大規模カンファレンスを通じて市場認知を変える方法
最終更新日:2025/10/30

【この記事の要約】
車両動態管理サービスを提供する株式会社スマートドライブの、The Model型組織への移行に関するインタビュー記事です。
同社は、事業の急成長に伴い発生した部門間の連携不足という課題を解決するため、The Modelを導入しました。成功の鍵は、各部門のKPIを、最終的な売上に繋がるよう連鎖させたことにあります。例えば、マーケティングはリード数だけでなく、その後の「有効商談化率」までを追うことで、リードの「質」を強く意識するようになりました。データに基づいた客観的な議論を重ね、全部門が顧客志向という共通の価値観を持つことで、組織の壁を乗り越えた事例です。
【よくある質問と回答】
スマートドライブ社がマーケティング基盤を再構築した、一番の理由は何ですか?
事業が成長し、より広い市場へアプローチする必要が出てきた中で、従来の「個人の能力に依存する」マーケティング体制に限界を感じたためです。再現性が低く、施策の量や質を担保するのが難しいという課題を解決し、組織力で安定的に成長できる仕組みを構築することが目的でした。
MAツールを刷新したことで、具体的にどのような効果がありましたか?
Adobe Marketo Engageのテンプレート機能などを活用することで、施策の量を従来の約2倍に増やしつつも、運用負担は増やさないという効率化を実現しました。また、各施策の投資対効果がデータで可視化されるようになり、勘や経験ではなく、データに基づいた客観的な意思決定が可能になりました。
プロジェクト成功の要因は何だったのでしょうか?
部門間の強力な連携が最大の成功要因です。このプロジェクトでは、マーケティング部門だけでなく、営業、デザイン部門も一体となって取り組みました。部門間で「売上への貢献」という共通の目標と評価指標を持つことで、部分最適ではなく、全体の成果を最大化するための協力体制を築けたことが成功につながりました。
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Googleやsalesforceといったグローバル企業は毎年、米国や日本で定期的に数日間にわたる大規模なカンファレンスイベントを開催し、カスタマーサクセスやブランディングに貢献しています。その来場者数は1万人を超える規模となっています。
ここまで大規模ではなくても、「Inside Sales Conference」や「オープンソース カンファレンス」といったテーマを絞ったカンファレンスイベントが、来場者数1,000~2,000名規模でいくつも開催されています。
では、こうした規模のイベントを自社で主催したいと考えた場合、どのように進めていけば成功させられるのでしょうか?そもそも、大規模カンファレンスには、開催効果があるのでしょうか?
今回は、2019年11月15日(金)に虎ノ門ヒルズにて、モビリティをテーマとするカンファレンス「Mobility Transformation 2019」を主催した株式会社スマートドライブのマーケティング/PR担当である大里 紀雄氏(@osatonorio)に、大規模カンファレンスを成功させた秘訣についてインタビューしました。
「車両管理会社」ではなく「モビリティデータの利活用を促進するプラットフォームをお客様に提供する企業」として訴求したい

当日の様子
「Mobility Transformation 2019」は、初開催で有償参加のカンファレンスであるにも関わらず、1,500名以上もの来場者があったといいます。
まずは、カンファレンス開催の目的から伺いました。
エムタメ!:参加費のあるイベントであるにも関わらず、初回で1,500名以上もの来場者を集めたとは、すごいですね。
カンファレンス開催の目的は、何だったのでしょうか?
大里氏:ありがとうございます。当社は、モビリティデータの利活用を促進したい企業に対してモビリティデータに特化したDWH(データウェアハウス)の提供やモビリティデータの分析等を行っています。また、移動体の走行データを集め、お客様のサービスに組み込んでもらったり、お客様と一緒に新しいモビリティサービスを作るというビジネスも手がけています。
データを収集するためには、当社で製造したIoTデバイスを車のシガーソケットに差してもらう必要があります。ただ「データをください」といっても了承してもらいにくいので、今までは主に、BtoB向けに車両管理サービスを展開してきました。
そういったこともあり、当社は「車両管理の会社」として認識されてしまうことが多く、モビリティデータの提供会社として掲げているミッション「移動の進化を後押しする」とはかけ離れたイメージを持たれていたんです。
私が入社したのが2019年3月なのですが、当時のコーポレートサイトも車両管理会社を彷彿とさせるものでした。当社の世界観が世間にうまく伝わっていないと感じ、なんとか外部からの弊社に対する見る目を変えたいという思いがカンファレンス開催を決めた動機です。
セミナーではなくカンファレンスを手法として選んだ理由

エムタメ!:つまり、市場認知を変えるためにカンファレンスを開催されたわけですね。
認知という目的だと、セミナー開催などの方法もあったかと思うのですが…?
大里氏:セミナーだと、どうしてもある程度、テーマが限定的になってしまうので、モビリティに対して興味を持っている参加者に門戸を広くして来てもらうには、集客に手間がかかり過ぎると判断しました。それよりも、一度の参加で幅広い情報収集が行えるような大きなテーマでカンファレンスイベントを開催した方が良いと考えたのです。
前職で、まだ世の中にマーケティングオートメーションツール(MA)が知られていない頃に、ユーザーとしてマルケトを導入して使っていたことがありました。当時、マルケト社の社員数もまだ10人に満たないほどでしたが、恵比寿の豪華なホテルでカンファレンスを開催したんです。MAはもちろんマルケトという名前もほとんど認知されていない頃で、私自身、マルケトに対するイメージはまだ懐疑的でした。
そのイメージが、カンファレンスに参加したことで一変したんです。今でこそMAも浸透してきましたが、当時のMA業界と現在のモビリティ業界の状況が似ていると思い、入社後の歓迎会の席で、「カンファレンスを開催したい。やるなら今しかない」と社長に直談判したのが始まりです。
エムタメ!:社長や経営層の反応はいかがでしたか?
大里氏:即決で「やろう!」という反応で、すんなりGOサインをもらえました。実は、1~2年前にも似たようなアイデアがあったそうなのですが、まだ社員数も少なく、リソースが足りなかったこともあって断念したという経緯があり、今ならできるだろうという判断だったようです。
登壇者は基本的に人脈を駆使して依頼

当日の様子
エムタメ!:登壇した講師には、大企業や有名企業から著名人が何人も名を連ねていますが、講師の選定方法や登壇を了承してもらうコツなどがあれば、教えてください。
大里氏:登壇者を選ぶときは、登壇者ありきではなく、カンファレンスのコンセプトの一つである「業種業界の垣根を越えて、さまざまなプレーヤーに話してもらう」を第一に、あるべき姿から落とし込んでいきました。
「“移動の進化”を軸にさまざまな業界の人に話してもらうとしたら、どんなセッションがあったら面白いか?」という観点からセッションテーマを決めていき、そのテーマに適した人物を挙げて進めていきました。
具体的には、「モビリティ×物流」「モビリティ×シェアリング」「モビリティ×地方創生」といったテーマを挙げて、どの企業のどの部署がマッチするかを検討し、社内のツテをたどって依頼していきました。
エムタメ!:ツテのない登壇者はいなかったのですか?
大里氏:基本的には、ありませんでしたね。登壇をOKしてくれた人のツテで、登壇して欲しい人に紹介をお願いしたケースはあります。
エムタメ!:登壇交渉はどのように行いましたか?
大里氏:まず、コンセプトを説明し、話して欲しいテーマを伝えました。了承後の打ち合わせで、さらに細かい調整を行っていきました。
セッションのクオリティ管理は、担当者制を敷いて細かく調整
エムタメ!:登壇講師数がかなり多いので、クオリティの調整が大変だったかと思います。
大里氏:ええ、大変でした(笑)。カンファレンスは、業種業界をまたいで一気に情報をインプットできる場にしたかったので、なるべく1つのセッションに複数の登壇者に参加してもらえるパネルディスカッション形式を多く取り入れたので、登壇者数が膨れ上がったのもあります。
セッションごとに社内で担当者を決めて事前ミーティングを行い、調整していったのですが、私自身は進行管理に集中するようにしました。
ブース枠には技術を持ったベンチャー企業を誘致

当日のブースエリアの様子
エムタメ!:スポンサー枠の契約条件などは、どのように設定したのですか?
大里氏:スポンサーにもいくつかランクはありますので一概にはいえません。
たとえば、上位クラスのスポンサーでは、「週刊ダイヤモンド」での有償の対談記事を作り、カンファレンスへの申し込み導線を付けました。これは、当社としても集客につながり、一石二鳥でした。
また、ブース出展企業に関しては、大手製造企業のニーズとして「ベンチャー企業と接点を持ちたい」という要望が多かったため、なるべくベンチャー企業のブースを揃えました。
エムタメ!:それは、どうしてですか?大手製造業に特有の課題などがあるのでしょうか?
大里氏:業界として、自社開発するよりもベンチャー企業とコラボしたいという流れがありますが、大手企業が得ている情報と、当社のようなベンチャー企業界隈で得られる情報では種類が違うようです。大手製造業は「いろいろな技術を持ったベンチャーがあるが、詳しくはわからない」という状態だと伺いました。
後で詳しくお話しますが、「EventHub(イベントハブ)」というツールを導入して、出展企業と大手製造業がつながれるような取り組みも行いました。
開催の半年前から広告計画を立て1,500人以上を集客
エムタメ!:改めて、1,500人という来場者数はすごいと思うのですが、集客方法について教えてください。
まず、ターゲット層はどう設定したのですか?
大里氏:広く「移動の進化に興味のある人」としました。
モビリティ関連のイベントというと、どうしても自動運転やEV(電気自動車)といった技術的な話に偏りがちですが、移動が変わると、法律や街も変わりますし、保険や物流など幅広い業界が変容する必要があるんです。たとえば、自動運転が実現したら、車内のエンターテイメントも変わってくるでしょう。マーケティング領域も変わってきます。だから、業界には垣根を作りませんでした。
エムタメ!:広告なども活用されたのですか?
広告計画は、開催の半年前から予定を立てて実行しました。具体的な施策と時期は、次の通りです。
■半年前:インプレッション重視
- Yahoo!を中心とするディスプレイ広告
- YouTube広告 など
■2~3ヵ月前:クリック重視
- Facebook広告 など
■1ヵ月前:コンバージョン重視
- 郵送DM
- 週刊ダイヤモンドのタイアップ記事末にイベント導線(※開催2週間前に公開)
- News Picksの広告
- メディアスポンサー(5社)
まず、開催半年前からは、インプレッション重視で、Yahoo!を中心とするディスプレイ広告やYouTube広告などを出稿しました。
また、この時期にティザーサイトも公開しています。登壇者やタイムテーブルは未定でしたが、こういうイベントを開催するという告知の意味合いでした。

2~3ヵ月前からは、クリック重視に切り替え、Facebook広告出稿などを行いました。インプレッションは多いものの、あまりコンバージョンせず、思ったほど効果があがりませんでした。
1ヵ月前からは、コンバージョン重視で郵送DMを開始しました。ターゲット層が紙文化の強い業界なので親和性があり、大きな効果をあげました。来場者の半数以上がDMからでした。
タイアップ記事は、週刊ダイヤモンド に出稿。News Picksは、当社の代表の北川がプロピッカー だということもあり、広告文と北川のコメントをセットで配信できた点が良かったです。
このほか、社員の知り合いや友達にもどんどん告知してもらい、参加者を確保していきました。社運をかけたイベントでしたので、泥臭く地道な施策にも取り組みました。
KPIは開催後のメディア掲載数 目標外の商談も創出
エムタメ!:カンファレンスの費用対効果について伺いたいのですが、まず、目標や指標はどこに置かれていましたか?
大里氏:今回は、あくまでも「市場からの当社の見方を変える」点にのみフォーカスしていたので、商談創出はまったく考えていませんでした。KPIは、イベント後のメディアでの掲載数や取り上げられ方です。
また、異業種の人たちのコラボレーションのきっかけになれば良いなというのをサブ目標としていました。当社のビジネスの特性から、異業種のコラボが広がることで、巡り巡って自社の利益につながるからです。
コラボレーションや協業が生まれた
エムタメ!:期待されていたコラボレーション効果はありましたか?
大里氏:ええ、コラボレーションのほか、協業なども生まれています。「いろんな企業と出会えて良かった」といった感想も届いています。
エムタメ!:コラボレーションを生むために取り組んだ施策はありますか?
大里氏:主催者・登壇者・参加者がつながれるツール「EventHub(イベントハブ)」を導入し、活用しました。
活用を促進する工夫としては、来場者がいざ使おうと思ってツールにログインしたときに、ほかに誰もユーザーがいなかったらモチベーション下がってしまうと考え、あらかじめ弊社の社員はもちろんこと、参加者の方々に写真付きでプロフィールを登録しておいてもらったことです。
また、会場では、セッション間の休憩時間中、モニターに「イベントハブ」でつながりましょうというメッセージや登録用のQRコードなどの案内を表示しておきました。参加者への事前周知では、メールを活用しました。
会場には、対面でマッチングできるミートアップスペースを設けたうえで、会場内の地図やテーブルごとにナンバリングしてわかりやすくしておきました。

当日のミートアップスペースの様子
ブース出展社には、一つずつブースを回って使い方を説明し、ブースへの来場者以外のさまざまな人(来場者)ともつながれるとメリットをアピールしました。
想定外の商談が生まれ、社員のモチベーションが向上
エムタメ!:目標として掲げていた効果以外にも、副次的な効果などありましたか?
大里氏:KPIとして商談は置いていなかったのですが、来場者から「スマートドライブでは、こんな課題もカバーしてもらえる?」と引き合いがあり、実際に商談化した案件が何件かあります。これは意外でした。セッションの中に当社の事例やサービス紹介などを盛り込んでいたわけでもありませんでしたから。
エムタメ!:チラシの配布などもしてない?
大里氏:しませんでしたね。
ほかにも副次的な効果として、社員のモチベーションが変わりました。来場してくれた多くの方々を直に見て、会場の雰囲気を体で感じることで「私たちのやっている仕事は、こんなにも注目されているんだ」と感じてもらえたようです。社員のマインドを変えられたことは大きかったですね。
エムタメ!:それでは、採用への良い影響もあったのではないですか?
大里氏:ありました。採用予定者や検討中の方も来場してくれました。
最初の目的・コンセプト設計が重要

エムタメ!:これから新たにカンファレンスを開催したいと考える企業向けに、アドバイスをお願いします。
大里氏:最初の目的とコンセプト設計をきちんとした方が良いです。ここをしっかりやっておかないと、後で痛い目を見ると思います。
エムタメ!:コンセプト設計しなかった場合、どうなってしまうのでしょうか?
大里氏:当社の社員で過去に失敗経験を持つ者がいます。コンセプト設定をせずに進めていて、最後の詳細を詰めていく段階で「イメージとなんか違う」などと言われてしまい、修正が大変だったそうです。
後から修正するとなると、手戻りだらけになってしまい、余計な工数がかかります。特にベンチャー企業は、「あそこもやってて成功したから、うちも」と勢いで進めがちですが、それだとうまくいきません。最初の目的・コンセプト設計が重要です。
地方の方たちにもちゃんと届けたいからオンラインで開催
エムタメ!:2020年4月28日に第2回の開催予定がありますが、どんなプランになっていますか?
大里氏:今回はオンラインなので、1回目とはまったく違うものになっています。1回目の開催後、地方の方から「参加したかった」というメッセージをたくさんいただきました。「モビリティ×地方創生」も移動の進化においては大きなテーマなのに、リアルで開催すると東京に来られる人しか参加できません。2回目は、地方在住の方も含む「移動の進化に興味のある人」をターゲットにモビリティ情報を届けたいと思っています。
エムタメ!:楽しみにしています!
本日は、ありがとうございました。
「移動の進化への挑戦」をテーマに掲げ、2020年4月28日(火)に開催される「Mobility Transformation 2020」について詳しくは、公式サイトをご覧ください。
関連リンク
コーポレートサイト:https://smartdrive.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/smartdrivejapan
SmartDrive Magazine:https://smartdrivemagazine.jp/
Mobility Transformation 2020:https://www.mobility-transformation.com/
【English summary】
This article is an interview about the transition of SmartDrive Co., Ltd., a provider of vehicle fleet management services, to a The Model-type organization.
The company introduced The Model to solve the issue of insufficient inter-departmental collaboration that arose with rapid business growth. The key to their success was linking the KPIs of each department in a chain leading to final sales. For example, the marketing department became strongly conscious of lead "quality" by tracking not just the number of leads but also the subsequent "qualified deal rate." It is a case study of overcoming organizational barriers by repeatedly holding objective, data-driven discussions and having all departments share the common value of being customer-oriented.





