アメリカでインバウンドマーケティングが提唱されてから日本でもコンテンツマーケティングが注目を浴び、企業はこぞってブログ型のオウンドメディアサイトを立ち上げ、潜在層や見込客に情報を提供するようになりました。
SNSマーケティングが活発に行われるようになると、テキストや画像以外にホワイトペーパーや動画、アニメーションなど、ユーザーに求められるようなコンテンツを制作する重要性がさらに増しました。
そして、コンテンツマーケティングに限らず、施策の効果測定をはじめとするデータ分析やコンテンツ制作など、さまざまな場面でマーケターがデジタルツールに触れる機会も確実に増えています。
こうしたマーケターを取り巻く状況を受けて、2019年11月28日(木)、株式会社日本SPセンターが運営するメディア「CONTENT MARKETING LAB」主催、コンテンツマーケティング支援などを手がける株式会社クマベイス共催で、コンテンツマーケティングに特化した専門カンファレンス「CONTENT MARKETING DAY 2019」が開催されました。
「エムタメ!」では、当日の様子を数回にわたりレポートしていきます。第四回は、マーケティング活動の売上貢献を可視化するシステムを導入し、2年間で受注金額を2.37倍にまで増加させることに成功した株式会社ブイキューブ マーケティング本部 本部長 佐藤 岳氏(Twitter:@GakuMarketing)と、元HubSpotの日本法人立ち上げ一号社員&同社元マーケティング責任者で、現フリーランスのB2Bマーケター 戸栗 頌平氏(Twitter:@ShoheiToguri)が登壇した「V-CUBEの「コンテンツマーケティング × テクノロジー」 完全内製化1400日の軌跡」の模様をお届けします。
佐藤 岳氏(株式会社ブイキューブ マーケティング本部 本部長)(Twitter:@GakuMarketing)
佐藤氏が入社した2015年11月当時、同社には次の3つの課題があったといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
これが4年後の2019年11月現在には、マーケティング経由の1週間当たりの受注件数で2.37倍にまで増加しているといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
この成果が各種メディアでも取り上げられ、さまざまな企業からの相談も舞い込むようになったそうです。
そのたびに佐藤氏は「特に変わったことをしているわけではなく「As-is/To-be」で行っているだけだと回答しているといい、「現状(As-is)」から「あるべき姿(To-be)」まで段階目標をクリアしながら進めていったと述べました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
つづいて入社当時の同社の「As-is/To-be」が投影されました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
この事業年度ごとに段階目標を設定し、「あるべき姿(To-be)」まで営業部門とマーケティング部門で議論しながら改革を進めてきたといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
【事業年度ごとの段階目標】
2015-2016:お客様を理解
2017 :案件創出の効率化
2018 :価値提供(バリュー・プロポジション)
2019 :集客力の強化
初年度の目標は、お客様を理解することで、これを実現するために、次の3つの小目標を立てたそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
これを踏まえ、佐藤氏が講師となり、社内でコンテンツマーケティングのワークショップを開催したそうです。
売上に課題を抱えていた製品「テレビ会議システム」を例とし、ワークショップ参加者でこれを購入するお客様のペルソナとカスタマージャ-ニーを作成し、「購買プロセスの約6割をお客様自身が行っており、企業はお客様の購買プロセスをコントロールできないが、お客様の購買行動に合わせた活動を行うことが重要である」ことを前提としてディスカッションを行ったといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
この「お客様の購買行動に合わせた活動」の一環として、コンテンツマーケティングによる最適な情報提供の必要があり、お客様が求めている情報を「お客様の『課題』に応える情報『コンテンツ』」と定義しました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
そのうえで、カスタマージャーニーに沿って必要なコンテンツをピックアップした結果が以下の表の通り。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
これに基づいてコンテンツを制作し、機能に関して紹介するコンテンツをメール配信したところ、お問い合わせがあり、商談化したといいます。商談化したお客様には、メールやWebサイトのコンテンツのどこが響いてお問い合わせをくれたのか、検討の背景などもヒアリングしているそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
検討段階が進んでいるお客様に対してはハンズオンセミナーを開催したところ、毎回、参加者の約半数が案件化していると説明しました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
こうしたコンテンツマーケティングの実施と並行して、マーケティングオートメーション(MA)も導入したそうです。MAの選定は、導入後に実際にMA運用に携わるメンバー全員で候補製品のプレゼン後、点数で評価するかたちで行い、一番点数の高かったHubSpotを導入したそう。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
MA導入に当たり、プロジェクトを立ち上げ、「システム設定→オートメーション設定→デザイン・構築→セールスフォースとの同期→テスト、トレーニング→サービスイン」という流れで実施したといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
また、導入しただけでは社内で活発に利用されないことを予想し、営業部門向けにMAを使った案件創出の流れや、セールスフォースとの使い分けに関する資料を作成して周知を行ったそうです。
さらに、導入したHubSpotのブログ機能を活用し、オウンドメディア「INSIGHTS SHARE(インサイトシェア)」を立ち上げたことも紹介されました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
さらなるコンテンツ強化としては、BtoBでキラーコンテンツとなる顧客事例を増やしていったそうです。
まず、既存の事例をお客様の「規模(従業員数)」「業種」のマトリクスで分析したところ、バランスが悪いことが判明。これを是正すべく、事例数を増やしていったといいます。
また、数を増やすだけでなく、写真を入れて見やすくし、ページ数を増やすといった質の向上にも努めたといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
Web上でメールアドレスだけを入力すれば、顧客事例コンテンツがダウンロードできる仕様にしており、獲得したメールアドレスに対し、メールマガジン施策を行っているそう。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
作成したお客様事例は、営業部門が初回訪問する際にも活用されているといい、製品の機能などを説明するフェーズの前に、顧客に近しい層(従業員数・業種)や、想定される活用方法が近いお客様事例を持参して説明し、ニーズにフィットするかどうかや、提案範囲の確認を行う営業マンが多いのだといいます。
ここまでが、2015~2016の間の取り組みだそうです。
佐藤 岳氏(株式会社ブイキューブ マーケティング本部 本部長)
2017年度の目標は、案件創出の効率化であり、これを実現するために、次の3つの小目標を立てたそうです。
そして、営業部門のキーパーソンと目線を合わせて、課題の共有と解決を行うために、ミーティングを全16回実施した結果、整理された課題が「見込客情報の管理プロセスの改善」「インサイドセールス機能の強化」の2点だったといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
■見込客情報の管理プロセスの改善
■インサイドセールス機能の強化
同社では、インサイドセールスの位置づけを「チャンス・メーカー」としているといい、①お客様への情報提供機会をつくる、②営業部門への商談機会をつくる、の2点をミッションとしているそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
そのため、インサイドセールスに求める素養として、次の3点を掲げているそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
このなかで2点目のツール活用に関連して、同社のインサイドセールスではチャットが案件化率に高い効果を発揮しているそうです。さらに、受注率は変わらないものの、受注までのスピードも速く、受注1件当たりの単価も高い傾向があるのだそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
同社では、顧客事例のダウンロードと引き換えにメールアドレスを取得しており、その事例の関連製品・サービスに関する情報を、ほぼ毎日の頻度で送信しているといいます。
また、MAがメールアドレスから割り出した業種情報をもとに、同業種の事例を週に1回の頻度で送信しているそうです。
これらはMAの機能を活用した施策で、メール配信のみというシンプルな手法ながら反応率は高いといいます。
こうした、個別の顧客に合わせて情報を出し分ける施策は、Webサイト上でも行っており、来訪ユーザー企業の業種に合わせたり、所在地域に合わせて近隣企業の事例ページを表示したりしているそうで、これにもMAを活用していると紹介しました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
また、過去の受注結果にもとづき、高確度の見込客の条件をMAに設定しておき、該当するユーザーの来訪があったら通知が出るようにして、フォローを行う体制を整え、効率的な案件化を実現したそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
また、MAやSFA、CRMと、ランドスケイプ社のデータベースを連携させた活用も行っており、自社が持っている見込客情報がどの程度をカバーできているかを、業種と従業員数でマトリクスした表で分析しているそうです。
これを毎週、社数でウォッチすることで、自社のインサイドセールスや営業活動の方向性の正しさをチェックしているといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
ここまでが2017年度の活動として紹介されました。
佐藤 岳氏(株式会社ブイキューブ マーケティング本部 本部長)
2018年度は、価値提供(バリュー・プロポジション)で、お客様ごとへの価値提供を実現するために、自治体の災害対策室向けに緊急時の情報共有プラットフォームの提案を行うカタログ制作や関連するセミナー、展示会への出展を行うといった施策に取り組んだといいます。
また、テレビ会議システムを会議以外の目的(営業活動、採用、リモートワークなど)で使用するお客様が多かったことから、ITmediaとタイアップし、そういった事例をまとめたコンテンツを制作して、記事広告として連載したそうです。
【記事広告】新しい「仕事のしかた」 - ITmedia NEWS
画像引用元:当日の登壇資料より引用
これを続けるなかで、「広告による認知向上→バナー広告経由でお客様事例の紹介→バナー広告経由でソリューションの理解促進コンテンツを表示→セミナー申し込み」という流れが確立し、コンテンツマーケティングによる受注フローが仕組化できたといいます。
ここまでが、2018年の取り組みとして紹介されました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
佐藤氏は、2019年度の目標は集客力の強化だと述べました。
Webサイト訪問から最終的な受注率が算出されており、いかに流入数を増やすかが課題になってきたことから、オーガニック流入増が目標に掲げられたといいます。そこで、プロの力を借りようということになり、HubSpot Japanで2018年12月までシニア マーケティング マネージャーを担当していた戸栗 頌平氏を招き、アドバイスを受けたのだそう。
ここで、戸栗 頌平氏(公式Twitter:@ShoheiToguri )が登壇しました。
戸栗 頌平氏(フリーランスのB2Bマーケター)(Twitter:@ShoheiToguri )
戸栗氏は、見込客獲得を「ステージ1:ブログ訪問者数の最大化」「ステージ2:潜在見込客数の最大化」「ステージ3:見込客数の最大化」の3つのステージに分けたといい、特に「ステージ1:ブログ訪問者数の最大化」として潜在見込客の認知に注力した施策について紹介すると述べました。
社名や製品・サービス名以外でのオーガニック流入を増やすために、ブログのコンテンツを活用する方針を立て、HubSpotのブログ機能を活用して立ち上げたオウンドメディア「INSIGHTS SHARE(インサイトシェア)」を用いる施策を検討したといいます。
戸栗氏によれば、オウンドメディア運用でもっとも大変な点が、数値目標をもってコンテンツを作成していくことだといいます。そして、ブイキューブにおいてもこの体制づくりに課題を抱えていたと振り返りました。
2018年2月からスタートし、2019年11月までの9ヵ月(記事公開開始からは8ヵ月)で、オーガニック流入数が40~45倍、総セッション数が約5倍にまでの向上(予測値)に成功したといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
コンサルティングのポイントは、最終的に内製化できるように進めた点で、コンサルティング開始から5ヵ月で自走できるようになったといいます。
施策として行った内容はシンプルだといい、まずは現状把握と数値目標設定を行ったそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
戸栗氏は、数値目標を立ててブログを運営する大変さに触れたうえで、コンテンツマーケティングを正しい方向へ向かわせるためには、やはり、数値目標が大切であると強調しました。
実情として、10本の記事を公開したうち、うまくいくのは1本程度の割合だといい、そのつもりで数値目標を追った方が精神衛生上も良いとアドバイスしました。
現状把握の具体的な方法として、まずトラフィックを確認し、リードの獲得数は現状で目標の何%なのかを把握し、トラフィックを何倍増やせば良いのかを算出するといいます。そして、現状の記事公開ペースをもとに、何倍にすればよいかを考えるのだと解説しました。
たとえば、10倍に増やしたくて現状が毎月1本の記事公開だとすれば、毎月10本の記事を公開するという具合だといいます。
この「現状把握と数値目標設定」には、さほど時間をかける必要がなく、簡単にパパッと決めれば良いともアドバイスしました。
ブイキューブの場合、現状把握と数値目標設定を行った結果、不定期であった記事更新を毎週2~3回の更新に変更したり、記事の構造化(企画)して公開するようになったのだそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
構造化の際に採用したのが「トピッククラスターモデル」というもので、幹となる大トピックのコンテンツを核とし、それを支える小トピックをクラスターコンテンツとして配置し、ハイパーリンクでつなぐといいます。
ブイキューブでは具体的に、「働き方改革」という大トピックの周辺に「働き方改革 テレワーク」「働き方改革 デメリット」といった小トピックを配置していったそうですが、大トピックとしては「働き方改革」以外にも要素としてたくさん持っていたといい、可能性のある大トピックと小トピックを、1~2週間程度の時間をかけて、考えられるすべての案を出し尽くす作業を行う必要があるといいます。
この結果、約100のアイデアが出れば、約1年分のコンテンツの方向性ができあがるのだといいます。こうして集中的にコンテンツ案を企画すると、ランダムに記事を作成していくよりも更新を継続しやすいというメリットがあるとも述べました。
また、ブログ記事を作成する際におざなりにしがちなこととして、構成をしっかり決めることが挙げられました。誰に対する記事で、この記事を読んだユーザーにどう行動して欲しいのかといったことを決めるべきで、セミナーを開催する際に、どんな層向けにどんな内容で講演し、どんなアンケートを書いてもらったら営業に渡しやすいかといったことを考えるのと同じだといいます。
こうした準備を入念にしないと、執筆でほぼ100%失敗すると警告しました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
また、構成を作成しておくことで、記事のレベルを一定以上に保ちやすくなったり、公開後の効果を分析しやすくもなるとメリットを強調しました。
記事作成自体を外部のライターに発注するとしても、ここまでの作業は内製化した方が良いと述べました。さらに、トピックの作成方法や、構成の作成方法、外部ライターの確保の方法といったノウハウを資料として残すことで、人事異動などがあっても安定した記事作成体制が確立できるとアドバイスしました。
最後に、来期以降の展望として、先述の「ステージ2:潜在見込客数の最大化」「ステージ3:見込客数の最大化」の実現であることに触れ、戸栗氏は降壇しました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
再び、佐藤氏が登壇し、今後のマーケティング施策としてテレビCMを展開予定であることが紹介され、セッションは幕を閉じました。
2020年の開催も既に決定していて、11月20日(金)に昨年と同会場の恵比寿でおこなわれます。
三年目となる今回は「直感と理性のマーケティング」をテーマに、実用的なコンテンツマーケティングを学ぶ機会、そしてコンテンツマーケティングに取り組む人々同士をつなぐイベントとなるようです。