製造業バリューチェーンとは?基礎知識やメリット、分析方法などをわかりやすく徹底解説!
最終更新日:2023/10/26
バリューチェーン(Value Chain:価値連鎖)とは、製品やサービスが顧客に提供されるまでの一連の事業活動を「価値のつながり(連鎖)」として捉えた概念です。
バリューチェーンの分析・活用は 競争戦略を練るうえで重要な役割を担っており、製造業における必要性も高まっています。
本記事では製造業におけるバリューチェーンについて、その概念やメリット、分析を行うステップや効果的に実施するためのポイントなどを、わかりやすく解説します。
目次
バリューチェーンとは
バリューチェーンについて、その概要と、構成する3つの要素について解説します。
バリューチェーンの概念
バリューチェーン(Value Chain:価値連鎖)とは、 製品やサービスが顧客に提供されるまでの一連の事業活動を「価値のつながり(連鎖)」として捉えた概念です。
事業活動を業務ごとに仕分けして分析を行い、「どの部分が付加価値を創出しているか」「自社の競争優位性や強み・弱みは何なのか」などを明確にする際に役立ちます。
ハーバード大学経営大学院教授のアメリカの経営学者であるマイケル・E・ポーター氏が提唱した概念で、現代でも競争戦略を練るうえで重要な役割を担っており、製造業においてもその必要性が叫ばれています。
バリューチェーンは3つの要素で構成されているのが特徴です。詳しく見ていきましょう。
バリューチェーンを構成する3つの要素
バリューチェーンのフレームワークは、 「5つの主活動」「4つの支援活動」「利益」から成り立っています。
「5つの主活動」は「①購買②製造③出荷・物流④販売・マーケティング⑤サービス」の利益を生み出すために欠かせない5つで、生産から消費に直接的に関わるプロセスや活動を指します。
「4つの支援活動」は「①全般管理(インフラストラクチャー)②人事・労務管理③技術開発④調達活動」で、間接的に生産・消費に関わる4つのプロセスを指し、主活動を支えることで収益獲得に貢献しています。
主活動と支援活動はあくまでも分類上の話に過ぎず、優劣差はありません。 複雑に思える企業活動を価値創出という視点で分類・可視化することで、どの業務がどのような価値を生み出しているかを分析できるのです。
製造業バリューチェーンにおける主活動の3チェーンとは
主要活動をプロセス化すると「①商品の企画②企画した商品の製品化③ターゲットへの営業活動④商品の供給」に仕分けできます。
この流れをさらに「活動ごとに分類」すると、3つのチェーン 「デマンドチェーン・エンジニアリングチェーン・サプライチェーン」に分けて捉えることが可能です。それぞれのチェーンについて解説します。
デマンドチェーン
デマンドチェーンは、市場調査やアンケート調査、口コミや購買情報の収集などのマーケティング活動及び営業活動を含むプロセスを指します。
市場や顧客のニーズに関する情報を収集し、 ニーズを正確に捉えた上で商品開発や生産などへ展開する、「顧客提供価値の最適化」がデマンドチェーンの目的です。マーケティング活動でニーズを予測して、営業活動によって需要と顧客の拡大を目指します。
次は、デマンドチェーンとは対になる関係にあるサプライチェーンについて見ていきましょう。
サプライチェーン
サプライチェーンは材料の供給から顧客への製品提供までの「生産と供給」を担うプロセスを指します。
自社のみならず協力企業なども含めたモノの流れに注目して「供給の連鎖」を明確化するのが特徴で、ビジネス前提におけるプロセス効率化に寄与します。
バリューチェーンそのものと似ていますが、バリューチェーンではあくまでも「自社ビジネスのプロセス」に注目して「価値の連鎖」を明らかにするため、両者は大きく異なります。
エンジニアリングチェーン
エンジニアリングチェーンは、「企画構想、製品設計、工程・設備設計、生産準備、保守保全」など、受注から納品までの製造プロセスを指します。「ECM(Engineering Chain Managementの略)」と呼ばれることもあります。
製造プロセスは生産リードタイムにも大きく影響を与えるほか、プロセスの構築次第では、事業活動の大きな改善や生産効率の向上が期待できます。そのため、3つのバリューチェーンの中で製造業において最も重要なチェーンとされています。
製造業のバリューチェーン分析のメリットとは?
製造業においてバリューチェーン分析を行うとどのようなメリットがあるのでしょうか?主な3つのメリットについて紹介します。
自社の強み・弱みを明確にして差別化できる
バリューチェーン分析を行うことで自社の強み・弱みを明確にして、差別化することができます。
付加価値を出しているプロセスを明らかにすることで「どこにどのような強みがあるか」を把握した上で、その強みを持つ活動にヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源を集中させて拡充することで、自社製品の独自性の強化や競争優位性の向上につながります。
弱みとなっている部分の見直しや、経営戦略の方向性を検討する際にも役立つでしょう。場合によっては弱みに経営資源を分配することが、強みのさらなる成長につながる可能性もあります。
競合他社の分析から示唆を得られる
競合他社のバリューチェーン分析も行えば、競合他社の強みや弱み、課題を把握することができ、今後の動向や市場全体の予測に役立てられるというメリットがあります。
自社分析のみだと、主観的且つ近視眼的な分析になってしまう傾向にありますが、競合他社との比較を行うことで客観的な分析が可能になり、新たらしい重要な示唆を得られるきっかけにもなり得ます。
バリューチェーンの範囲を広げて成長に必要な行動を俯瞰的に判断できるようになることで、自社のより効率的な成長も期待できます。競合他社の分析をもとに自社の差別化をさらに強化すれば、競争優位性の向上も見込めるでしょう。
コスト削減につながる
バリューチェーン分析を行うことで、事業活動ごとに発生しているコストを把握できるようになり、無駄なコストの削減につなげられます。
総合的に俯瞰してコストをチェックし、不要なコストを明らかにして削減できれば、製品・サービスの品質を高く保ったままでもコストを抑えることができます。
他の事業活動に影響を及ぼすこともあるコストを全社的な視点から把握することで、効果的にコスト削減に取り組めるのも大きなポイントです。
では具体的にバリューチェーンはどのように進めていけばいいのでしょうか?次章で詳しく解説します。
バリューチェーン分析を行う4ステップ
バリューチェーン分析を行うには「現状把握」「コスト分析」「強み・弱みの分析と把握」「経営資源の評価」という4つのステップがあります。それぞれのステップについて説明します。
現状把握
バリューチェーン分析を行うには、まず現状を把握することが大切です。
構造を明らかにするために、事業活動を「主活動」「支援活動」に分けた上で、機能ごとに業務を分類していきます。「企画・製造・販売・人事・財務」など、機能別にリストアップして可視化することが重要です。
製造業のバリューチェーンは基本的に「購買、製造、出荷・物流、販売」という流れで構成されるため、足がかりとして参考にしてみてください。
コスト分析
次に、分類した機能ごとにコストと収益性を割り出して分析します。
コストをリストアップして可視化する際には、関与した部門も一緒に明記することでよりわかりやすくなり、正確な分析へとつながります。複数の部門が関わる場合は活動比率の記載も必要です。
コストのかかっている部分を洗い出して整理することで、コスト間の関連性やコストが発生する原因なども明らかにすることができ、収益性の改善に役立ちます。
強み・弱みの把握
機能ごとにコストを分析できたら、競合他社よりも優位性の高い部分や、反対に他社よりも不利な部分などを洗い出して、自社の強み・弱みを把握します。
事業においては、自社のユニークな強みを生かして他社を引き離しつつ、同時に弱みを補うという戦略作りが欠かせません。詳細な分析を行いたい場合は、各プロセスごとにSWOT分析という手法を用いる方法もあります。
このステップでは、主観のみで分析しないことが大切です。社内外の関係者から意見を募るなどし、できるだけ多角的且つ客観的に分析して正確に把握できるようにします。
経営資源の評価(VRIO分析)
最後に、自社が保有する経営資源を洗い出して評価します。
その際に有用なのが、経営資源の競争優位性を調べるための分析手法「VRIO分析」です。VRIO分析は「Value(価値)」「Rareness(希少性)」「Imitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」の頭文字をとったフレームワークで、この4つの項目ごとにYESかNOで評価を行います。
YESが多いほど優位性を発揮できる可能性が高くなります。反対にNOとなった活動は不足を補う施策を導入して改善していくことが大切です。
分析結果を戦略に生かす
バリューチェーン分析で自社の強みを把握できたら、戦略に取り入れて活かしていくことが大切です。バリューチェーン分析が生かせる2つの戦略「集中戦略」「差別化戦略」について解説します。
集中戦略
「集中戦略」とは「顧客層・属性・販売エリア」などの特定のセグメントに、企業が持つ経営資源を集中的に投入することで、競争優位性を確保する戦略を指します。
自社の強みを的確に把握することで、この戦略を効果的に実施することができます。ただし、ターゲットとする市場が縮小した際には事業の継続が危うくなる可能性があるため、環境に大きく左右されるなどの不確定要素が多い分野では注意が必要です。
差別化戦略
「差別化戦略」は、「機能面・デザイン性・サポート面」などで競合他社の製品やサービスと差別化できる独自性を打ち出して、競争優位性を確保する戦略を指します。
競争が激化する昨今では、製品のコモディティ化することを避けるために、他社が模倣ができないような自社ならではのユニークさを確保することが重要です。プロセスごとの独自の強みを明らかにできるバリューチェーン分析は、この戦略と最も相性の良い手法といえます。
製造業におけるバリューチェーンのポイント
製造業におけるバリューチェーンを効果的に実施するためのポイントについて解説します。
エンジニアリングチェーンの強化
先述したように、製造業のバリューチェーンにおいて重要なカギとなるのは「エンジニアリングチェーン」です。
競争力の源泉となるため、バリューチェーンを効果的に実施するにはエンジニアリングチェーンの強化が必要不可欠といえます。
開発プロセスでは膨大なリソースと時間がかかるので、このプロセスをいかに短縮できるかによって製品のリードタイムが大きく変わります。また商品企画や設計・開発など、プロセスの上流を範囲とするため、コストや品質にも多大な影響を及ぼします。
しかし、いくらリードタイムを短縮していち早く製品を市場に出したとしても、設計ミスやニーズとの不一致があれば利益を得られません。市場のニーズを的確に捉え、独自性のある製品を顧客に提供するためには、エンジニアリングチェーンの強化が非常に重要なのです。
情報感度を高める
現在、価値基準は「モノ消費」から「コト消費」へと転換し、顧客のニーズは大きく変化しています。
高い技術力だけでは製品が売れなくなってきているため、製品や技術のみを軸として経営戦略を練るのではなく、顧客ニーズや市場全体の課題の理解、今後の展開やこれから出会う可能性のある潜在顧客への予測など、あらゆる視点から経営戦略を立てることが大切です。
そのためには、情報感度を高めることが必要になります。常にアンテナを張った情報収集や、そのデータの共有などを通して、バリューチェーン全体を最適化した状態に保つことが重要です。
デジタル化
近年製造業に限らず、あらゆる分野においてIoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)などのデジタル化が急速に広まり、その必要性も高まっています。
デジタルを活用したデータの収集・分析など、バリューチェーンやサプライチェーンにおけるデジタル化も進み、それらの在り方も変化しています。
例えば、IoTによって製造機械などをインターネット接続して一元管理すれば、製造現場における機械の稼働状況を視覚化でき、稼働率の向上やエネルギー利用の最適化などの改善へとつなげられます。
また部門間に限定しない横断的な連携ができるため、各部門でのスムーズなやりとりを実現し、事業活動の効率化も期待できます。バリューチェーンにデジタル化を導入することで、データ活用による付加価値創出も見込めるはずです。
まとめ
本記事では製造業のバリューチェーンについてメリットや分析方法などを解説しました。
バリューチェーンを活用して自社の強み・弱みを的確に把握し、事業戦略の改善などに役立てることができれば、利益の拡大はもちろん、今後のさらなる発展を実現できる可能性が高まります。
「高い技術力だけでは売れない」時代に突入した現代でも、自社の独自性を生み出せたら、市場において高い競争優位性を確保することができるでしょう。
まずは事業活動を分類して現状を把握するなど、できそうなことから始めてみることをおすすめします。