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【2025年版】日本の製造業が直面する主要な課題は何か?原因、最新の政府施策を解説

記事公開日:2025/10/28
【2025年版】日本の製造業が直面する主要な課題は何か?原因、最新の政府施策を解説

【この記事の要約】

日本の製造業が直面する複合的な課題とは、「2025年版ものづくり白書」に基づき、企業が対処すべき複数の経営リスクを指します。具体的には、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、経済安全保障、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という3つの大局的な課題と、深刻化する人手不足という現場の課題が挙げられます。

原材料価格の高騰や人手不足といった直接的なリスクに加え、製造業は国内CO2排出量の約4割を占めるという現実から脱炭素化(GX)への対応を迫られています。また、地政学リスクの高まりによりサプライチェーン全体のリスク把握(経済安全保障)も急務です。しかし、これらの取り組みはDXと比較しても遅れがちです。現場では若年層の減少と高齢化が進み、特に中小企業では人材育成のリソースが不足しています。

これらの課題は相互に関連しており、単独での解決は困難です。政府もGX投資支援や人材開発助成金などで後押ししていますが、企業がこれらの中長期的課題に同時に取り組むことが、将来の競争力を維持・強化するための鍵となります。

 

【よくある質問と回答】

Q1. 2025年版のものづくり白書で示された、製造業の最も深刻な課題は何ですか?
A1. 課題は複合的ですが、特に深刻なのは「人手不足」と「高齢化」です。現場の担い手不足が続くと同時に、中長期的な課題である「GX(脱炭素)」「経済安全保障」「DX」への対応も迫られており、これら全てに同時に取り組む必要があります。

 

Q2. 製造業において、なぜ「経済安全保障」への取り組みが重要視されているのですか?
A2. 地政学リスクの高まりを受け、サプライチェーンの脆弱性が経営に直結するリスクとなっているためです。しかし調査では約6割の事業者が未対応であり、自社だけでなく取引先全体のリスク把握が急務とされています。

 

Q3. 人手不足に対し、政府はどのような支援策を講じていますか?
A3. 厚生労働省が中心となり、従業員のリスキリング(学び直し)やキャリア形成を支援する「人材開発支援助成金」制度などを提供しています。また、中小企業向けには「生産性向上人材育成支援センター」が相談から訓練実施まで一貫してサポートしています。

 

【ここから本文】

日本の製造業は、今、歴史的な転換点に立っています。経済産業省、厚生労働省、文部科学省が共同で作成した「2025年版ものづくり白書」からは、多くの企業が厳しい事業環境に直面しつつも、変化に対応すべく懸命に行動している姿が浮かび上がります。

 

本記事では、最新のものづくり白書を基に、日本の製造業が直面する主要な課題を「大局編」と「現場編」に分け、その原因と施策を網羅的に解説します。

2025年版ものづくり白書から見る日本の製造業の現状

回復傾向にある業績と今後の懸念点

2024年の製造業は、営業利益が20兆円台に達するなど回復基調にあります。しかし、大企業の業況は2025年3月の調査で悪化に転じており、先行きは不透明です。一方で、中小企業は足元で緩やかな改善が見られます。

 

多くの事業者が挙げる3つの社会情勢リスク

多くの製造業事業者は、事業に影響を及ぼす社会情勢の変化として、以下の3つのリスクを挙げています。

  • 原材料価格の高騰
  • 人手不足
  • エネルギー価格の高騰

これらは、企業の収益を圧迫し、持続的な成長を阻む要因となっています。

 

価格転嫁、賃上げ、人材確保への取り組み

このような厳しい環境の中で、多くの企業が変革に向けた行動を起こしています。過去3年間に実施された企業行動では、約9割の事業者が「価格転嫁」に踏み切り、約8割が「賃上げ」を実施しています。さらに、半数以上の事業者が「人材確保」や「設備投資」を行っており、足元の課題に対応しつつ、将来への投資も進めていることがわかります。

参照:2025年版 ものづくり白書(令和6年度 ものづくり基盤技術の振興施策) 概要
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/gaiyo.pdf

 

【大局編】日本の製造業が取り組むべき3つの複合的課題

近年、世界の経済産業政策は、単なる競争力強化だけでなく、「脱炭素」や「経済安全保障」といった要素を複合的に捉える動きが加速しています。不確実性が高まる事業環境の中、日本の製造業もこれら3つの課題に同時に対処することが、中長期的な成長の鍵となります。

課題1:GX(グリーン・トランスフォーメーション)の推進

国内CO2排出量の約4割を占める製造業の現状

日本のGDPの約2割を占める製造業は、国内部門別のCO2排出量において36%を占めています。特にそのうちの7割は、鉄鋼、化学、セメント、紙パルプといった排出削減が困難な多排出産業が占めています。

「脱炭素」と「産業競争力強化」の両立という難題への挑戦

これらの多排出産業は、日本の産業競争力を支える重要な分野でもあります。そのため、単に排出量を削減するだけでなく、脱炭素への取り組みを新たな競争力に繋げていく、「脱炭素」と「産業競争力強化」の同時達成が極めて重要な課題となっています。

 

課題2:経済安全保障への対応

なぜ今、経済安全保障が重要視されているのか

地政学リスクの高まりなどを背景に、経済的な手段を用いて他国の自律性を脅かす動きが活発化しています。このような脅威から国民生活や経済活動を守り、日本の技術的な優位性を確保するために、経済安全保障政策の重要性が増しています。これは、企業の競争力維持・強化にも直結する重要な経営課題です。

約6割の事業者が未対応という実態とその理由

しかし、製造事業者への調査では、経済安全保障の取組を「行っていない」との回答が約6割に上り、GXやDXと比較しても取り組みが遅れている実態が明らかになりました。その理由として、「自社の経営において必要性を感じない」(45.8%)、「何をすべきかわからない」(39.2%)といった回答が多く、言葉の認知度はあっても、具体的な取り組みが浸透していない状況がうかがえます。

サプライチェーンにおけるリスク把握の現状と課題

経済安全保障への対応としてサプライチェーンのリスク分析を行う企業でも、その範囲は限定的です。自社を起点として、直接の取引先である1社先、もしくは2、3社先までしか把握できていない事業者が、川上・川下側ともに9割以上を占めており、サプライチェーン全体のリスクを把握しきれていないという課題があります。

 

課題3:競争力強化に向けたDX(デジタル・トランスフォーメーション)

DXは、製造業の稼ぐ力の向上やGXの推進にも資する重要な取り組みです。

成果が出ている「守りのDX」と、成果創出が限定的な「攻めのDX」

「攻めのDX」における成果創出には、経営層の強いコミットメントが不可欠です。個社単位の効率化に留まらず、デジタル技術を活用して新たな付加価値を創出し、稼ぐ力を向上させることが求められています。

サプライチェーン全体でのデータ連携・利活用の重要性

企業の競争力をさらに高めるためには、サプライチェーン上の企業間で協力・連携し、業界全体で事業効率を高める取り組みも必要です。企業間のデータ連携・利活用は、生産性向上やGX推進に加え、サプライチェーン強靭化にも貢献する重要な施策です。

 

【現場編】人手不足と人材に関する深刻な課題

減少傾向にある製造業の就業者数と深刻な人手不足

製造業の就業者数は2024年に1,046万人と、わずかに減少しました。中小企業の従業員数過不足DI(「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもの)を見ると、不足感が強まっており、コロナ禍以前と同水準の深刻な人手不足に陥っています。

参照:2025年版 ものづくり白書(令和6年度 ものづくり基盤技術の振興施策) 概要
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/gaiyo.pdf

 

進む若年就業者の減少と高齢就業者の増加

年齢構成を見ると、2002年以降、34歳以下の若年就業者数は減少傾向にある一方、65歳以上の高齢就業者数は増加傾向にあり、就業構造の高齢化が進んでいます。

参照:2025年版 ものづくり白書(令和6年度 ものづくり基盤技術の振興施策) 概要
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/gaiyo.pdf

 

企業規模で広がるOFF-JT(職場外研修)の実施格差

従業員の能力開発を目的としたOFF-JTの実施率は、企業規模が大きいほど高く、企業規模による差が大きくなっています。従業員30〜49人規模の事業所では実施率が62.6%であるのに対し、1000人以上規模では99.0%に達します。

参照:2025年版 ものづくり白書(令和6年度 ものづくり基盤技術の振興施策) 概要
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/gaiyo.pdf

 

人材育成における共通の悩み「指導する人材の不足」と「離職」

多くの製造業が人材育成に関する課題を抱えています。その中でも特に、「指導する人材が不足している」と回答した事業所が65.9%と最も多く、次いで「人材を育成しても辞めてしまう」(49.7%)が挙げられています。

参照:2025年版 ものづくり白書(令和6年度 ものづくり基盤技術の振興施策) 概要
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/gaiyo.pdf

 

DX推進における人材確保の壁と社内育成への依存

DXを推進する上での人材確保については、約6割の企業が「社内人材の活用・育成」によって対応しており、既存の人材で対応しようとする傾向が見られます。特に従業員規模が小さい企業では経営者・役員の発案でDXが始まるケースが多く、大きい企業では現場からの要望がきっかけとなる傾向があります。

参照:2025年版 ものづくり白書(令和6年度 ものづくり基盤技術の振興施策) 概要
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/gaiyo.pdf

 

課題解決に向けた政府の支援策とは

政府は、製造業が直面するこれらの複合的かつ深刻な課題を解決するため、省庁横断で様々な施策を講じています。

 

経済産業省:GX・経済安保・DX推進による競争力強化支援

産業競争力・脱炭素・経済安全保障の3要素を複合的に追求する方針の下、企業の取り組みを後押ししています。具体的には、GX推進に向けた研究開発支援、企業の経済安全保障対応を促すための「民間ベストプラクティス集」の公表、サプライチェーン強靭化にも資する企業間データ連携の基盤構築支援などを行っています。

厚生労働省:助成金や相談支援による人材育成・リスキリングの後押し

労働者のキャリア形成を支援するため、職業訓練などを実施した事業主に対して訓練経費や賃金の一部を助成する「人材開発支援助成金」制度を設けています。特に中小企業に対しては、「生産性向上人材育成支援センター」を通じて人材育成に関する相談を実施し、企業の状況に応じた支援メニューの提案から訓練実施まで一貫してサポートしています。

文部科学省:産学官連携による次世代ものづくり人材の育成強化

デジタル・半導体といった成長分野を担う人材の育成を強力に推進しています。大学等が地域や産業界と連携し、ニーズに応じたリカレント教育(学び直し)プログラムを開発・提供するエコシステム構築を支援するほか、専門高校において最先端の職業人材育成システムを構築する「マイスター・ハイスクール」事業などを通じて、将来のものづくりを支える人材基盤の強化を図っています。

 

製造業の課題を解決するには?

ここまで見てきた複合的な課題に対し、企業は具体的にどのようなアクションを取ればよいのでしょうか。

1. DXを「守り」から「攻め」の武器にする

個社内の業務効率化(守りのDX)に留まらず、サプライチェーン全体を巻き込み、新たな付加価値を創出する「攻めのDX」へと発想を転換することが重要です。

サプライチェーン全体での標準化・デジタル化

素形材産業と自動車産業が連携する取り組みの一環として、企業間で3Dモデルの活用ルールを標準化しました。これにより、発注者(OEM)と受注者(サプライヤー)間の問い合わせや認識の齟齬をなくし、サプライチェーン全体での金型製造スピードと、設計・加工技術の精密性向上を目指しています。個々の企業の努力だけでは限界がある課題も、業界全体でデータ連携の仕組みを整えることで解決に繋がります。

AI・ロボット活用による人手不足の解消

労働力不足が深刻化する中、これまでロボット導入が難しかった少量多品種の製造現場へのAI・ロボット活用が重要になります。ロボットが自ら判断・動作する技術の確立にはAI開発が不可欠であり、政府もオープンな開発基盤の構築やデータ収集プラットフォームの整備などを通じて、企業の導入を後押ししています。

2. 経済安全保障をコストではなく「事業継続への投資」と捉える

経済安全保障への対応は、短期的なコストがかかる一方、中長期的な視点で見ると大きな効果をもたらします。

中長期的なリスク回避効果を認識する

実際に取組を行っている事業者を対象とした調査では、「今後4〜10年程度」の期間で見た場合、「リスクに対応しないことによる減収」が「取組にかかる費用」を上回ると考える事業者の割合が増加します。これは、経済安全保障への対応が、将来の損失を未然に防ぐための重要な「投資」であるとの認識が広がっていることを示唆しています。

「事業の継続」を最大の目的とする

取組を実施している事業者が感じている最も大きな効果は、「事業の継続(安定的な調達・生産・供給等)」です。まずは自社にとっての必要性を正しく理解し、安定した事業継続を実現するために、主体的に取り組むことが求められます。

3. 「人への投資」で技能伝承とDX人材育成を両立する

人手不足と技術継承の問題は、DXと人材育成を組み合わせることで解決の糸口が見えてきます。

DXツールを活用して技能を可視化・共有する

ある工作機械部品メーカーでは、若手への技術指導時間が確保できない課題に対し、ベテラン職人のノウハウをデジタル化した社内資料、通称「トラの巻」を作成しました。これにより、若手職員が自律的に学び、技能を継承できる体制を構築しています。

「見える化」を人材育成に繋げる

ある鋼製ドラム缶メーカーでは、「設備の見える化システム」を導入し、設備の稼働状況をリアルタイムで監視しています。トラブル発生時には録画機能で原因を特定・分析できるため、これが若手社員の技術理解を深める教育ツールとしても機能しています。同社では資格取得支援制度なども充実させ、DX推進と人的資本強化を両輪で進めています。

 

まとめ:製造業の課題を乗り越え、持続的成長を実現するために

本記事で見てきたように、日本の製造業は、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、経済安全保障、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という大きな構造変化の波と、深刻化する人手不足や人材育成という現場の課題に同時に直面しています。

 

製造事業者が持続的な成長を実現するためには、まず自社にとっての課題の重要性を正しく理解することが不可欠です。その上で、守りのDXから攻めのDXへの転換、経済安全保障をコストではなく事業継続への投資と捉える視点、そしてDXと一体となった「人への投資」を通じて、自社に適した社内体制や実施プロセスを確立し、中長期的な視点で主体的に取り組むことが求められます。

 

変化を脅威ではなく成長の機会と捉え、果敢に変革に取り組むこと。それが、日本のものづくりの未来を切り拓く唯一の道と言えるでしょう。

 

 

【English summary】

The complex challenges facing Japan's manufacturing industry, based on the "2025 White Paper on Manufacturing," refer to multiple management risks that companies must address. Specifically, these include three major strategic issues: GX (Green Transformation), Economic Security, and DX (Digital Transformation), as well as the worsening operational challenge of labor shortages.

In addition to direct risks like soaring raw material prices and labor scarcity, the manufacturing sector, which accounts for about 40% of Japan's domestic CO2 emissions, is under pressure to decarbonize (GX). Furthermore, heightened geopolitical risks make grasping supply chain-wide risks (Economic Security) an urgent task. However, efforts in these areas lag behind those in DX. On the ground, the workforce is aging as the number of young workers declines, and SMEs particularly lack resources for human capital development.

These issues are interconnected and difficult to solve in isolation. While the government provides support through GX investment aid and human resource development grants, it is crucial for companies to tackle these medium- to long-term challenges concurrently to maintain and strengthen their future competitiveness.


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