「その技術は何を実現するのか?」花王・本間充氏が語る、"BtoB企業のあるべき姿"とは
最終更新日:2023/11/16
こんにちは。
スターティアラボの杉山と申します。
スターティアラボでは、お客様のWebコンサルティングを担当しております。
そんな私が今回ご縁をいただきまして、花王株式会社のメディア企画部門デジタルコミュニケーションセンター企画室長である、本間充氏とお話をさせていただきました。
テーマは"BtoB企業の今後の課題と、あるべき姿について"です。
花王といえば、C向けの大手化学メーカーというイメージが強いですが、さらにBtoBのWebサイト企画まで携わる本間氏から「製造業の課題」や、企業が運営するメディアについて、BtoB市場の背景から語っていただきました。
「BtoB企業がインターネットの世界で勝つためにはどうすれば良いのか?」を軸に、本間氏の説明を交えながら進めていきます。
本間 充
Mitsuru Honma
1992年、花王に入社。1996年まで、研究所に勤務。研究所では、UNIXマシーンや、スーパー・コンピューターを使って、数値シミュレーションなどを行う。研究の傍ら、Webサーバーに遭遇し、花王社内での最初のWebサーバーを立ち上げる。1997年から研究所を離れ、本格的にWebを業務として取り組み、1999年にWeb専業の部署を設立した。花王のWebを活用したマーケティングに取り組み続け、現在は、デジタルコミュニケーションセンター 企画室長を務めている。(JB PRESSより転載)
1."オウンドメディアの先駆け"としての花王
花王は、オウンドメディアが世のトレンドとして認知される以前から、家事をする方向けに、"暮らしを豊かにする家事テクニック"を「マイカジスタイル」という自社運営メディアで公開しています。
マイカジスタイル自体は2013年6月にリニューアルオープンしたものですが、それ以前、2002年から「家事ナビ」を運営しており、花王のWebサイトの中でも、ユーザー人気を誇るコンテンツでした。
▼マイカジスタイル(2013年6月27日・家事ナビがリニューアル)
マイカジスタイルでは、花王の製品に限定する事なく「家事をする人なら誰でも役に立つ情報」を世界に発信し、人々の生活を豊かにしています。家事の様式はその時々で移り変わっていきますが、それに合わせたハウスワーク術を届けているのです。
家事のHow toを発信する人気コンテンツであった家事ナビを、2013年6月に"マイカジスタイル"としてリニューアルスタートさせた花王。なぜ、リニューアルを行ったのでしょうか?その理由は、前途したマーケティング領域の変化にありました。時代の変化に合わせてコンテンツを変化させたのです。
2.Webコンテンツを"メディア化"した理由
「課題は個人単位のLTV最大化でした。例えば子供から大人への成長に伴い、サービスもワンストップで提供出来るのが理想ですが、商品部門の壁があり、思ったように協同出来ないというボトルネックを抱えていました。つまり、ブランド間のLTV施策が出来ていないのが現状でした。」
このブログでも以前LTVについてご紹介しましたが、花王はその打開策として、Webサイトをメディア化したのです。
※LTVについての説明はこちら
「商品の価格設定や広告費は妥当なもの?それを知るためのLTV(顧客生涯価値)について」
「花王は花王のメリットを唱っているだけ」と思われてはダメで、「花王以外のコンテンツ提供がなければ、個人単位のLTV最大化は出来ない」と本間氏は説明しており、「昔はWebサイトを見てもらえば良かったが、今はメディアを好かれなければならない」と、改めてコンテンツマーケティングの重要性を指摘しています。
BtoBにおいても同様で、自社の製品アピールだけでは潜在顧客のLTVを高める事は出来ず、より安価なサービスの台頭によって製品のコモディティ化は余儀なくされていきます。それを防ぐためには、「価格競争以外の何か」が必要であり、それこそがコンテンツそのものであるとしています。
3.反響を呼ぶメディアの条件。正しい考え方とは
そうしますと次は、コンテンツマーケティングの内容について気になるところですが、本間氏によると、「反響を呼ぶメディアを生みやすいのは、炎上を隠さない、炎上にいち早く対応する会社。逆に反響を呼ぶメディアを生めないのは、炎上を隠すために力を注いでいる会社です」と説明しています。
いわゆる"バズる"ことに繋がるのですが、反対意見があって始めて議論が起こる。良くも悪くも平穏なコンテンツでは、皆が程々の興味に留まってしまい、情報は拡散していきません。もちろん、社会倫理的にあってはならないネガティブコメントはいただけませんが、独自性のあるコンテンツによって議論を巻き起こす事が鍵となっているのです。
「好きが一番良くて、次にどちらでもよい、最後に嫌い。こういう順序で優劣を考えられている方がいらっしゃいますが、正しくは、好き、嫌い、どちらでもよい。の順なのです。」
× 【好き>興味なし>嫌い】
○ 【好き>嫌い>興味なし】
好きに対しては、それを維持する力
嫌いに対しては、それを好きに覆す力 ※これがグレートポイントになる
興味なしに対しては、まずは賛否問わず振り向かせる力
「嫌い」はネガティブなだけの要素ではなく、「好き」を得やすいチャンス。各要素に対して、適切に力を入れていく事でメディアはユーザにとって価値ある存在となり、未来の潜在顧客を育られるのです。
いまさら聞けない「バズる」ための施策!これでアクセス数が急増!?
4.提案時、スペック表を出す会社か、社長が語る会社か
「NASAの技術はとても素晴らしいもの、という事は多くの方が認識していると思います。
では、その製品のスペックはご存知ですか?答えは知らないという方がほとんどではないでしょうか。その理由は、NASAがスペックを出していないからです。出しているのは、"その技術が何を実現するのか"だけなのです。」
例えば自社サービスの提案時、スペック表を用いて他社との差別化を図る、ひたすらに性能を説明する会社はメディアに向かないと本間氏は述べています。その理由は、一般のユーザーが高度なサービスを自ら展開出来る時代になっているためです。
「SAMSUNGが、マイクロチップを高速で生産するマシンを一般販売しましたね。今までマイクロチップの生産は地方に工場を置き、各都市部に配送していました。しかしこのマシンを持てば、都市部のマンションの一室でマイクロチップを大量生産でき、都市部では配送トラックが頻繁に来るため、在庫を抱える事なく個人が展開出来てしまうのです。BtoB企業は、まずその事実を認めるべき。その上でどうするかを考えていかなければなりません。」
つまり、「個人にそこまでやられては困る」という悩みが、今後製造業界ではさらに加速する可能性が高いのです。
そうなった時、自社の製品アピールをメインにビジネスを展開している会社は、そこすらも、より安価で手近なサービスに取って変わられてしまうかも知れません。求められるのはスペック表ではありません。「その技術が何を実現するのか」という夢を想像させてあげる事です。
今後、BtoB企業に求められるもの
ここまで、コンテンツマーケティングの重要性についてお話してきました。また、その具体的な手段としてのサイトのメディア化についてもご教授いただきました。しかし、最後に忘れてはならない大切な項目があります。今後、BtoB企業に求められるもの。それは"ユニークな分野でNO.1になる事"です。
「Webサイトで言えば、何かしらのキーワードで1位に表示される事です。これは一つの例ですが、Amazonのデータでは、表示順位1位と2位では1/4の売上差。さらの2位と3位では、そこからまた1/4の差が出る結果になっています。つまり、No.1を取る事に拘るべきなのです。」
同時に、「BtoBにはチャンスが多い」とも本間氏は述べています。理由は「自分でキーワードを作れるから」です。
「例えばですが、錆びないネジという特徴があれば、それを「錆びないネジ」という製品名にすれば良い。そうすれば"錆びないネジ"のキーワードボリュームがそのまま製品名に当てはまりますよね?そうしてブルーオーシャンを作り出すはチャンスは、BtoB市場にはまだまだあるのではないでしょうか。」
キーワードボリュームの多いレッドオーシャンに飛び込むには覚悟が必要です。しかし、発想の転換でブルーオーシャンを作り出し、特定分野でNO.1を取るための方法を常に探していかなければなりません。
そのためには、Webサイトでの情報の出し方も変えていく必要があります。自社製品の詳細だけではなく、それに関わる周辺の情報をユーザーに届けてあげる事で、目先の売上にはならずとも、長期的に未来の顧客を獲得出来るのだと思います。
6.まとめ
今回、本間氏とのお話で最も心に響いたのは"その技術が何を実現するのか"という言葉です。それが企業の独自性になり、複雑化するユーザーニーズにマッチするのだと、改めて重要性を感じました。
昔に比べて今は沢山のチャネルがありますし、それを解析・分析するための手段やツールは多数存在します。チャネル毎にツールを変え、独立したマーケティングは出来ていると思いますが、それではニーズが拾いきれない時代になっています。課題はOne to Oneマーケティング。マーケティングの領域をどこまで個に落とせるか。
あなたの持っている技術は、何を実現していますか?また、その情報は適切にユーザーへ届いていますか?
もし出来ていないと感じた方がいらっしゃいましたら、自社のWebサイトをユーザーの目線で見直してみましょう。「上辺ではなくユーザーを知る」ことがマーケティングの要です。