「Inside Sales Conference 2019」レポート 第二回 セッション「データドリブンセールスはどこまでできている?“営業の質”を高めるデータ戦略の秘訣とは」
最終更新日:2023/11/17
欧米では営業職の40%が専業でインサイドセールスに従事しているといわれています。日本でも近年、インサイドセールス部門を立ち上げる企業が増えてきており、いずれは日本でも当たり前の営業手法になっていくと考えられます。
人材領域を中心としたインターネットサービスを展開している株式会社ビズリーチは、インサイドセールスのイベント「Inside Sales Conference」を主催しています。2018年12月に開催された第一回につづき、2019年6月5日(水)に二回目となる「Inside Sales Conference 2019」が虎ノ門ヒルズにおいて開催されました。
エムタメ!では、三回にわたり、当日のセッション内容をレポートしていきます。
第二回は、セッション「データドリブンセールスはどこまでできている?“営業の質”を高めるデータ戦略の秘訣とは」の模様をお届けいたします。
「Inside Sales Conference 2019」レポート
第一回 セッション:国産MAツールベンダー競合3社が語る!成果を生み出すインサイドセールスの仕組みとは?
第三回 セッション:成長する組織とは?人を活かし事業を育てるインサイドセールス現場のリアル
1.データドリブンセールスに取り組む先駆的企業が登壇
左から、湯浅 将史氏(株式会社ランドスケイプ 営業本部 DXグループ 執行役員)、
絹村 悠氏(Tableau Japan コマーシャル営業本部 本部長)、
児玉 勉氏(株式会社インフォマート Fintech事業開発部 部長)
セッションはパネルディスカッション形式で行われました。
登壇者 | 株式会社インフォマート Fintech事業開発部 部長 児玉 勉氏 |
Tableau Japan コマーシャル営業本部 本部長 絹村 悠氏 |
|
株式会社ランドスケイプ 営業本部 DXグループ 執行役員 湯浅 将史氏 |
(以下、敬称略)
各社ではすでにインサイドセールス(IS)組織を持ち、そこへデータをどう活用するかがメインテーマとなりました。
最初に、各社および登壇者の自己紹介が行われました。
1-1.フード業界から全業界へターゲットを広げ、ユーザー企業数30万社を突破(株式会社インフォマート)
児玉 勉氏(株式会社インフォマート Fintech事業開発部 部長)
(敬称略)
児玉: 私は、営業、営業企画、事業企画、提携戦略などに携わったのち、いまから約10年前にインフォマートに入社しました。当社が提供する「BtoBプラットフォーム」の利用企業数が10万社を超えたタイミングで、BtoB領域の営業・マーケティング向け業界動向把握サービス「業界チャネル」を立ち上げ、事業責任者に就きました。現在は、Fintech領域の事業企画も兼務しております。
ISへの関わりでいうと、社内のアドバイザー的な役割を担っています。
当社は、創業から20年あまり。事業はおもに、企業間のやりとりを電子化することです。外食チェーン産業を中心とするフード業界を顧客として事業展開を行ってきました。ユーザー企業数が5万社を突破した時点で市場の20%ぐらいのシェアを取ったのですが、今後の成長を考えると業界を超えたサービスを展開する必要があると判断し、請求書の電子化サービスを全業界向けにスタートしました。その結果、ユーザー企業数は30万社を突破しました。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
ビジネスモデルとしては、請求書の発行と受け取りの両方を電子化しており、ユーザー企業の取引先が「使いたい」といえば無料のアカウントを発行します。すると、無料アカウントが重複して発行される企業が出てきます。これを有料見込企業としてISでアプローチをかけ、フィールドセールス(FS)でクロージングをかけて有料化するというフローを取っています。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
1-3.データを扱う従業員の数だけ営業アプローチができる(Tableau Japan)
絹村 悠氏(Tableau Japan コマーシャル営業本部 本部長)
絹村: 私は、Tableau Japanのコマーシャル営業本部の責任者をしています。もともと外資系ITベンダーでエンタープライズ向けにセールスを担当していましたが、キャリアの幅を広げるためにe-コマース事業を行う部署へ希望して異動しました。そこでは、「デジタルマーケティングを行ってリードを創出し、コールセンターで受注する」という方法で営業を行っており、コールセンターとデジタルマーケティングのスタッフたちのマネジメントを行うなかで、ISの面白さに目覚めました。
その後、Tableau Japanに移って、ISの立ち上げに携わりました。
当社はもともと、スタンフォード大学のメンバーが立ち上げた企業で、「Tableau Software」という製品を提供しています。製品の特長は、データを可視化することによって人々がデータを理解できるようにするという点です。
以前は、データサイエンティストなど一部の人がデータを扱うためのツールでしたが、現在では、すべての従業員がデータを扱うことがデファクトスタンダードになってきたため、営業方針も「データのプラットフォームとしてご利用いただける製品」としての売り方に転換しています。
我々のミッションはずっと変わらず「We help people see and understand data」です。Peopleつまり、ビジネスに携わる皆様がデータを扱うにあたり障壁となっていたテクノロジーやスキルセット、データガバナンスなどを、我々の製品を使うことで解消し、本来の力を発揮してもらおうというものです。
先ほどもふれたように、いまやすべての従業員があらゆるシーンでデータに接し、さまざまな意思決定にデータを活用しています。その支援を行うのが大きな使命です。
ユーザー企業は業界・業種・業態を問いません。ユーザー企業のなかでも、経理から総務、人事、営業、マーケまであらゆる部門でアカウントが発行され、Officeのアプリケーションの代わりにTableauを使ってデータと対話するというかたちでご利用いただいています。
ということは、当社の営業マンにはあらゆる部門が抱える課題を理解して提案することが求められるということでもあります。
湯浅: 湯浅:あらゆる部門がユーザーになり得るということは、たとえば、営業部門にアプローチして失注したとしても、他部署で受注できるかもしれないので、営業活動に終わりがないですね。
絹村: ええ、1社で何回アプローチするかというと、極論になりますが、全部門の全従業員数だけ可能性はあるわけです。日々、「最後まであきらめるな」と発破をかけています(笑)。
1-3.日本で最大の拠点数を格納した企業データベースやデータ統合ツールを提供(株式会社ランドスケイプ)
湯浅 将史氏(株式会社ランドスケイプ 営業本部 DXグループ 執行役員)
湯浅: ランドスケイプでは2016年頃にISを立ち上げ、私自身はその際に営業部門として運営に関わりました。2018年10月に営業本部DXグループ執行役員に就任しました。「DX」は、デジタルトランスフォーメーションの略で、デラックスではありません(笑)
当社は、1990年に大阪で設立し、今期で第30期目を迎えます。
創業者は、TSUTAYAの運営母体であるCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の社長室長を務めていました。当時から、誰がいつ何を借りたかというデータを蓄積して店舗の棚割に活用したり、他社に先駆けてデータベースマーケティングに取り組んでいたのですが、デジタルマーケティングに特化した会社を作りたいとの思いで当社を立ち上げました。
現在は、顧客データベースの一元化に取り組んでいます。ツールのあるところには何かしらのデータが存在するので、そのデータを整理、クレンジング、名寄せし、一元化のお手伝いをしております。
主力製品は、日本で最大の820万拠点を格納した法人マスタデータ「LBC」と、ERPやSFA、CRM、MAなどと連携する際にデータ統合が行えるクラウド型データ統合ツール「uSonar」です。
2.各社のISの現状と使用ツールの紹介
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
湯浅: データドリブンセールスについてお話いただく前に、各社がどんな体制のISを持ち、どんなツールを使っているか、その辺りを伺いたいと思います。
ISの導入時期は各社で異なりますが、一番早いのがTableau Japanさんで2011年ですね。
絹村: 会社を立ち上げた当初から、日本全国のなるべく多くのお客様に効率的にカバーしていこうということで、ISからスタートして徐々にFSに広げていきました。
湯浅: 外資系企業に特有の展開ですね。
表をご覧いただくと、ISの人材規模としてはどこも同じくらいですね。インフォマートさんの14名は、すべて社員ですか?
児玉: そうです。ISを立ち上げたのが2019年に入ってからなのですが、昨年から試行はスタートしていました。最初から14名体制だったわけではなかったのですが、半分は新卒から、半分は社内からという構成です。
湯浅: Tableauさんの20名も社員だけですか?
絹村: そうですね、すべて社員です。ただ、当社には複数のIS組織があり、私が見ているISでは案件の発掘からクロージングまで行っているのですが、このほかに、BDR(新規開拓型)やISをサポートするようなISもあり、すべて合わせて20名です。
湯浅: ランドスケイプでは、社内:7名とあるのが正社員で、社外:7名としているのがアルバイトと派遣社員です。ただ、社外人員のスキルもほぼ社員と同等で、過去に当社で持っていたコールセンターで10年以上の経験を持つような方もいて、新卒よりもトークができるメンバーです。
左から、湯浅 将史氏(株式会社ランドスケイプ 営業本部 DXグループ 執行役員)、
絹村 悠氏(Tableau Japan コマーシャル営業本部 本部長)、
児玉 勉氏(株式会社インフォマート Fintech事業開発部 部長)
湯浅: 表の項目で「INPUT」はデータベースとしてどんな情報を活用しているかということ、「OUTPUT」はKPI設定をどこに置いているかということです。当社とインフォマートさんのOUTPUTは「SQL」ですが、Tableauさんでは「売上」「案件作成額」などが挙げられていますね。このように細かく設定されている背景を教えてください。
絹村: いろいろなデータとKPIを絡めながら組織をドライブしていくというのが当社の方針であるのと、当社の場合、ISが実質的な営業部隊としてクロージングまでを行うので、最終的な目標として売上は意識させています。そこに向かうまでのKPIとして案件作成額や顧客カバー率といった指標を立てています。
湯浅: 「顧客カバー率」というのは、市場占有率のような意味合いですか?
絹村: 本当は市場占有率が見たくて、ランドスケイプさんの製品をもっと使っていきたいところなのですが、まだそこまでデータが統合されていないので、既存のお客様のなかでどれだけカバーできているかというのを指標にしています。
湯浅: つづいて、ツールについて伺います。企業・拠点情報のところでインフォマートさんが当社のLBCをお使いいただいていて、TableauさんはD&B Hooversを使ってらっしゃいます。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
絹村: グローバルでデータが統合されているD&B Hooversを使用しており、グローバル企業では使っているところが多いと思います。ただ、日本市場のカバーや業種分類など、これだけでは足りない部分もあり、そこをLBCで補いながら活用しています。
湯浅: MAやSFAはそれぞれ導入されていますね。インフォマートさんは、音声解析・コーチングにMiiTel(クラウドIP電話)を導入されていますね。
児玉: 当社のIS組織はまだ立ち上げたばかりで、新卒の割合も大きいので、どうしても教育をどうするかという課題が出てきます。一人ひとりについて見ることができないので、セルフコーチングができる仕組みを取り入れようと導入しました。 音声を可視化して評価できる点と、優秀な営業マンの会話を2倍速で聞いてもらうことで自主学習ができる点で活用しています。
3.ISにおけるデータ活用への取り組み紹介
湯浅: では、ここで、本題のISへのデータ活用についてお話いただきたいと思います。インフォマートさんからお願いします。
児玉: 当社における全体のデータの流れがこちらです。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
下の方にある「自社名寄せエンジン」というのは、ISを立ち上げる5~6年前からかなりの予算を投下して開発したものです。ランドスケイプさんのLBCをはじめ、複数の企業データを統合して名寄せを行っています。ここで、一度、集約したデータを吐き出して、各部署で活用しています。
マーケティング部門では、可視化ツールを用いて業界ごとに分析を行い、特定業界で成功した施策を業界内で横展開しています。ISに関しては、企業内の無料アカウント数が多いところとMAでの条件設定からアプローチ先を決めています。
それ以外に、業界分析やWeb行動履歴を見ています。業界分析では、自社製品である「BtoBプラットフォーム 業界チャネル」をトークに活用しています。FSでは、これに加えISによるヒアリング情報も活用しています。
企業情報は、個別にWebサイトから収集できますが、業界情報を得ようとすると困難です。特に、当社はずっとフード業界のみをターゲットとしてきたので、他業界の方たちと話す機会がありませんでした。そこで、業界情報収集に力を入れる必要があったのが背景です。
業界情報収集の具体的方法として、一つ目はその業界のバリューチェーンを理解することです。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
二つ目は、ファイブフォース分析で、その業界に置かれている企業の状況を把握することです。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
買い手の交渉力が強いのか、売り手の交渉力が強いのかといったことを大まかに把握します。
三つ目は、マクロ環境(PEST)です。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
その業界が、政治、経済、技術、社会の分野でどんな情報を得ているのかを知ることで、営業担当がこれらの情報を提供することもできるようになります。
最後が「今後の展望」です。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
その業界が今後、どのようになりそうかを把握することです。その業界に身を置く方にとっては常識ともいえるような展望が、他業界からはなかなかわかりません。それを把握しておくことが重要だと考えています。
湯浅: 業界動向に関しては当社でも重宝しています。ISでもそうですが、Webサイトのコンテンンツ制作を行う際に、その業界がどんな情報を求められているかを掴む必要があります。営業担当がヒアリングできる情報もありますが、聞けない情報もあるので、ツールを有効活用すると良いと思います。
この辺りについて、Tableauさんはいかがですか?
絹村: 当社の営業部門は新規獲得を目指して動くことが多いので、その企業が抱える課題を把握し、そこにアプローチすることがとても重要になってきます。現状から今後への遷移には必ず課題があるので、今後の展望を把握する重要性は同感ですね。
湯浅: TableauさんのISへのデータ活用について教えてください。
絹村: 当社のISでは、さまざまなフェーズでデータを活用しています。特に、蓄積したデータをどう生かしてIS組織を強化していくかという点についてお話したいと思います。
まず、当社のデータ活用の考え方として大きく3つのルールを掲げています。
①“Single Source of Truth” …データ統合と民主化
②定型レポート+アドホック分析 …ビジネススピードに合わせたデータ活用
③個人のパフォーマンスの最大化 …データ分析の価値
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
企業の中には、得てしてさまざまなデータが存在しており「どれが正しいのかわからない」という状態になりがちです。データをきちんと統合し、すべての営業マンに等しく開示して、誰もが平等にデータを活用できる環境にしていこうというのが①です。
また、ISには、コール数などの普遍的なKPIが存在します。そういったものは定期レポートで配信していき、その時々の営業戦略によって変化していくもの、より深堀していくものはアドホック分析を行うことで、ビジネススピードの変化に合わせたデータ活用をしていくというのが②です。
データ活用が何のためかといえば、会社のパフォーマンス最大化のためですが、究極をいうと「個人のパフォーマンスの最大化のため」が狙いなので、ここにつながらないデータの分析や可視化は意味がないという考え方で取り組んでいます。
②の定型レポートでいうと、リード・ジェネレーションからMQL、SQLのスコアリングを行い、営業部門がフォローアップを行います。その後、アフターフォローや販売後のお客様のWebサイト上での動きに至るまでを可視化しています。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
「ISに入ってきたリードは1日以内で対応する」というルールがあるのですが、対応できたものは緑、2日後から1週間以内が黄、一週間を超えると赤く表示されます。これをマネジメントの観点から見ると、赤く表示された案件が多い人が悪いということではなく、負荷がかかっているということなので、ダッシュボードから負荷を察知してコミュニケーションを取るといった対応が重要です。
また、BIデータを見るようにと指示しても見ない営業マンがいる場合は、業務プロセスに乗っていないケースが多いため、業務プロセス上に実装すると良いです。
否定型レポートとしては、四半期ごとに組織としての戦略を立案し、これに基づいて個々に行動プランを策定し、アクションを決め、結果をトラッキングして最終的にはそのパフォーマンスが改善されるようなコミュニケーションに活用するというサイクルを回しています。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
具体的な事例をご紹介すると、こちらは私が入社以来、気に入って使っているダッシュボードなのですが、上段が売上、下段が社数で、軸に入っているのが1社ごとの購買頻度を表しています。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
お恥ずかしながら、まだ1回のみの購入で終わってしまっているお客様も多いのですが、5回以上購入いただいているロイヤルカスタマーの購入金額が徐々に増えていることがわかります。
また、1回購入したお客様が、2回目の購入までにどういった行動を取っているかということもデータからわかります。ここから戦略を立案します。
当社の場合、1回目の購入から2回目の購入までの期間が11ヵ月というお客様が多いので、その条件でアプローチリストを作るという個人の行動プランを策定できます。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
こちらのスライドは、A、B、Cの3人の営業マンのパフォーマンスを比較したものです。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
Cは最初から大きな金額の受注が取れるスキルを持っていて、ロイヤルカスタマーも作れていることがわかります。一方、Aは最後まで1回購入のみのお客様しか作り出せていません。
こうした事実を営業マンにフィードバックする場合、口頭で伝えるよりも、データを見せた方が明確に伝わります。そのうえで「どうしたら改善できると思う?」とコミュニケーションを取ることで、パフォーマンス改善につながります。
データ活用に関しては、まだまだやりたいことが多く、業界情報もトークの音声解析も取り入れたいと考えています。
また、私自身が役立つと感じているデータがあっても、ISメンバーには見方がわからないということもあります。データがすぐにアクションにつながるようなコミュニケーションの取り方についても勉強中です。
左から、湯浅 将史氏(株式会社ランドスケイプ 営業本部 DXグループ 執行役員)、
絹村 悠氏(Tableau Japan コマーシャル営業本部 本部長)、
児玉 勉氏(株式会社インフォマート Fintech事業開発部 部長)
湯浅: 最後にランドスケイプの取り組みをご紹介します。当社では、2016年からISの運用を開始しました。背景には、展示会出展やイベント開催でリードを獲得しても、営業は話が盛り上がったお客様しか追ってくれません。獲得名刺のうち数パーセントのみしか追客せず、残り90パーセント以上のリードが放置されている状況でした。
しかし、追客されなかったリードがターゲット外かというと、そんなことはないし、ニーズがないかというとそういうわけではないのです。会社として、こうしたもったいないリードをフォローしていこうということで、ISを立ち上げ、営業が追わないリードをフォローして商談につなげていこうということになりました。
立ち上げ直後は、まず、数を重視したのですが、失敗しました。アポ数のみを目標に掲げて積極的にコールしていったのですが、そもそも展示会で名刺交換しただけでまだ関係性が構築できていないうちに半ば強引にアポイントを取ろうとするので、お客様を怒らせてしまうケースすらありました。創出できた商談も見込度の低いものばかりでした。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
この失敗に気づいた2017年1月頃から、関係構築を優先する方向に改善しました。いきなりコールするのではなく、メール配信などを重ねながら、まずは当社を知ってもらうことから始めました。
配信するコンテンツには、製品に関する情報はあえて入れずに、データベースマーケティングに関するコラムに徹しました。「役立つ面白いコンテンツを送ってくれる企業」という印象を与えて関係が構築されてくると、だんだん、メール内のURLをクリックしてもらえるようになったので、そうしたアクションのあったリードに対してISがコールするようにしました。
その結果、本人対話率が35%まで改善し、2018年末頃から、月間商談数100件以上を供給できるようになりました。今年に入ってから商談数を少し落とし、60~70件で推移しています。
理由としては、質を担保するためと、bellFace(オンライン商談システム)などを導入して、初期の商談はISが行うということに実験的に取り組み始めたため、FSにパスする商談が減ったという2点です。より効率を追求していくことと、ISの役割や価値を増やしていこうという方向性でこうした取り組みを行っています。
具体的なデータ戦略としては、自社製品である「LBS」「uSonar」を活用しながらMAを運用しています。まず、当社はとにかく膨大なデータを保有しているので、ターゲット企業群を抽出してアプローチに活用しています。
ただ、それだけだと弱いので、DSP広告(ターゲットを指定して出稿できる広告)を運用し、ターゲット企業のIPアドレスで判別して広告表示を行い、認知度の向上やWebサイトへの流入を図っています。
この結果、新たなデータが入ってくるわけですが、社名の表記ゆれなどが起きてくるので、名寄せを行ったり、情報更新を行っています。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
運用におけるポイントは二点。一つ目は、アプローチ対象を判定することです。展示会で獲得した名刺のなかにはターゲット外の企業もあるため、自社製品で業種や売上などから絞り込むことが重要です。
二点目は、SFAや基幹システムとデータの整合性を取ることです。ただ、ここに手間をかけてしまうとスピードが落ちてしまうので、母数の大きい自社データベースを構築しています。
また、社名やメールアドレスをキーにしてリードデータを登録するという方法が一般的ですが、メールアドレスは不明で社名しかわからないケースでは、たとえば「アシスト」という会社は日本に600社以上もあり、社名だけでは特定できません。ほかに住所や電話番号、ドメイン名など複数マッチキーとセットで登録しています。
これに加え、三点目として表記ゆれの解消があります。
この三点を、データが流入する入口でしっかり制御することがとても重要です。
表記ゆれに関しては、あまりにもゆれが大きいとデータベースと照合できないケースも出てきます。当社の資料請求サイトで実施しているのが、フォームで要求する項目を減らすことです。あまりたくさんの項目を入力させようとすると、離脱してしまいます。
当社では、メールの署名欄をコピペしてもらうという方法を取っています。すると、社名と住所、電話番号が分割され、LBCと照合して企業属性情報とともに登録されるという仕組みになっています。LBCは、基幹システムやSFAとも連携しているので、自動的に紐づけされます。
画像引用元: 当日の登壇資料より引用
このように企業データベースを活用することで、お客様の事例では売上やWebサイトのコンバージョンが向上したり、リードタイムが短縮できたりといった成果を上げています。
4.【質疑応答】ISスタッフのモチベーション維持はどうすれば良い?
湯浅: 質問を募集している時間を使って、インフォマートさんのデータ可視化について個人的に気になるので、伺いたいのですが。
児玉: まだ十分に使いこなすまでには至っていないのですが、経営層に可視化したデータレポート共有を行っています。また、業界ごとの占有率を見て、ホワイトスペースを把握し、そこになんらかの施策を考えるという取り組みも行っています。
児玉 勉氏(株式会社インフォマート Fintech事業開発部 部長)
湯浅: 当社では、MAを2つ使っています。EloquaとMarketoを両方使っている企業というのも珍しいと思うのですが、その理由の一つは、当社のお客様がこれらのMAを使っているので、当社製品とこれらのMAを連携させて何ができるのかを知っておきたいという実験的な要素。
もう一つは、もともとEloquaを使っていたのですが、それが当社の選択としてベストなのかどうかがまだ検証できていないので、Marketoも使ってみて、どちらがより当社の運用に適しているのかを比較するためです。
かなりコストはかかっているのですが、次につながる取り組みと捉えて進めています。
では、質問が集まってきたので、質疑応答に移りたいと思います。
音声解析についての質問が届いていますね。「教育への音声解析の活用はまだ現段階では難しいと聞きました。実際に機能していますか?何を指標としてトーク品卒の良し悪しを評価されていますか?」
児玉: いまはまだ実験中のようなところもあるのですが、MiiTelには自分が話した時間と相手が話した時間の比率がわかる機能が付いていて、基本的には相手が話す時間が長いほど良いとされています。そこを点数化しているのと、もう一つは、相手が話している途中で話し始めてしまっていないか。これもスコアで出てきます。
教育という観点でいうと、先輩社員が話している音声データを後から聞いて自習できる環境を用意する目的で導入したので、評価の部分については、これからですね。
絹村: 私は前職でコールセンターを見ていたことがあるのですが、顧客課題を抽出するためにトークタイムを長くしようという目標がありました。
実際に、営業マンの方が多く話してしまうとトークタイムは短くなる傾向がありました。逆に、最初は営業マンが話すけれど、途中からお客様が話してくれるというパターンではトークタイムは長くなる傾向にありました。これは相関関係としてけっこう明確に出ていましたね。
ただ、分析結果としてこういうことはいえますが、それを教育にどう活かすかというと、また難しいでしょうが。
絹村 悠氏(Tableau Japan コマーシャル営業本部 本部長)
湯浅: 当社も音声解析に関してはこれからです。リードの属性解析などに企業情報データベースを活用することは積極的に行っているのですが、オペレーションの部分でまだまだできていないことが多いですし、当社のお客様についても同様なので、これから取り組んでいきたいですね。
「SDRとBDRの比率はどれくらいでしょうか?」という質問が来ています。ご来場の多くの方はご存じだと思いますが、SDRはSales Development Representativeの略で「反響型営業」のこと、BDRはBusiness Development Representativeの略で「新規開拓型営業」のことです。
要は、プッシュ型とプル型ということですが、Tableauさんはこの比率はいかがでしょうか?
絹村: BDR:SDRが3:7ぐらいです。
湯浅: インフォマートさんは、いかがですか?
児玉: フード系をターゲットとしているISと全業界をターゲットとしているISで比率が異なります。フード系の方は一定数の反響があるためSDRの方が多く、だいたい7:3ぐらいの割合です。全業界の方は5:5ぐらいです。
湯浅: ランドスケイプの場合は、BDRが圧倒的に多いです。当社はデータベースを主事業としているので、コール先の情報は膨大に保有しているからです。アルバイト・派遣社員の7名はほぼBDRのみを担当しており新規リードの担当者情報を収集しています。正社員7名のうち2名はSDRです。だいたい8:2の割合でBDRが多いですね。
絹村: 先ほど伺ったコンテンツマーケティングでのナーチャリングを担当しているのはSDRですか?
湯浅: そうです。展示会などで一度は接点を持っているリードなので、それをどう育成していくかがミッションになっています。
左から、湯浅 将史氏(株式会社ランドスケイプ 営業本部 DXグループ 執行役員)、
絹村 悠氏(Tableau Japan コマーシャル営業本部 本部長)
湯浅: 次の質問です。「データ解析担当者の評価はどのように行っていますか?」
絹村: まず、「データ解析担当」という職種を置いているわけではなく、全従業員がデータ解析を行っているということが前提としてあります。最近、「データリテラシー」という言葉がありますが、リテラシーとは何かというと、データ言語を理解していて、人に伝えられる能力だと考えられます。すると、「語学を学ぶことの費用対効果」に近い感覚になってくると思います。先ほどお話したように、データを分析した結果を次のアクションにつなげ、その結果を分析して改善するというサイクルを回せる人が高評価を得るということになります。
湯浅: ほかに「ISの達成感がなくモチベーションをどう保てば良いか悩んでいます。工夫されていることがあれば教えてください」という質問がきています。
これは、ISスタッフが社員なのかアルバイトなのかでも変わってくるかと思うのですが、いかがでしょうか。
児玉: これは、永遠の課題かもしれませんね(笑)。私は、FSとの距離を縮めてフィードバックを多くしてあげることが大事だと考えていて、組織として実践するよう意識していますが、これが正解かどうかはまだ検証できていません。
絹村: Tableauの場合、売上を作るところまでISが担当するため、FSと同じ醍醐味があり、それが達成感につながっています。
また、個々が持つ達成感のポイントは異なるので、日々、1対1のコミュニケーションを取るなかで探る努力をしています。
ただ、これは本当に難しい課題で、答えはないと思います。
湯浅: 当社でも、ISがパスした案件がFSでどうなったか、その結果が良くても悪くてもフィードバックすることに取り組んでいます。
最後の質問です。「現在、ISの立ち上げフェーズです。データ活用の重要性を感じる一方で、ツール導入の短期的な成果にどれくらい寄与するのか社内で説得できず、結局、スプレッドシートとスラッグのみで進めています」
たしかに経営層からは短期的な成果を求められがちですよね。これは、どちらかというとMAなどのコンサルを提供されている企業さんからよくいわれることですが、3ヵ月、6ヵ月、1年とある程度、長いスパンで見てもらわないとなかなか結果を評価することは難しいです。
さらに経営層の理解をどう得るかという点では、経営層にISの経験者がいないということが難易度を押し上げています。社内にISへのデータ活用を推進してくれる仲間がいないと難しいですね。
児玉: 経営層に対する啓蒙活動は、当社のお客様などでも行っていると聞きます。なかなか、効果だけをプレゼンしても通らないので、事例を交えながら説得されているようです。
湯浅: 私自身もIS担当のお客様が経営層にプレゼンする場に立ち会って一緒に説得することが増えましたが、やはり「長期のスパンで」ということは伝えています。
絹村: あまり大きなゴールは掲げず、目の前の小さな成功体験を積み上げて、少しでもよいから蓄積したデータを活用していくということが重要です。SFAも何もないというところは、できることも限られているかもしれませんが、まずは小規模でデータを活用してみるという観点で取り組んでみてはいかがでしょうか。
湯浅: ありがとうございます。
すべてのご質問にお答えすることができませんでしたが、本日の内容が皆様の課題解決や運用のヒントになれば幸いです。短い時間でしたが、お付き合いいただき、ありがとうございました。
「Inside Sales Conference 2019」レポート
第一回 セッション:国産MAツールベンダー競合3社が語る!成果を生み出すインサイドセールスの仕組みとは?
第三回 セッション:成長する組織とは?人を活かし事業を育てるインサイドセールス現場のリアル