、誰も有料プランに移行してくれなくなります。ユーザーが「無料でも満足できるが、お金を払えばもっと便利になる」と感じる、絶妙なバランスを見つけることが非常に重要です。
Q3. フリーミアムの収益源は、有料プランへのアップグレードだけですか?
A3. 主な収益源は有料プランですが、それ以外にも考えられます。例えば、多くの無料ユーザーを抱えていることを利用して、広告収益を得るモデルや、無料ユーザーの利用動向を分析したデータを販売するモデル(個人情報には配慮が必要)など、複数の収益源を組み合わせることも可能です。
【ここから本文】
先日、展示会に出展していたときのこと、「タダより高いものはないからね。そういうのは大丈夫です」と断りを受けました。
世の中には「無料」が強みになるときもあれば、弱みになることもあるのですね。今の時代には「無料」はいたるところに存在しています。
Google検索、FaceBook、LINE、Linuxなどそのほかにも「無料」のWEBサービスは数え切れないほど存在しています。上手くいく「無料」サービスがあれば、上手くいかないサービスもある。またそれはどうやってマネタイズしているのか。
今回は20世紀から21世紀の「無料」について深掘りし、今後の「無料」「フリーミアム」のあり方について考えていきたいと思います。
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1.20世紀の「無料」戦略モデル
20世紀にはすでに「無料」で商品を配ったり、「無料」のものを配ってからほかのものの需要を作り出すやり方は多く存在していました。
例:カミソリ本体は無料 → 替え刃は有料
携帯の本体は無料 → 通話・通信料は有料
コーヒーメーカーは無料 → パックは有料
一見すると「無料」に見えるものも結局は別のところでお金を支払っている状態が20世紀の「無料」戦略モデルのほとんどでした。その仕組みをユーザー側も理解していき、タダより高いものはない。結局はお金を払わされるんだろうと思っていたのです。
2.21世紀の「無料」戦略モデル
21世紀になると、20世紀とは全くことなるモデルの「無料」戦略が出てくるようになりました。一部のユーザーが有料で使ってくれれば、大半のユーザーはずっと「無料」でも問題ないというビジネスモデルが生まれたのです。
それを実現したのが、デジタル化でした。
さきほどの例を取ると、携帯やコーヒーメーカーはどれだけ大量に生産してもコストをゼロにすることはできません。そのため結局はそのコストを回収する必要が出てきます。
しかしこれが、デジタル化されたものだったらどうでしょうか。20世紀のアナログのものとは違い、デジタルの世界でデータを複製するコストはほとんどゼロに近いのです。実際にはそのデータを置くサーバーのコストは発生しますが、ムーアの法則※がいうように、情報処理能力のコストは2年ごとに半分になり、通信帯域幅と記憶容量のコストはそれ以上のペースで下がっています。
インターネットは上記の3つから成り立っているため、コストは相乗効果で低下していくのです。
※ムーアの法則とは?
米インテル社の創業者のひとりであるゴードン・ムーアが提唱した、大規模集積回路の製造・生産における長期傾向について論じた1つの指標。
もっとも有名な公式は、「集積回路上のトランジスタ数は18か月(=1.5年)ごとに倍になる」というもの。
3.内部相互補助の4つのモデル
前項では20世紀と21世紀の「無料」戦略の違いについて説明しましたが、それらのモデルを内部相互補助として定義しているものをここではご紹介します。
(「フリー〈無料〉からお金を生み出す新戦略」クリスアンダーソン著)
内部相互補助とは
・有料商品で、無料商品をカバーする・将来の支払いで、現在の無料をカバーする・有料利用者が無料利用者をカバーする
というモデルのことです。
本の中で著者は下記の4つの分類に「無料」戦略を分けました。
(1)直接的内部相互補助:「無料」の提供物の恩恵を受けるユーザーが、他の有料物にお金を支払うことによって、直接的に「無料」化した部分のコストを回収できるという方法で、20世紀モデルで説明をした例です。
(2)三者間市場:売り手およびユーザーにもコストの負担はなく、第三者がフリーの提供物にかかるコストを支払ってくれるというビジネスモデルです。民放のテレビ番組、フリーペーパーなどが代表的です。
(3)フリーミアム:製品の簡易版を「無料」で提供し、機能追加版・高機能版を有料で提供することによって、ビジネスとして成り立たせる方法です。DoropboxやEvernoteなどが代表的です。
(4)非貨幣市場:これは金銭の取引から外れたものを言います。対価が、注目や評判など無形なケースになります。贈与経済、無償の労働、不正コピーなどがこれにあたります。
いろいろな形の「無料」がありますが、今の時代にはあらゆるところに「無料」が存在しているのです。
4.「フリーミアム(無料)」と「サブスクリプション」の違い
フリーミアムというビジネスモデルの話題が出てくると、セットのようにサブスクリプションという言葉がついてきます。
この章では、フリーミアムとサブスクリプションの関係についてご紹介します。
フリーミアムとは?
フリーミアムとは、基本機能や基本サービスは無料で提供し、高度な機能や容量などを追加して利用するために料金を課金してもらうビジネスモデルのことを指します。
前述のように、利用者が増えてもコストがほとんど上がらないデジタルサービスとの親和性が高く、Webサービス、ソフトウェア、スマホアプリなどで増えてきています。
特にスマホアプリでの採用率が高く、全世界でアプリの売上の90%以上がフリーミアムともいわれています。
サブスクリプションとは?
一方、サブスクリプションとは、従来のように商品・サービスを売り切り型で「販売」するのではなく、利用期間に応じ「使用料」というかたちで料金を支払ってもらう課金スタイルのビジネスモデルを指します。
ユーザーにとっては、初期費用なしで利用期間に応じて必要最小限の費用を払うだけで、バージョンアップやサポートに対応してもらえる、提供企業にとっては、導入してもらいやすく、中長期的に安定した収益が見込めるといったメリットがあり、オンライン・オフラインを問わず、このモデルで提供される商品・サービスが増えています。
【参考記事】
【サブスクリプション方式】というビジネスモデルとは?ビジネスマンの「#わたしのサブスク」ご紹介
フリーミアムとサブスクリプションの関係
フリーミアム戦略では通常、全ユーザーに課金してもらう必要はなく、一部のユーザーが課金すれば利益が出るように設計されます。
無料ユーザーに長期的に利用してもらうなかで、活用の幅を広げるため、利便性向上のため、嗜好性を満たすためといった理由から課金ユーザーに以降するという流れを取ります。
そのため、フリーミアムモデルとサブスクリプションモデルは親和性が高く、フリーミアムモデルのほとんどがサブスクリプションモデルを採用しています。
5.「フリーミアム」と「フリートライアル」の違い
フリーミアムと類似した言葉で、フリートライアルというものがあります。「フリーミアム」が機能を制限した無料プランを無期限で使えるのに対して、「フリートライアル」は機能を制限せずに、利用できる期間を制限しています。
どちらのサービスが自社に合っているかはビジネスモデルによっても様々です。 中長期で見た時にユーザーが有料版にプランアップしたくなるような設計ができていれば、フリーミアム戦略にメリットがあります。ユーザー数も伸ばしやすく、一気にシェアを拡大していくことが可能です。
ただ一方で、フリー版でユーザーが満足してしまうほど機能を解放してしまったり、そもそも利用ユーザーと意思決定者が離れていると、マネタイズが出来ずに利益が生まれなくなってしまいます。フリーミアムとフリートライアルのどちらが自社にあっているかは、冷静に判断する必要があるでしょう。
6.SaaS主流はフリーミアムに
日本でフリーミアムモデルの採用が特に増えているのがSaaSです。従来のビジネスではサービス提供の度に人件費や原価などのコストが多くかかっていたのですが、SaaSであればコストは最低限で済みます済みます。そのため、フリーミアムとの相性も良く、多くのSaaS企業が導入を初めています。
※弊社の提供するデジタルマーケティングツール「Cloud CIRCUS」もフリーミアムモデルを採用しています。よろしければ参考にしてください。
デジタルマーケティングツール「Cloud CIRCUS(クラウドサーカス)」
また、SaaSのビジネスモデルがサブスクリプション型であることも、フリーミアムモデルが増えているひとつの要因といえます。無料からはじめて有料化してもらう際に、あまりに初期コストが高すぎるとそのまま無料で踏みとどまるユーザーがどんどん増えていきます。
一方で、初期費用は抑えて月額費用のLTVで収益化していくサブスクリプション型のビジネスモデルであれば、初期費用がかからないことも多く無料から有料への移行ハードルも低いため、有料化が狙いやすくなります。結果として、営業コストも抑えられ効率的に有料顧客を増やしていくことができます。
7.「フリーミアム(無料)」の成功事例
ここで、実際にフリーミアムのビジネスモデルを成功させた国内外の事例をご紹介します。
海外のフリーミアム成功事例
まずは、日本よりもフリーミアムが進んでいる海外(アメリカ)のフリーミアム成功事例から2つご紹介します。
Spotify(スポティファイ)

https://www.spotify.com/jp/
BtoCのフリーミアム成功事例の代表格として挙げられるのがスウェーデンの音楽配信サービス「Spotify」です。世界最大級のストリーミングサービスで、洋楽、邦楽合わせて4,000万曲を楽しむことができます。
2018年時点のユーザー数(アクティブ・ユーザー)は世界で1億7,000万人おり、うち7,500万人が有料会員だといいます。
基本サービスは無料で提供し(Spotify Free)、有料会員(Spotify Premium)は、日本の場合、月額980円で高音質での再生、広告なしの再生、好きな曲順での再生、ダウンローフドしてオフラインでの再生、追加機能(ワイヤレス機器などから直接ログインして再生する)などを利用できるようになっています。
もともと、Spotifyが生まれた背景が、海賊版の横行によりアーティストたちに適性な報酬が入らない問題を解消するためだったこともあり、ダウンロードの方が手間に思えてしまうほどスムーズなストリーミング配信(待ち時間の解消)や、無料会員でも曲の最後まで聴けるという快適性が備えられています。
無料会員で使い勝手の良さを実感した音楽ファンが有料会員化するというフローが確立し、利用者の約50%が有料会員という高顧客化率を実現しました。
Dropbox(ドロップボックス)

https://www.dropbox.com/ja/
BtoCからBtoBまで幅広い用途に利用されているのが、米ドロップボックス社が提供しているオンラインストレージサービス「Dropbox」です。
もともと、設立者の一人であるマサチューセッツ工科大学( MIT )卒のドリュー・ヒューストンが、USBメモリの破損でデータを失いそうになったことがきっかけで生まれたサービスで、専用のフォルダにファイルをドラッグ&ドロップするだけでデータの共有や同期が可能になります。
特に、同期機能に関しては、ローカル上のドロップボックスフォルダとオンライン上のデータで常に同期が取れている状態になることから、オフラインで使用したいときにわざわざダウンロードする手間がなく、利便性の高いサービスとなっています。
2008年のサービスリリース後、ビジネス向けのアカウント発行、モバイルアプリの提供、削除データのリスト化や上書き誤操作防止と機能拡張を重ね、2016年時点でユーザー数は5億人超。
無料版は個人向けプランで容量2GBまで、有料会員は個人向けプランの「Dropbox Pro」で容量1TBまで(月額1,200 円)。ビジネス版「Dropbox Business」で容量無制限(月額1,500 円)があります。
無料会員でも、新規ユーザーの紹介などで最大10倍以上まで容量を増やすことができます。
Dropboxのフリーミアム成功の要因はこの紹介制度で、当初、新規ユーザー獲得のためにリスティング広告を使用していたものの効果が上がらず、紹介人数に合わせて容量を上げるという施策に取り組んだところユーザー数が順調に増え、そのなかから有料ユーザーが増え始め、軌道に乗ったということです。
国内のフリーミアム成功事例
国内のフリーミアム成功事例(BtoC、BtoB)を3つご紹介します。
クックパッド

https://cookpad.com/
クックパッドは、クックパッド株式会社が1998年より「kitchen@coin」としてサービス開始した料理レシピのコミュニティウェブサイトです(1999年6月クックパッドにサービス名を変更)。
ユーザーが自由にレシピを投稿でき、膨大なレシピのなかから食材や料理名などで検索することができます。
無料会員と有料のプレミアム会員があり、プレミアム会員はレシピを人気順表示やデイリーアクセス数ランキングでの表示ができるほか、レシピ保存や絞込み検索、専門家による目的別レシピの閲覧などが可能になります。
ユーザー数は、少し古い数字になりますが2016年時点で月間利用者数が6,000万人強。プレミアム会員数は188万人(2018年時点)です。
クックパッドの特徴的な機能「つくレポ」への支持が集まり、人気レシピを集めたムック本が出版されるほど。
そうした人気レシピを選んで閲覧できる利便性から有料化する会員が増えたようです。料金が月額280円からと手頃な点もポイントです。
ChatWork(チャットワーク)

https://go.chatwork.com/ja/
ビジネス向けのクラウド型チャットツール「ChatWork」は、Chatwork株式会社が2011年より提供しているサービスで、導入企業数は10万社超(2016年時点)。
1対1でのチャット機能のほか、複数ユーザーでグループを作ることもできます(グループチャット機能)。
チャット上でファイルのやりとりができるほか、タスク管理機能やビデオ通話・音声通話機能も有しています。
無料のフリープランではグループチャットへの登録が14グループまでとなり、ストレージの容量にも制限があります。
フリープランでも十分な機能が使え、有料プランもすべて月額数百円であることから、長期使用をするなかで抵抗なく優良化へ踏み切れるのが成功要因だといえそうです。
BowNow(バウナウ)

https://bow-now.jp/
BowNowは、当社(クラウドサーカス株式会社)が提供するマーケティングオートメーション(MA)です。機能が複雑で価格が高価なMAが多いなか、BowNowは必要最小限の機能に絞り、使いやすさを重視して作られました。
シナリオ機能、スコアリング機能などは持たず、ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の考え方でリードを評価します。また、無料で利用できるのはデモ版というサービスが多いなかで、BowNowは無期限で利用できるフリープランを用意しています。
フリープランでは、「登録できるリード数は1,000件まで」「蓄積できるログは1ヵ月分」といった制約があるため、リードがたまるまではフリープラン、リードがたまり本格的にナーチャリングを行うというフェーズで有料プランへ移行するという使い方が多いようです。
フリープランからリードの増加によるプランアップなどが多く、国産MA導入数1位を獲得しています。
8.まとめ
今まで見てきたように、今の時代では「無料」は当たり前のように存在しています。
これからは「無料」が当たり前で生きてきた世代が世界を動かしていきます。そのときに、一体何にお金を払って何にはお金を払わなくなるのでしょうか。
いずれにせよ、これからのコンテンツは遅かれ早かれ、無料であることを強いられていくことになるでしょう。
今回、この記事を読んで、「無料」に対する考えを改めたり、より詳しく調べてみようと思っていただければ嬉しいです。
また機会があれば、「無料」化を目指す上での戦略についてご紹介していければと思います。

- Writing By
- 本郷 翔太
-
スターティアラボ株式会社
WEBプロモーション事業部 デジタルマーケティンググループ リーダー- プロフィール :
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2012年スターティア株式会社に入社し、複合機や電話回線などのオフィス機器のトータルコンサルティングを行う。2015年にスターティアラボに転籍。Webサイト制作にとどまらず、オフィスのコンサルタント経験を活かし、お客様のお悩みを総合的に考え必要な情報、商材を提供しています。
【English summary】
Freemium is a business model that provides basic features or services for "Free" and has users pay a "Premium" for more advanced features or added value. It is adopted by many web services and applications.
The primary goal of this model is to lower the barrier to entry through free provision and first acquire a large number of users. Revenue is then generated when a portion of these free users upgrade to a paid plan after experiencing the value of the service. The keys to success are a subtle design of feature limitations and value that is attractive enough in the free plan yet incentivizes upgrading to the paid plan, and continuous efforts to convert free users into paying customers.








