カスタマーサクセスで葉酸サプリメント市場売り上げNo. 1に!ビーボ代表 武川氏に聞くD2C事業のCS重視経営
最終更新日:2023/11/17
近年、「顧客の成果を実現する」カスタマーサクセス(CS)の考え方が、日本の企業にも浸透してきています。
今回は、女性向けの美容・健康商品を販売し、カスタマーサクセスを重視した経営で業績を伸ばす株式会社ビーボ 代表取締役社長 武川 克己氏にお話をうかがい、D2C事業におけるカスタマーサクセス組織運営の秘訣や、CS部門が大切にすべき考え方などをお聞きしました。
1.テクニックではなく顧客満足を追求
通信販売やサブスクリプション型のビジネスが急伸している近年、「解約率(チャーンレート)を下げる」「アップセル・クロスセルを促進する」「ユーザーのアクティブ率を向上する」などの目的で、顧客の成功・満足を追求する「カスタマーサクセス部門」を設ける企業が増えています。
株式会社ビーボは、2010年に創業し、商品開発から販売、アフターフォローまで自社で行うD2C事業(Direct to Consumer)を中心に行う企業です。商材は、主にダイエット・マタニティ分野の健康食品や化粧品を取り扱う「BELTA」、大人のための化粧品「Palclair」など、女性向けの複数のブランドを展開しています。
同社では、商品を購入したお客様に対し、カスタマーサクセス部門が徹底したサポートを実施。商品購入の根底にある「こう〝なりたい〟」という思いや願いを実現することを大切にしています。このような方針に至るまでには、さまざまな試行錯誤があったそうです。
武川氏: 「ベルタ酵素ドリンク」を販売しはじめた当初、しばらくの間はマーケティングのテクニックで売り上げを伸ばすことができていました。しかし時間が経つにつれ、しだいに組織としての成長に限界を感じるようになっていきました。今から5~6年前のことです。
その時、数カ月に渡って会議を繰り返し、Eコマースという私たちの仕事でお客様に提供できる価値を徹底的に考え抜きました。そして『きれいになりたい』『健康になりたい』など、商品購入の本来の目的である、お客様の『こう〝なりたい〟』という気持ちをかなえることが、私たちが提供すべき本質的な価値であると気づいたのです。
それからは『モノ売り』をやめ、カスタマーサクセスという体験価値を中心に据えた事業体制にシフトしていきました。当時は、15~20人くらいの組織でしたので、私自身も200~300人の担当のお客様を持って対応していました。
株式会社ビーボ 代表取締役社長 武川 克己氏
2.カスタマーサクセス重視で葉酸サプリメント市場売り上げNo. 1へ
このような考え方のもと、カスタマーサクセスを重視したサービスを展開した結果、業績も確実に成長を続けていったという同社。 主力商品である葉酸サプリメントは業界売り上げNo. 1を達成しています。
※『葉酸サプリメントに関する市場調査』(2018年4月調査)TPCマーケティングリサーチ(株)調べ
武川氏: たとえば、葉酸サプリなどのマタニティ分野の商品であれば、妊娠がわかってから出産まで約8カ月間あります。その間、妊娠中のお客様にはさまざまな不安があると思いますが、当社のカスタマーサクセスは商品に直接かかわることでなくとも、その悩みにより添い、出産まで伴走します。
通販業界では、コールセンターやカスタマーサポートなど、顧客との窓口をアウトソースすることも一般的です。業界的には、当社のやり方はかなり非効率なことをやっていると思われるかもしれません。しかし、そこに他社にはないブランドを高める価値があると信じています。
3.CS組織運営の秘訣は「理念への共感」
カスタマーサクセスを重視した戦略で成長を続ける同社ですが、一般的にはカスタマーサクセスは、日本市場でまだまだ成長途中の分野であり、CS部門の運営に悩みを抱える企業も多くいます。ビーボ様は、CS部門を運営・拡大していくにあたり、どのようなことに気をつけていたのでしょうか?
武川氏: 当社のCSチームは、売り上げを指標にはしていません。それは、CSチームが売り上げを追わずとも、業績を伸ばせる方法を経験として理解しているからです。
そのかわり、CSチームは、お客様の現状とめざす姿を把握するために、いかに自分を信頼してもらえるかに力を注いでいます。たとえば、以前は1人のお客様とどれだけ長く話せるかのランキングをつけていたこともありました。
現在では、半期に1度、CS担当者が1番お客様のためになったと思えるログを出し合い、それを全員で聞いて優秀者を決め、表彰しています。これは、CSの評価制度というだけでなく、No.1の対応を決めることで、当社のCSのめざす方向性をチーム全体で共有するという目的もあります。
さまざまなお客様とのやり取りのなかでは、思うようにいかなかったり、CS担当者が落ち込んだりすることもあると思います。そんな時、テクニック論だけに頼っていると、できない理由ばかりあげてしまいがちです。
そのため当社は、自社の理念やクレドへの共感をもっとも大切にしており、あらゆる方法で社員の理解が深まるように努力しています。たとえば、入社時には理念の理解度をはかるテストを実施します。お客様の〝なりたい〟を導く存在になるという理念への共感こそが、CS担当者がやりがいをもって仕事を続けていく動機になると思っています。
お客様と笑顔でやりとりするCS部門の方
4.CS×テクノロジーでさらなる飛躍を
現在、ビーボ様は、理念やお客様の体験価値を大切にしながらも、より多くのお客様に対応するため、時代に合ったテクノロジーの活用も進めています。
武川氏: お客様の増加にともない、マンパワーだけで対応できない業務は、テクノロジーを活用し、より多くのお客様に価値あるCSを提供できるようにしたいと考えています。
CS活動を効率化するためのITツールも、いろいろなものを試しましたが、分析項目をより自社にあったものにするため、現在は独自の顧客分析システムを開発しています。これは、お客様が使うアプリとも同期することができ、iPhone版アプリは今夏ローンチ予定です。
自社システムは、現在、分析項目の最適化が済んだところですが、このような項目の精査にも、CSの担当者の現場の意見を取り入れています。今後は「カスタマテック」というカスタマーサクセスとテクノロジーを掛け合わせた全社戦略で、より多くのお客様に、広く、深く体験価値を提供していきたいと考えています。
5.まとめ
お客様が商品を購入する本来の目的に着目し、CSを通して体験的な価値を提供することで、他社にはない成長戦略を描いてきたビーボ様。
BtoB分野のCSの話題は、仕組み化や数値管理などのノウハウやテクニックが注目されがちですが、to C事業(対コンシューマー事業)ならではの、カスタマーサクセスが本来大切にすべき理念や姿勢の大切さを、改めて教えていただきました。
エムタメ!では、今後もカスタマーサクセスをはじめ、マーケティング分野の新たな取り組みに役立つ情報を発信していきます。