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MOT(技術経営)とは?製造業における重要性やメリット、実際の導入事例を紹介

記事公開日:2023/09/08
最終更新日:2023/10/27
MOT(技術経営)とは?製造業における重要性やメリット、実際の導入事例を紹介

MOT(技術経営)とは、企業が自社の技術力を競争力のある事業に結びつけ、技術そのものに対して競争優位を確立する経営方法のことです。技術を経営資源として効率的に活用するためには、技術を企業価値に転換するマネジメント能力が必要です。MOTを取り入れることで、企業は自社の価値を最大限に高めることができます。


本記事ではMOTについて基礎知識からメリット、実際の導入事例まで網羅的にわかりやすく解説します。

MOTとは?

企業が自社の技術力を競争力のある事業に結びつけ、技術そのものに対して競争優位を確立する経営方法のことです。「Management of Technology」の頭文字を取った単語で、日本語では「技術経営」と訳します。自社の強みである技術力を活かして利益拡大を図るための経営手法であり、経営方針のみならず経営計画にまで関与します。MOTを導入することで人材の育成方針や、自社が守るべき知的財産が明確化され、戦略的な活用が可能になります。


資金量と死の谷


上記はMOTの考え方をイラスト化したものです。企業が新たな技術を研究し、産業として成立させるまでの過程を4つのステージ(「研究」「開発」「事業化」「産業化」)に分け、その過程で研究から開発に繋げる難しさを「魔の川」、開発から事業化、製品化に繋げる困難さを「死の谷」、製品の市場投入から産業として事業を成立できるかの関門を「ダーウィンの海」と定義しています。


「研究」を進めて技術シーズ(新規事業を開発を進めていくうえで必要になる技術のこと)を市場ニーズに結び付ける段階で、製品化の見込みが立たなければ次のステージである「開発」へ到達できず、「魔の川」に沈みます。「開発」ステージに進んだものを製品化し、生産ラインや流通ライン体制を構築できなければ「死の谷」へと落ち、「事業化」は失敗に終わります。「事業化」(商品化)を成功させるためには、競争優位性を確立し、常に進化しながら市場や顧客の要求に対応していく必要があり、変化に対応できなければ「産業化」に辿り着けず、「ダーウィンの海」に溺れることになります。


このように新規事業の創出から産業化に至るまでにいくつもの障壁が存在します。各障壁をいかにして乗り越え、成功確率を高めていくのか。その方法論となるのがMOTであり、MOTによるマネジメントが必要とされる領域です。

R&D、MBAとの違い

MOTと関連するワードに、「R&D(研究開発)」「MBA(経営学修士)」が挙げられます。「MOTはこれまでのR&DやMBAと何が違うのだろうか」と思われる方が多いかもしれませんが、下記図のようにMOTとカバーする範囲がそれぞれ異なります。



R&D、MOT、MBAの違い

 

出典:総論 最新MOTの考え方と実践面での現状と展望


R&D(Research and Development)とは、自社の競争力を高めるために自社の事業領域に関する研究や新技術の開発を行う活動を指します。R&Dを行うことで、自社にしかない技術資産が蓄積され、企業競争力の向上やスピーディーな製品開発が可能になるなどビジネス上で大きなアドバンテージを得られます。


MOTの概念に当てはめると、R&Dは研究から開発までのステージに該当します。MOTの場合はその先の事業化、産業化までのステージまで対応する必要があり、社内外の原資を活用した全方位展開のマネジメントが求められるのが特徴です。


一方、MBA(Master of Business Administration)は、経営管理修士号や経営学修士と呼ばれる学位のことです。MBAでは、ビジネスパーソンに欠かせない事業戦略、マネジメント、マーケティング、財務・会計、ロジカルシンキング、問題解決など経営に必要な知識と技術を体系的に学ぶことができます。MBAを取得することで企業から高く評価され、多くのMBA取得者が経営幹部やビジネスマネージャーに抜擢されています。


MOTとMBAはどちらも経営手法を学ぶという点では同じですが、MBAは事業化から産業化において経営に必要な知識や方法論を包括的に習得するのに対し、MOTは技術に焦点をあて、研究から事業化に至るプロセスで「いかにして技術を経営に活かすか」、「独自の技術を製品・サービスに落とし込むか」に重きを置いています。言い換えればMOTのほうが不確実性が高い中で高度なマネジメント能力が要求されます。

MOTが製造業に重要な理由

MOTが必要になってきた背景には、ものづくりの価値構造の変化が要因とされています。かつて日本の製造業は物作り、つまり「安くて品質の良い製品を作ること」で優位性を保ち、世界に「ものづくり大国・日本」として圧倒的な存在感を示してきました。しかし時代の変遷により、付加価値の構図は変化し、品質重視とコストダウン競争を図るプロセスイノベーションから、「何を創りどのような付加価値をつけるか」というプロダクトイノベーションが重視されるようになりました。このプロダクトイノベーションに適応するための方法論がMOTであり、現に欧米企業はMOTをいち早く取り入れ、GAFA※と呼ばれる巨大IT企業を生み出すことに成功しています。

※…米国の主要IT企業であるグーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)4社の総称。ガーファと呼ぶ。


ただ、現代の日本の製造業はプロセスイノベーションが未だ主流であり、プロダクトイノベーションに関する知識やノウハウがない企業がほとんどないのが実情です。加えて経済のグローバル化の影響で製品のコモディティ化(均質化)が進み、差別化戦略は限界を迎えつつあります。これからは技術力をベースに新たな成長エンジンとなるイノベーションを生み出し、その成果を製品やサービスを結びつける技術経営へとシフトチェンジする必要があります。ものづくりの価値構造の変化に対応していくためにも、DXやAIなどの最新技術とあわせて、MOTの考えを浸透させることが急務とされています。

MOT導入のメリット

MOTを自社に導入することで得られる、3つのメリットを解説します。

新規事業を創出できる

技術経営の最大の目的は、技術革新や市場環境の急速な変化に対応できる技術力を開発し、市場での優位性や競争力を獲得することです。そのためには、コアとなる技術研究や関連技術の新規導入などに取り組み、新しい製品・サービスを創造するための研究活動が欠かせません。技術シーズを得るための研究や開発に資本を投下することで、新規事業の創出やイノベーションによる事業成長を促すことができます。

収益の最大化

MOTの導入するうえで重要なのは企業の中核となる強みであるコアコンピタンスを把握し、自社の経営軸を定めることです。自社のコアコンピタンスを活かし技術プラットフォームを確立することで、製品やサービスをスピーディーに開発することができ、収益の向上が見込めます。また自社にしかない知識やノウハウが蓄積されることによって、他社との差別化が行われ、技術的な優位に立つことができます。新しい技術の開発は企業のブランディングを高められるほか、特許の取得によって特許権の使用料を得られるようになるため、利益の最大化を図ることが可能です。

競争力の向上

3つ目が競争力の向上です。MOTの導入により自社が注力すべき製品・サービスが明確化されることで、より高品質な製品の開発やサービスの提供が行えるようになり、企業の競争力を高めることができます。また自社技術をビジネス化する研究開発体制も整うことから、業務効率の改善やコスト削減に加え、イノベーション創出や事業の効率化も行いやすくなります。高い技術力によって開発された製品やサービスは市場のニーズにマッチしやすく、企業に大きな利益をもたらします。

MOT人材に必要な能力

技術開発は利益を生み出すまでに時間とコストがかかります。さらに国際情勢や顧客ニーズ、事業環境の変化などさまざまな影響を受けやすい側面があります。不確実性が増す現代においてMOTを実行するためにはどのようなスキルが必要なのでしょうか。求められる4つの能力について解説します。

リーダーシップ

MOT人材は技術研究から開発、事業化、実用化に至るまでさまざまなマネジメントを求められます。その役割は幅広く、他部署を巻き込む横断的な事業や外部ネットワークとの連携、新しい施策のスタートアップ・実行など多岐にわたります。さらには設定した目標を達成するべくプロジェクトごとに適した人材を集め、組織の編成や育成を行うマネジメントまで手掛ける場合もあります。ゆえにMOT人材には組織をまとめ、企業を導いていく強い統率力や指導力を持つ人物が適しています。

課題解決能力

MOTは研究開発から事業化までのプロセスで多くの課題が発生します。発生した課題を分析し、解決できなければMOTの正しい実行ができず、失敗に終わる可能性が高くなります。特にMOTは先述したように、不確実性の高い中で技術を活かして経済価値を創造し、収益を上げていくことが常に問われます。技術と経営を結びつけるには、物事の本質を見抜き、課題解消に向けて筋道を立てて行動していく課題解決能力が不可欠であるといえるでしょう。

組織の垣根を超えた事業推進能力

従来の経営スタイルは、組織の一部や個人だけが業務の最適化を図る部分最適の考え方がスタンダードでした。しかし部分最適だけでは生産性や効率性の向上につながりにくいことから、近年は組織間の壁をなくし、会社やチームなどの組織全体が最適化された状態を目指す全体最適を軸にした経営スタイルが主流になりつつあります。MOT人材には企業の全体最適を実現できる、コミュニケーション能力や交渉力、事業を促進させるための業務遂行力が必要です。

マーケティング能力

上記3つの能力に加え、横浜国立大学教授の谷地弘安氏は論説内にて、「MOV-(顧客)価値のマネジメント(Management of Value)-」を提唱し、技術者にもマーケティングリテラシーが大切であると述べています。


谷地氏はその理由として、なぜ企業が死の谷を乗り越えられず、事業化を失敗してしまうのかについて下記のように解説しています。


「死の谷に技術が墜ちていくとき、大きな企業ではどのようなことが起こっているというのだろうか。代表的なのは、同じ企業のなかで組織的な「活断層」が生じているということである。たとえば、上流の研究所が時間とお金、そして労力をかけて技術シーズを開発した。なのに、それを川下の事業部が採用してくれない。その意味・価値を認めてくれない。このようなことが常軌化すると、研究サイドの人間には自分たちの生み出したものが評価されないという不満が鬱積する。一方、事業部は事業部で、研究サイドのアウトプットに価値を認めることができず、やはり不満が鬱積する。同じ企業のなかでも、異なる部門間で双方に対する猜疑心や不満が蓄積されていく、これを活断層にたとえている。(中略)同じ企業内の研究サイドと事業サイドの間に技術の価値や意味をめぐる理解のギャップがあるために、結局はせっかくの技術が事業化されずに塩漬けになってしまうのである」


出典:技術マネジメントとマーケティング-「MOV」フレームワークによる問題の提起と整理-


死の谷への落下を防ぐ手段として、谷地氏は「自分が生み出した技術・商品がいったい誰にとってどのような価値を持つのかを明確にでき、それを事業サイドや営業サイドといった社内の人間に伝え、理解してもらう。同じ企業のメンバーであっても、部門が違えば価値観や課題の内容、プライオリティが大きく異なるのを前提に、あたかもほかの部門のメンバーを顧客のように考えアプローチしていくのである」と述べ、内向きのマーケティングによって組織内で生じる活断層を解消でき、死の谷の回避に貢献できるとしています。このMOTにマーケティング思考を取り入れたフレームワークをMOVと呼び、MOVによって「(自社の)技術・商品≠顧客価値・収益」の解消や死の谷やダーウィンの海など、MOTの過程で生じるさまざまな困難を解決できると説いています。


MOTにおける最大の課題は、どれほど優れた技術を発明したとしても、それが必ずしも商品開発に結びつかず、収益化に至らないという点です。これまでご紹介してきたように研究開発から事業化までには魔の川、死の谷、ダーウィンの海という3つの障壁が存在しますが、なぜそれらが生じてしまうのかという考察や障壁に対する明確な対応策については議論されていませんでした。谷地氏は死の谷やダーウィンの海が発生する理由をマーケティング目線から鮮やかに解説したうえで、MOTにおけるマーケティングの有用性や意義を明らかにし、同氏が提唱するMOVの重要性を示しています。

MOT導入企業の事例

本章では実際にMOTを導入し、収益の拡大や市場での競争優位性の構築に成功した企業の事例についてご紹介します。

株式会社住田光学ガラス

株式会社住田光学ガラスは1953年に創業し、光学ガラス、光ファイバー、特殊ガラスを製造する会社です。当時はガラス素材は輸入品がほとんどでしたが、同社は光学ガラスの国産化を推し進め、高度な精密加工技術を確立しました。さらに1960年には独自の光ファイバー技術を研究し、いち早く原材料から最終製品までの一貫生産体制を作り、類似の技術に対して強い優位性を持っています。同社は創業当時から技術経営をベースに、自社独自の技術やノウハウを社内に「人財」として蓄積し、常に他社が挑戦したことのない新しい領域にチャレンジしています。

出典:中小企業の技術経営(MOT)と人材育成

シーケー金属株式会社

シーケー金属株式会社は1936年に創業した、溶融亜鉛めっき加工や配管機器製造販売を行う会社です。伸銅業や溶融亜鉛業の領域ではリーディングカンパニーとして85年以上の実績があります。同社は世界初となるカドミウムと鉛を一切使用せずに、通常めっきの1.4倍の耐食性を持つ、溶融亜鉛めっき『CKeめっきスーパー』を開発し、成熟産業といわれた溶融亜鉛めっき業界の中で唯一売上・シェアを伸ばしています。その高い技術が評価され、新国立競技場をはじめ日本を代表する建築物にも用いられています。近年では本技術を活用したフランチャイズ展開も行っており、売上高の一定割合をロイヤリティーとして受け取る新しいビジネスモデルを構築しています。

出典:中小企業の技術経営(MOT)と人材育成

株式会社渡辺製作所

株式会社渡辺製作所は1912年に創業した、モジュラーローゼットや各種接続端子板、ネットワーク製品などを販売する会社です。1991年に電話機事業から事業転換を図り、コネクタ事業に参入。あわせてコーチ役として博士号を持つ人材の招聘や産学連携による研究体制の整備を行い、人材育成と社内教育体制の強化に努めた結果、CAT5E(カテゴリー5E) 製品の開発に成功し、世界でもトップクラスの技術水準を実現しました。現在主流となっているコネクタ事業は数年前からの研究開発がベースとなっています。研究開発を事業化に結びつけるための手段として、研究開発がある程度まで進むと、顧客にその製品をプレゼンし、顧客の反応をもとに製品化の可否を判断しています。このプロセスは顧客がどういうものを求めているのかを見極めるためのマーケティング活動のひとつであると同社は述べており、早くから研究開発にマーケティングを取り入れ、研究開発の効率化を図っています。

出典:中小企業の技術経営(MOT)と人材育成

まとめ

本記事ではMOTの製造業における重要性やメリット、実際の導入事例について紹介しました。製造業において技術は源泉であり、事業の存続・成長のために欠かせない存在です。日本の製造業は今、新型コロナウイルスの感染拡大や少子高齢化による労働人口の減少などにより、さまざまな課題を抱えています。それらの課題を解決するためにもプロセスイノベーションから脱却し、MOTによる技術に立脚した新しいビジネスモデルの構築が重要です。ぜひ自社の現状と照らし合わせて、体制見直しのヒントとして参考にしてみてください。


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  • この記事を書いた人
  • エムタメ!編集部
  • クラウドサーカス株式会社 マーケティング課

    プロフィール :

    2006年よりWeb制作事業を展開し、これまでBtoB企業を中心に2,300社以上のデジタルマーケティング支援をしてきたクラウドサーカス株式会社のメディア編集部。53,000以上のユーザーを抱える「Cloud CIRCUS」も保有し、そこから得たデータを元にマーケティング活動も行う。SEOやMAツールをはじめとするWebマーケティングのコンサルティングが得意。

    メディア概要・運営会社→https://mtame.jp/about/

    Twitter→https://twitter.com/m_tame_lab

 

 

 

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