デジタルトランスフォーメーション(DX)の課題とは?
最終更新日:2023/11/17
デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital transformation)の課題には、既存システムのレガシー化・ブラックボックス化やIT人材のミスマッチなど数々の課題がありますが、それらを解決してDXを推進していくためには、個人の意識改革はもとより教育分野での国家レベルの改革も必要となるでしょう。
DXの本質はあくまでも「生産性の向上」にあり、端的に言えば「デジタルテクノロジーによる経営改革」なのです。
最初にストルターマン氏がDXを提唱した時点では「ITが人々の暮らしを豊かにする」との比較的ゆるやかな意味合いだったとされますが、もともと技術面から教育面に至るまでの「IT遅れ」を指摘されている日本においては危機感をもって語られ、経済産業省が「2025年の崖」で具体的に警鐘を鳴らしたことから国家的な問題として認識されるようになりました。
本コラムでは、国家、企業、個人のそれぞれが取り組むべき日本のDXの課題と解決策について解説します。
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デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?
デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital transformation)とは「デジタルによる変革」を意味し、ITの進化にともなって新たなサービスやビジネスモデルを展開することでコストを削減すると同時に生産性を上げ、働き方改革や社会の変革につなげる施策の総称です。
デジタルトランスフォーメーションを最初に提唱したのは、スウェーデンのエリック・ストルターマン氏であるとされます。
同氏は、目覚ましく進歩するITが「人々の生活をあらゆる面でより豊かに変化させる」ことがデジタルトランスフォーメーションの概念であるとしています。
日本では2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置し、デジタルトランスフォーメーションの課題と対策の検討を始めました。
同年には「デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン(DX推進ガイドライン)」とレポート(「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の議論をまとめたもの)を発表し、現在では国家的な取り組みとして注目されています。
参照
>「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」(経済産業省)
参考記事
>デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?意味・課題・事例など、一挙にまとめました!
デジタルトランスフォーメーション(DX)の課題
日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)は世界23位と言われ、ITインフラについては高く評価されている反面、ビジネスにおけるデータ活用の遅れが指摘されています。
DX推進を阻む課題には具体的にどのようなものがあるのでしょうか。経済産業省のDXレポートなどで提起されている解決策もあわせてご紹介します。
参照
>「デジタルトランスフォーメーション に向けた課題の検討 ~ ITシステムに関する課題を中心に ~」(経済産業省)
課題1:デジタル化すべき業務をベンダーに丸投げしている
我が国のDX推進を阻む課題のひとつに、ユーザー企業とベンダー企業との関係が挙げられます。
ITエンジニア人材は、DXを進めたいユーザー企業では不足している一方で、そのシステム運営や改善を引き受けるベンダー企業のほうに多数在籍している傾向があります。
そのような人材の偏りにより、ユーザー企業はベンダー企業の経験や知見に頼らざるをえず、ユーザー企業のシステム運営がベンダー企業内のITエンジニアの異動・退職などの人事の影響を受けやすく、適切な引継ぎが行われなければシステムがブラックボックス化してしまうこともあります。
特にシステム更改のノウハウをベンダー企業側だけが保持している場合は、ユーザー企業はDXに向けて柔軟に動くことが難しくなります。
→解決策:「開発者体験」(Developer Experience)の向上
「開発者体験(DX:Developer Experience)」とは、開発者たちがシステムを気持ち良く開発したり保守したりするための環境や体験を整えるという考え方です。
ヤフー、メルカリなど日本屈指のDX先進企業ではこの「開発者体験(DX:Developer Experience)」をDXの片輪とし、「二つのDX」というビジョンを掲げています。
DXの推進においては、企業側には組織文化への投資により「すぐれたIT人材に選んでもらえる会社になること」、個人には「企業に依存しない働き方を実践すること」がこれまで以上に求められるでしょう。
【参照】
課題2:既存システムのレガシー化
DX推進のためにITシステムや新たな技術を活用することが叫ばれる一方、それらを活用できるようにするために既存システムを刷新するという判断を下せる企業がまだ少ないという実情があります。
従来のITシステムの技術面での老朽化、また、老朽化したシステムの仕様を把握している人材が退職することによるメンテナンススキルの枯渇が、システムの肥大化・複雑化とブラックボックス化の問題として事業・経営戦略上の足かせとなるパターンが見られます。
→解決策:レガシーシステムの刷新とクラウドの積極活用
DXレポートではクラウド(「クラウドコンピューティング」の略。
インターネットを経由して提供されるサービスの呼称)の積極的な活用を推奨し、具体的には次のような手順を提案しています。
- レガシーシステムの機能を棚卸しする
- 変更が頻繁に発生する機能→クラウド上で再構築
- 変更・追加が必要な機能→クラウドへ移行・追加
- 不要となる機能はすべて廃棄
課題3:IT人材の育成・獲得のミスマッチ
現在の日本ではIT関連費用のおよそ8割が現行ビジネスの維持・運営に割り当てられていて、戦略的なIT投資にはじゅうぶんな資金と人材を割り当てられずにいると言います。
先進的な技術を学んだ人材を獲得していても、老朽化したシステムのメンテナンスに充ててしまい、「攻めのDX」を実現できるような高い能力を活かせていないのが実情です。
そもそも日本ではIT人材の7割以上がベンダー企業に偏在しているため、特にユーザー企業においてはITエンジニアの確保と教育が課題となっています。
また、日本ではIT技術が進んだ他国に比べてITエンジニアの技術力や専門性の高さに対する賃金と社会的評価が高まらないことが問題視されつつあります。
→解決策:ITエンジニアの技術力の適切な評価と「心理的安全性」の担保
「心理的安全性」とは、チームの中でメンバーが自分の考えを自由に発言したり行動に移したりすることができ、また、それによって不利益を被ることがない状態を指します。
「心理的安全性」の考え方は米Googleが2012年から取り組んだ大規模労働改革プロジェクトの研究結果から、チームの成功において最も重要な要素のひとつとされています。
日本では先述の「開発者体験(DX)」とともに、ITエンジニアが快適にシステム開発にあたれる環境づくりのために重要であるとして注目されています。
課題4:日本の制度や大学でのIT教育が米国に比べて遅れている
日本では現状、本格的なIT技術を学ぶには専門の工業高校や高等学校に進学しなければなりません。
日本の高等学校でのプログラミング教育必修化は2022年に実施予定です。
2020年からの小中学校での必修化より遅れ、この間にも日本と世界各国のIT教育の格差はさらに開いていくでしょう。
→解決策:IT教育が進んだ国への留学
プログラミング教育をはじめとしたIT教育が進んでいる米国などに留学して最先端の技術を学び、それを持ち帰って日本の技術やセンスと掛け合わせることで力を発揮する道を推奨する考え方もあります。
課題5:部門間の軋轢
企業内の事業部ごとにそれぞれ個別最適化されたシステムを利用していて、いざ全体最適化を試みると事業部が抵抗勢力となってしまい、なかなか進まないというケースがあります。
プロジェクトのオーナーシップが事業部内にあり、受入テストや仕様決定を実施する仕組みが無い場合にも事業部と情報システム部門とのコミュニケーションが不十分になります。
→解決策:全社横断型のデータプラットフォームを構築する
自社で保有しているデータの価値を見直して適切に活用できるよう、必要に応じてAIを導入することも推奨されています。
全社横断型のデータプラットフォームの構築がひとつの理想であり、DXの最もシンプルな基礎部分となるでしょう。
解決するには?
ここに挙げたような課題を解決するには、データの活用とAIの活用、部門間の連携、業務プロセスの効率化が鍵となります。
まずは各企業や団体が全社横断型のデータプラットフォームを構築すること、その先に、企業や団体の垣根を超えたデータ共有や業務連携があるというイメージです。
経済産業省のDXレポートでは、業界ごと、あるいは課題ごとに、すべての企業や団体が利用できる共通のプラットフォームを構築し、共用したほうが合理的で経済的と考えられるシステムはすべてそこにまとめるというアイデアを提唱しています。
また、各企業が既存システムを刷新してDXを実現すれば2030年の実質GDPは130兆円を超える可能性があると試算しています。
そのためのひとつの手段として、DXレポートでは先述の通りクラウドの積極的な活用を推奨しています。
まず取り掛かるべきこと
多くの日本企業がDX化の初期段階に位置するなかで、「変革疲れ」が指摘されています。
「変革疲れ」とは、DXに期待と熱意をもって取り組んだ企業の多くが、本格的な展開に至る前段階でさまざまな障壁に遭い、頓挫している状況を指します。
DXは終わりのない旅にも例えられ、海外の革新的な企業でさえも疲れを見せることがあると言います。
日本企業が息切れすることなくDXを推進していくためには、自社の課題を正確に認識し、データをじゅうぶんに活用する技術を取得することが必須となるでしょう。
自社のニーズに合ったDX推進施策のヒントをつかむには、DXをテーマとした各種セミナー(ウェビナー)を活用して情報収集を行うことや、参考本などから国内外の事例を知ることもおすすめです。
参考記事
>デジタルトランスフォーメーション(DX)のセミナーページまとめ!今から勉強する方におすすめの主催会社
>デジタルトランスフォーメーション(DX)の事例 ~国内事例と海外事例をそれぞれまとめました!~
>デジタルトランスフォーメーション(DX)の参考本【11選】
まとめ
「2025年の崖」が叫ばれつつ2020年も半ばを過ぎた現在、折しも新型コロナウィルスの影響で経営的に先行き不透明な局面を迎え、「このままではいけない」と焦りを感じる企業は多いのではないでしょうか。
本コラムでご紹介したように、日本企業におけるDXの課題を解決するためのIT人材の確保と活用、また企業内での部門間の連携などはテクノロジー論以前に人と人との関係性が鍵となる部分が大きいです。
また国際競争力の点では、日本の「おもてなし文化」に由来し世界的に評価されている高度なサービスのあり方が、効率性を最重要視するDXにおいては足かせになるのではないかという指摘もあります(「ジャパンクオリティー問題」)。
短期的な施策と長期点な施策を組み合わせて効率よくDXを進められるよう、ここでご紹介した解決策がご参考になれば幸いです。
なお、中小企業の「2025年の崖」対策としては国の制度である「IT導入補助金」(経済産業省)を利用するのもおすすめです。
バックオフィス業務の効率化やITツールの導入費用の一部補助を目的として、事業類型により30万円から(補助率は1/2から)の支給を受けることができます。
新型コロナ感染症対応の「特別枠」もあり、オンラインでの公募が可能です。ご興味のある方は検討してみてはいかがでしょうか。
【関連記事】
出典
>書類のハンコも郵送も不要。デジタルでデザインされた経産省の「IT導入補助金」(経済産業省)
参考記事
>【新型コロナウィルス影響調査】緊急事態宣言前と比べ、お問い合わせが54%減り、受注数が58%減っている。担当者に電話が繋がらない理由として最も多かったのは「担当者が出勤していない」という結果に。