製造業におけるプラットフォームの重要性とは?メリットや成功事例、プラットフォームビジネスの強みについて解説!
最終更新日:2023/10/26
製造業プラットフォームとは、ひとつのプラットフォームにさまざまな企業が集まって一本化したサービスを提供することで、ユーザーの利便性をはかり、ユーザーを囲い込むことで利益拡大をめざすビジネスモデルです。
近年の産業構造の変化は著しく、今までどおり製品を製造し販売するだけでは収益をあげられないという企業が増えているのも現状です。しかし、製造業プラットフォームによって、製品デザイン・部品製造・ソフトウェア開発・マーケティング…と、それぞれの企業が得意分野を持ち寄って協業することで、顧客ニーズにフィットするサービスを提供でき、長期的に収益をあげられるようになるのです。
本稿では、製造業プラットフォームビジネスの概要や取り組むメリット、日本の製造業がプラットフォーム構築に取り組むことで飛躍する可能性などについて解説していきます。成功企業事例もご紹介しますので、ぜひ自社のプラットフォーム戦略構築にお役立てください。
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目次
製造業プラットフォームとは
製造業プラットフォームとは具体的に何をするのか、「いまいちピンとこない」という方もいるかもしれません。
近年あらためてビジネスの主流になりつつあるプラットフォーム戦略、その潮流はGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)をはじめとするIT企業が生んだものです。しかし製造業におけるプラットフォーム戦略とは、実際どのように展開されるのでしょうか。
ここでは、一般的なプラットフォームビジネスについてご説明したうえで、製造業におけるプラットフォームビジネスの概要と、提供する仕組みについてご説明します。
プラットフォームビジネスとは
プラットフォームビジネスとは、複数の企業がひとつの場所で協業しながら、新たな商品やサービスを提供していくビジネスです。駅などのプラットフォームに集まる人々のように、ひとつの場所にさまざまな情報が行き交うことで、サプライヤーとユーザーの接点を生み出し、そこから新たなビジネスの価値を創出します。
一例として、Amazonは自社ECサイトに数々のお店や商品を集めて運営していますが、ここで採用されているのがまさにプラットフォームビジネスという業態です。プラットフォームとは、「システムを動かすための、土台となる環境」を意味しています。
こういったECサイトと百貨店やショッピングモールとの違いは、接点がインターネット上にあることだけでなく、商品に対するユーザーの口コミをひとつのコンテンツとして展開し、これをもとにほかのユーザーの購買を促進する点にもあります。
製造業におけるプラットフォームビジネスとは
製造業におけるプラットフォームビジネスとは、自社がものづくりの過程で培ってきたノウハウを、他社のものづくりを支えるプラットフォーム(基盤)として展開していく、新しいビジネスモデルです。
従来の、製品やサービスのみで勝負する戦略とはまったく異なるように見えて、これまで培ってきた技術が土台にあってこそ構築できるビジネスともいえます。
具体的には、プラットフォームを介して、製造業者とサプライヤー・パートナー企業・ユーザーを結びつけ、情報の共有や取引をおこないます。たとえばデジタルツインによる製造ラインを提供し、製品の開発・製造・販売プロセスに関わるパートナー企業やユーザーと連携することで、あたらしい価値の創造を実現します。
プラットフォームを提供する仕組み
ユーザーに対してプラットフォームを提供するには、これを構築し提供する仕組みが必要です。
製造業プラットフォーム戦略において、とくに注目を集めている仕組みが「PaaS(パース)=Platform as a Service」です。ここでは、「PaaS」を中心に、関連する要素である「SaaS」「IaaS」についても解説します。
「PaaS(Platform as a Service)」
PaaS(パース)を直訳すると「サービスとしてのプラットフォーム」で、アプリケーションが動くためのプラットフォームを、サービスとして提供することを指します。アプリケーションの作成や稼働に必要なデータベースやプログラム実行環境などを、インターネットを通じて提供するものです。
プラットフォームを提供する場合には、PaaSを導入することで、コストや開発リソースを削減し、新しいサービスでも比較的短期間で立ち上げられるようになります。
たとえば「Google App Engine」は、Googleが提供するクラウドプラットフォームで、PaaSの代表的なサービスのひとつです。アプリケーションを開発・実行するための環境を提供し、また大規模なトラフィックに対してもスムーズに動作するよう設計されています。同じ種類のサービスには、AWS、Salesforce Platform、Oracle Cloud、Microsoft Azureなどがあります。
「SaaS」(Software as a Service)
「サービスとしてのソフトウェア」を表すSaaSは、クラウド上にあるソフトウェアを、サービスとして提供するビジネスです。読み方はサース/サーズどちらでも呼ばれます。インターネット環境があれば、ユーザーは従来のようにソフトウェアを購入せずに、その機能だけを使うことができます。
たとえばブラウザ上で使えるフリーメールなどをはじめとし、簡単にWebサイトを制作できるCMSや、BtoB向けのMAツール・会計ソフトなども、今やSaaSとして提供されるのが当たり前になってきました。
製造業においても、IoTによって工場を見える化できるツールや、検査検品を自動化できるシステムなど、さまざまなツールが名を連ねています。
「IaaS」(Infrastructure as a Service)
Infrastructure as a Serviceは直訳で「サービスとしての基盤」となり、IaaSとは、プラットフォームを提供するための基盤を、サービスとして提供することです。イアース/アイアースどちらの読み方もします。
ユーザーは、アプリケーションが正常に動作するために必要なインフラ(サーバー・ストレージ・ネットワーク・セキュリティなど)を必要な分だけ使うことができ、安定したパフォーマンスを享受できます。提供されるのはこのインフラの部分のみになるため、アプリそのものは自分で開発する必要があります。
これまでITインフラを構築するためには、ハードウェアが必要でしたが、インターネット上のサービスになったことで、必要に応じてサーバの大きさを変えてパフォーマンスを最適化できるようになりました。
代表的なサービスには、Amazon Elastic Compute Cloud、Google Compute Engine、Oracle Cloud Infrastructure、Microsoft Azure IaaSなどがありますので参考にしてみてください。
製造業におけるプラットフォームの重要性
なぜ今、製造業ではプラットフォームビジネスが求められ、重要視されているのでしょうか。その理由は、ビジネス環境の変化によって、これまでのように単純にモノの製造・販売をおこなうだけでは、十分な収益をあげられなくなってきたことにあります。
そこで、製造業のあらたな企業成長の方向性として、プラットフォーム構築によるビジネスモデルシフトが注目されるようになりました。自前志向にとらわれず、他者と協業できるプラットフォームを構築することで、顧客に対してさらに高付加価値なサービスを提供し、継続的に会社を成長させていくビジネスの考え方です。
昨今、産業構造は大きく変化しています。その背景には、情報通信技術を実装したIT企業がに積極的に進出していること、これにより水平分業化が加速していることがあります。ここでは、産業構造の変化を進めるふたつの要因について、それぞれくわしく解説していきます。
デジタル技術の進展
産業構造の変化を引き起こしている大きな理由のひとつは、IT化とデジタル技術の進展です。
製造業においてとくにデジタル化が進む大きなきっかけとなったのは、インダストリー4.0(第4次産業革命)です。これは2011年にドイツの国家戦略として進められたコンセプトですが世界中で取り組まれ、IoTやAIによる高精度な生産管理、現実空間とデジタル空間をつなげるサイバーフィジカルシステム「CPS=Cyber Physical System」による技術革新が大きな特徴としています。CPSは「デジタルツイン」と呼ばれ、デジタル空間に現実そっくりのモデルを再現することで、生産ラインにおける予測や効率化に役立てられています。
このような最新デジタル技術の躍進によって、これまで暗黙知であったデータを取得・可視化できるようになり、生産プロセスやサービスは効率化されつつあります。これによって企業間を超えてデータを共有したり、ノウハウ自体を販売するような新たなビジネスモデルや産業が生まれたりと、既存の産業構造に変革をもたらす要因となりました。
水平分業化
水平分業化とは、製造業における生産プロセスを、いくつかの企業が分業することです。従来のように自社ですべてのプロセスをおこなうのではなく、特定のタスクに特化した業者と協力することで、より生産性をあげる考え方です。
それぞれの企業は自分の得意分野に集中できるため、より高い品質や効率を実現できます。また製品設備や技術の専門化がすすむことで、生産性をあげるだけでなく、余計なコストを省くことができるように。
オープンイノベーションをすすめるだけでなく、多様なユーザーニーズに対しても対応できるようになるなど、結果として製造業全体の競争力を強め、可能性を広げています。
また、一貫生産方式から製造工程の分業化へのシフトは、グローバルな供給チェーンの形成にも寄与しています。
製造業がプラットフォームビジネスに取り組むメリット
製造業がプラットフォームビジネスに取り組むことで、得られるメリットは数多くあります。ここでは8つのメリットについてご説明します。
顧客の囲い込み
顧客の囲い込みは、プラットフォーム戦略の一番の目的とも言えます。ひとつのプラットフォーム上でさまざまな製品やサービスを提供すれば、ワンストップで完結するサービスはユーザーにとっても利便性が高く、他社への乗り換えを防ぎ、長く使い続けてもらうことができます。
また利用企業が増えれば増えるほど、多くのパートナー企業が集まる「直接ネットワーク効果」が期待でき、新しい集客方法を実現できるはずです。顧客に継続的に利用してもらう環境をつくることで、収益を向上・安定させることができます。
データの一元化
プラットフォームを活用すれば、製造過程で使うそれぞれのアプリケーションで蓄積されるデータを、一元化されたデータベースに保存できます。
データベースを一元化することで、異なるアプリケーションのデータ分析をまとめて行えるようになります。たとえば、生産管理システム・販売管理システムといった異なるシステムのデータを結びつけて、分析や予測をおこなえるため、管理コスト削減にもつながるはずです。
個別のシステムが不要
製品製造においてはさまざまなシステムやアプリケーションが必要になり、一例としては
● 設計用のCADやPLM(Product Lifecycle Management)システム
● 現場管理のMES(製造実行システム)
● 生産スケジューラー
● 生産管理システム
などがあります。
これらのシステムが個別に存在している場合、各システムのデータを連携するために、インターフェイスを構築する必要があります。しかしプラットフォーム上で統一した設計にもとづいて開発されたアプリケーションでは、データ連携も標準仕様となるため、新たな開発の手間を省くことができます。
顧客データをマーケティングに活用できる
プラットフォームをつかうパートナー、サプライヤー、ユーザーはそれぞれ登録をおこなうため、それに紐づくデータが蓄積されることもプラットフォームの利点です。
たとえばプラットフォームに蓄積した顧客のデータ分析により、詳細なニーズを洗い出すことで、より効果的なマーケティング活動をおこなえるようになります。たとえばこれらのデータを新しい製品・サービスの開発に反映させることができますし、サプライヤーにとっても、より効率的なマーケティング戦略を立てる上で役立つはずです。
サービス化による新規事業モデルの創出
産業構造の変化を受けて、製品そのものの価値だけでは競合との差別化がむずかしくなってきたことは先にも述べました。
製品を販売するだけでなく、製品を含めたサービスを提供するビジネスへの転換により、顧客やサプライヤーに対して新たな価値提供ができるようになります。たとえば、顧客データやその分析結果による販売ノウハウを蓄積していき、このデータを販売するといったビジネスモデルも増えてきています。
プラットフォームを構築することで、あらたな収益源を生み出す可能性があるのです。
セキュリティ強化
インターネット上にデータを集めるプラットフォームビジネスでは、これらのデータを守るセキュリティ対策が必要です。とくに高速回線5Gによって大量のデータをやりとりするようになった昨今、確実にデータを保護できるセキュリティ環境が必須となります。
製造業では顧客データのほか、製品の設計図や原価表・部品表など多くの重要なデータが存在しますが、規模の小さい企業が高度なセキュリティ対策にコストを投じることは現実的にもむずかしいかもしれません。
プラットフォームビジネスであれば、大規模なセキュリティ対策をとれるプラットフォーマーがデータを管理するため、データの安全性を確保できます。
ビッグデータ・リアルタイムデータ活用による品質向上
プラットフォーム構築に取り組むことで、ビッグデータやリアルデータを活用した品質向上を実現できるのも、メリットのひとつです。
プラットフォームを活用すれば、IoTやAIによるデジタル技術によって、生産ラインやプロセスに関する大容量データを取得できるようになります。また高速インターネット回線5Gにより生産ラインの情報をリアルタイムで把握できるため、品質の問題を予測・検知して、製品の不備を防ぎます。
生産ネットワーク構築とステークホルダー連携による企業成長
プラットフォームビジネスでは、自社だけでなく、パートナー企業やユーザーと連携することで生産ネットワークを構築し、製造能力を拡大することができます。外部のノウハウや生産能力を活用することで、市場の変化にも柔軟に対応できるようになり、より競争力のあるビジネスモデルを実現できるはずです。
また、ステークホルダーの連携によって企業成長が見込めるのもプラットフォームビジネスならではです。製造業者がサプライヤーやユーザと密に連携することで、納期を適正化できたり、顧客ニーズに対応するための革新的なソリューションを創出できたりと、業務改善による企業成長の可能性が広がります。
プラットフォーム戦略で活かせる日本の製造業の強み
日本のものづくり企業の強みは、なんといっても熟練技術者の技術やノウハウです。ただ人の動きを分析するには、たくさんのセンサーによる大容量の映像解析が必要になるうえ、どの作業をデジタル化すればよいか見極めるのもむずかしく、デジタル化するのが非常にむずかしい領域といえます。
実際に、現在製造業においてデジタル化されているのは、設計の3D化や、機器管理におけるIoT活用などといった、比較的デジタル化しやすい分野です。一方で、現場の熟練技術のデジタル化はまだまだ拡がりきっていない領域です。
だからこそ日本の製造業は、他国にない「匠の技」をデジタル化することで、競争力のあるソリューションを創出できるはずです。ただこの工程は多種多様をきわめるため、たとえば輸送・樹脂成型・金属加工・組み立て・検査・などそれぞれに強みをもつ企業が、プラットフォームによって協業することで、日本の製造業はふたたび世界のトップに躍り出る可能性を秘めています。
プラットフォーム戦略の考え方
プラットフォームビジネスの概念自体は、実は従来から私たちの身近に存在してきました。たとえば電気会社やガス会社は、送電線網・ガス供給網というプラットフォームを介して、ユーザーに電気やガスをサービスとして供給するモデルといえます。
電話やワープロソフトなどが公益事業と異なるのは、これを利用するユーザー数が増えることでユーザーの便益が増える効果がある点で、これを「直接ネットワーク効果」と呼びます。
またあるクレジットカードや電子決済をたくさんのユーザーが使うようになると、販売店はそれを導入したいと考えますし、逆にユーザーにとってもたくさんのお店で使えるカードや決済方法を選びたいと考えるようになるはずです。このように、一方の市場が成長するともう一方の市場もともに成長していく効果を、「間接ネットワーク効果」といいます。
製造業プラットフォーム戦略においては、これらの効果を活用することで製品の需要を増やし、競争力を強化する考え方が大切です。直接ネットワーク効果によって、特定の製品へユーザーが集中する状態を作り出し、これによって多くのユーザーがプラットフォームへ流入します。また間接ネットワーク効果によってユーザーを得ることで、製造業プラットフォームは成長と市場支配力を強化することができます。
プラットフォーム形成の方法としては、テクノロジー主導型と産業界主導型のふたつに分かれます。
テクノロジー主導型
テクノロジー主導でプラットフォームを作るke-su、IoTやAIなどの高度な技術を持つ企業が、自分たちの技術を使って異業種へ参入し、プラットフォームを形成していきます。
このケースでは、革新的な技術や企業を育てること、新しい企業を誘致すること、参入のハードルを下げるための規制の緩和をすることなどが課題となっています。
産業界主導型
産業界主導でプラットフォームを形成する場合は、既に浸透している自社の製品や施設、サービスなどをインフラとして活用し、プラットフォームを構築します。
この方法で課題となる点は、企業の意識の変革が必要な点や、高度な技術を持つ企業との協力、業界の標準化などにあります。
製造業におけるプラットフォームの成功事例
実際にプラットフォームビジネスに取り込み、成果を出しているものづくり企業の事例をご紹介します。
コマツ
東京都に本社を構えるコマツは、日本の中でもプラットフォームビジネスの先進企業といえます。自社の提供する建設機械の稼働状況を見える化した「KOMTRAX(コムトラックス)」というプラットフォームをいち早く開発したことでも有名です。このサービスはデータ収集もおこない、このデータを活用したトータルソリューションの提供によって、建設機器の価値を向上させて顧客を囲い込み、収益安定化に寄与しました。
2017年からは、現場の生産性向上のためのプラットフォーム「LANDLOG」を企画・運用しています。これは自社製品に限らず、NTTドコモ、オプティム、SAPジャパンと共同で行っており、建設生産プロセスに関わるモノのデータを収集し、一元管理しています。
またプラットフォームで取得したデータはアプリケーション開発にも役立てられ、これらのアプリケーションを施工会社に提供しています。引き続き、多くの新規プロバイダが流入することでプラットフォームの価値があがっていくことが予想されます。
シーメンス
ドイツの電機メーカーであるシーメンスは、製造業プラットフォーム戦略に先進する企業です。電気機器などの製造をはじめとし、システムソリューション事業など幅広い事業を展開しています。
同社が2017年に立ち上げたのは、IoTプラットフォーム「マインドスフィア」。プラットフォーム上のアプリケーションによって、製造設備をモニタリングしたり、データを蓄積・分析できるものです。
このプラットフォームは、徹底的な顧客目線が特徴となっています。またパートナー企業とも積極的に連携を進めたことでユーザーの選択肢を増やしており、利便性の高いプラットフォーム構築に成功している一例です。
デンソー
デンソーは、自動車部品メーカーとしての豊富な製造技術を活かし、他社への展開を行っています。2017年に設立されたFA事業部(現在はインダストリアルソリューション事業部)では、自社のものづくりで生まれたロボット技術やQRコード、IoT関連製品を外販しています。
なかでも注目すべきは、ASEAN地域を中心とした展開です。同社は産官学の連携を通じて、自社のモノづくりノウハウを基にした教育プログラムを提供し、産業基盤の強化や新たな市場形成に貢献しています。具体的には、同社は日本政府・タイ政府と連携し「LASI(Lean Automation System Integrators)」という教育カリキュラムを開発しました。LASIは、リーンオートメーションのノウハウをトレーニングプログラム化したもので、バンコクにはラーニングファクトリーもあります。
また同社はこれまで約800人のエンジニアを育成し、LASIをタイから逆輸入して日本でも展開する計画も進めています。さらに、ASEAN地域の製造業に対して、生産技術や見える化技術、自動化技術などを活用した支援を行っています。ものづくりのノウハウと試行錯誤の歴史にもとづいた、徹底したユーザー目線は、現地製造業からの信頼を得る要因となっています。
LIGHTz
LIGHTzは2016年に設立されたAI企業で、当時の関連会社には金型成型メーカーIBUKIがありました。
同社は、従来は熟練工の経験に頼っていた樹脂成型のノウハウを、センサーや人工知能を使って可視化し、業務改善することに成功しました。また、金型管理のIoTアプリケーション「xブレインズ」を提供。このアプリは、熟練工の知識をブレインモデルとして言語化し、このデータをAIプラットフォームに教えることで、知見を共有するサービスとして展開しています。
xブレインズは、先に紹介したドイツのシーメンスが提供するIoTプラットフォームで利用できます。
VAIO
VAIOは、ソニーのPC事業を継承し、自社のPC製品開発と製造だけでなく、他社のモノづくりを支援するEMS事業を展開しています。
同社のEMS事業では、企画からアフターサービスまで、ものづくり企業のプロセスをトータルサポート。とくにロボットに注力しており、ハードウェア開発やAIを含むソフトウェア技術などをパッケージとして提供しています。
また自律型エンタテインメントロボット「aibo」の製造ノウハウを生かし、トヨタ自動車や富士ソフト、バンダイなどからの受託製造も行っています。EMS事業を通じて広範なものづくり企業の支援を行いつつ、ロボット領域では標準化と先進技術の提供を進めている、「広く深い」ものづくりプラットフォーム展開が特徴といえます。
浜野製作所
浜野製作所は墨田区の金属加工企業であり、特定顧客への量産対応から、多品種少量の試作支援や顧客の装置開発などへ、大きく事業転換した企業です。その象徴となっているのがものづくりインキュベーション拠点「ガレージスミダ(Garage Sumida)」で、工作機械や設備を備え、設計から組み立てまで一貫して行える環境を提供しています。
提供しているサービスは、量産設計支援をはじめとし、営業・サービスのリソース提供、量産ライン設計、利用課金型のライン貸与、技術コンサルティングのほか、同社のノウハウを活かして、製造能力を中心にスタートアップを支援し、共同でイノベーションを生み出しています。
ガレージスミダを通じて、グローバルに展開し成長しているスタートアップには、WHILLやオリイ研究所、inaho、アスラテックなどがあります。ガレージスミダは同社の収益源となるだけでなく、これら連携企業の成長が、同社の成長にも寄与しているのも特徴で、技術領域の拡大や新規事業創出、既存事業の高度化につながっているのです。さらにガレージスミダの存在は、ものづくり支援への広がりや認知度の向上にも貢献しています。
同社の展開するプラットフォームでは、急速な環境変化に対応しながら新たな強みを獲得でき、また日本企業の技術力や生産能力を活用した支援ができるため、新たなオープンイノベーションの展開に期待が集まっています。
碌々産業
碌々産業は、1ミクロン以下の超微細加工機を主力とする工作機械メーカーです。微細加工機のリーディングカンパニーとして、グローバルニッチトップ戦略を展開しています。同社の加工機は、加工精度5μm以下を実現し、最新機種の超高精度高速微細加工機「P12-C genesis」では、加工面の粗さRa2ナノの精度を誇っているのも特徴です。
また同社では、加工機の状態を見える化する仕組み「Advanced M-Kit」を提供しており、36項目のデータをモニタリングすることで、顧客は機械設備の状態をつねに把握できます。また、クラウドを活用した「AI Machine Doctor」「ROKU-ROKU Cloud Monitoring System(RCMS)」を提供し、顧客の加工機の稼働状況を遠隔監視し、歩留まり向上やトラブル解決につなげる付加価値の高いサービスを提供しています。
超微細加工のモノづくり力に付随するデータを活用することで、顧客のニーズに応えて付加価値を創出し、顧客に最適なソリューションを提供している企業です。
英田エンジニアリング
英田エンジニアリングは、成形機、造管機、などの産業機械を製造・販売する企業で、無人駐車場管理システムも展開しています。
同社は独自の技術を保有しており、省力化や自動化により顧客ニーズに応えるだけでなく、製品に関連するデータを収集し、可視化するシステムを構築しています。具体的には、成形機の稼働状況を見える化し、金型交換のタイミングを察知することで顧客の生産性向上を支援するというものです。
またリモートメンテナンスシステムを提供し、故障診断や設備保全をリアルタイムで行うことで顧客の工場効率化を図っています。さらに同社は、コインパーキング事業にも参入しており、駐車場遠隔管理運営システムを構築しました。デジタル・プラットフォームとAIを活用した高度な解析技術によるコンサルティングサービスの提供を目指しています。
月井精密
月井精密は、航空宇宙といった難易度の高い部品の試作加工を専門とする、精密機械加工部品メーカーです。2004年に祖父の会社を引き継ぎ現社長が就任してから、同社は手作業中心のものづくりから、最先端の5軸加工機を使用する工場に変革しました。
製造業の生産工程が急速にデジタル化されていく中で、収益に直結するデリケートな部分にもかかわらず感覚的に決められている「見積もり」が、直接利益を生まない「ゼロ円業務」としておろそかにされていることに着目。見積り作成業務におけるIoT活用を探求し、見積りプラットフォームを立ち上げ、デジタル化と効率化を図りました。
同社では部品に関連するデータを収集し、可視化する仕組みを構築しており、具体的には、見積もりに関するビッグデータ化や経営情報の可視化を行っています。さらに、このデータを活用して新たな価値を提供し、オープン化戦略や外部パートナーとの連携を通じた好循環も実現しています。
開発された見積り作成支援システム「Terminal(ターミナル)Q」は、現在、1,500社以上の加盟企業があり、日々多くの図面がやりとりされています。料金体系は月額定額制で、様々なオプション機能も提供しています。
プラットフォーム構築に向けたビジネスモデル設計のポイント
製造業でプラットフォームを活用したビジネスモデルを設計するうえで、ポイントとなる点をお伝えします。
顧客ファーストのビジネス戦略
プラットフォーム構築のきっかけは、顧客や自社が直面する課題解決から始まることが多いと思います。「顧客が解決したい課題はどんなことで、どのように解決できるか」「自社がどのような方向性で成長していくか」といった課題に対して、本業であるものづくりを活かして解決していくには、時流を読んでビジネスモデルへの気づきを得ることが重要です。
たとえば、「自社の製品を利用する顧客が困っていることの洗い出し」から、顧客のニーズに最適なアプリケーションをどれだけ揃えられるかは、プラットフォームビジネス成功のカギでもあります。また深刻な人手不足といった社会的な課題に対して価値を創出するためにプラットフォームを活用する例もあり、これらは新たなビジネスモデル創出のきっかけとなるかもしれません。
あくまでも顧客ファーストの視点で、課題解決に対してさまざまな選択肢のあるプラットフォームを構築することで、ビジネスの成長をはかったり、社会課題解決に貢献したりすることができます。
Win-Winの関係性
プラットフォーム戦略においてより有用なデータを集めるには、顧客とWin-Winの関係性を築く必要があります。
まずはどの領域でサービス展開をするか、明確にしましょう。提供先は、自社製品を購入する顧客だけでなく、エンドユーザーや他の企業も含まれます。
そのうえで、どのような価値を提供するのか、顧客が「自らのデータを提供してでも得たい」と思える価値はなにか顧客目線で考えます。たとえば製造業において顧客がかかげる、生産性向上、収益向上、人材不足への対応、といった目的に対して価値提供できれば、顧客にとっても大きなメリットとなるはずです。
また、製造業においては顧客との良好なリレーションシップ構築が、収益拡大や企業成長の秘訣となります。一人勝ちではなく、常にWin-Winの関係性を意識してビジネスを設計しましょう。
データを利活用できる仕組みをつくる
顧客からデータを取得し、利活用できる仕組みをつくるには、顧客の動機づけやデータの収集方法に注力し、競争領域と協調領域をきりわけて考える必要があります。
収集したデータを利活用するには、課題解決を意識したデータ収集の仕組みを作りましょう。収集したデータをもとにノウハウを構築し、顧客に還元する形で価値提供をおこないます。ここでは、顧客の生産性向上や経営分析に役立つデータを、サービスとして提供する考え方が重要になります。
またデータ活用のうえで障壁となることのひとつに、セキュリティ対策があります。国際規格の認証を取得している主要なクラウドプロバイダーなど、信頼できるクラウドサービスを選択することが有効です。顧客データの利用に関しては、個別に守秘義務契約などの契約を締結するなど、知的財産を守るための法的な対策を行うことが重要です。
安全、かつ有用なデータの収集と活用が実現できれば、顧客との信頼関係を築くことにもつながります。
製造業におけるプラットフォーム構築の課題
製造業においてプラットフォームを構築し、ビジネスシフトしていくうえで突き当たる課題についてご説明します。
ノウハウ流出
協業によるノウハウ流出のリスクは、とくに日本の製造業においては、プラットフォーム構築における大きなハードルのひとつです。
これまでの日本の製造業では、現場において人を通じた技術伝承が基本とされてきました。海外工場に技術者を派遣して、人を通じた丁寧な現地人材の育成をおこなってきたものの、ヘッドハンティングなどによりノウハウが人材ごと流出してしまうといったことも往々にして起こっており、協業によるリスクが懸念される大きな要因のひとつとなっています。
しかしこれのノウハウをデジタル化し、技術伝承をIoTやARといった技術によって再現できるようになれば、属人化を避けて技能移転の工数を減らすこともできます。そのうえ、コア技術を自社に残すことができるため、プラットフォーム構築においては、とくに欧米や新興国企業では、協業しないリスクの方が重要であると捉えられています。
競争・協調領域の振り分け
他社と競争する領域、協調する領域を適切に振り分けることも、プラットフォームを形成するうえで重要なポイントです。
自社の技術や業務内容を洗い出し、コア技術と、コアではない領域を明確にしましょう。過去に海外工場などで起こりがちだったノウハウ流出は、このような振り分けができていなかったことが大きな原因のひとつともいえます。
自社の競争力として何を守り、外部リソースとして何を切り離すのか、という見極めは、リソースを効率化して生産性を高めて、企業成長に寄与する重要項目です。
ビッグデータに対する国際ルール
IoTやAIによるビッグデータの利活用が広がるなか、個人情報の保護やセキュリティ対策がますます重要な課題となっています。
ビッグデータに対するルールは各国が個別に規制や制度を作っているため、それぞれの国のルールが重なり合い、複雑化しています。そのためデジタル技術の進歩にともなって、情報通信の分野で国際的なルールを作る必要が高まっているのです。
データを自由に共有できることは便利である一方、個人情報の漏洩や流出といった問題も心配されています。そのため、世界各国で個人情報を守るための法律や制度が整備され、強化される取り組みが進んでいます。プラットフォームビジネスに取り組むうえでは、顧客が安心してプラットフォームを利用できるような個人情報保護の観点は、はずせないポイントのひとつです。
収益化
プラットフォームビジネスでは、製品の販売数だけに依存することなく、新たな収益源を得られるのも大きなメリットです。その反面、ただ製品を販売するだけのビジネスと比べて、収益を得る仕組みをつくることにハードルを感じる方もいるかもしれません。
まずは自社製品と、自社製品を活用するうえで必要になる周辺サービス・サポートを組み合わせ、収益を得る仕組みをどのように構築するか考えます。
作り込みが重視されてきた従来のものづくりとは異なり、変化の激しい市場の反応も見ながら、ソフトウェアやサービスをアップデートする柔軟な発想が求められます。また仲間や顧客を増やす仕掛けを作って収益化の道筋をつけたり、サービス提供を前提としたユーザーにとって魅力的な課金体系に変更したりすることも必要です。
人材の確保と育成
プラットフォーム構築においては、専門的な人材リソースが必要になります。しかし日本で、デジタル技術に関する知見、製造業の実務における経験、この両方を持ち合わせている人材を見つけるのは非常にむずかしいのが現状です。
新たな価値提供をするために自社のリソースだけでは不足する場合、外部パートナーの技術やノウハウを活用しましょう。このケースでは、自社内の人材が中心となってプロジェクトを立ち上げ、外部リソースを導入して「自社で何を行いたいか」を伝えていくとよいです。またこのとき重要なポイントは、社外の人材が変革をリードできるよう、柔軟でオープンな社内文化を醸成していくことといえます。
まずは、自社にどのような人材(技術)があり、どのような人材(技術)が足りないのかを把握しましょう。その上で必要になる人材の要件を、部署間ですり合わせながら策定していくことが大切です。また公的機関とのネットワークを構築し、情報や支援も積極的に活用しましょう。
書籍紹介『製造業プラットフォーム戦略』
著:小宮昌人 出版:日経BP(2021年9月発刊)
目次
第1章 日本の製造業は、世界のロールモデルではなくなった
第2章 インダストリー4.0とデジタルツイン革命がもたらすもの
第3章 デジタル化で起こる製造業の地殻変動
第4章 パターン1:製品設計力・コア部品技術を売る
第5章 パターン2:生産技術力を売る
第6章 パターン3:ネットワークとケイレツノウハウを売る
第7章 パターン4:工程・現場の熟練ノウハウ・技術を売る
第8章 パターン5:製造能力を売る
第9章 アクション1:新規ソリューションを生み出す企業・組織になる
第10章 アクション2:競争力のあるソリューションを生み・展開する
第11章 アクション3:効率的に規模を拡大する
「モノではなく、技術力を売れ!」のキャッチフレーズにあるように、BtoC向けのプラットフォームビジネスではなく、toB向けのプラットフォーム戦略を、わかりやすく体系的に理解できる一冊です。
本書で強く謳われているのは、品質に対するこだわり・高い技術力やノウハウといった「日本の製造業の強み」をデジタル技術によって標準化・ソリューション化すること。これによって日本の製造業がグローバル市場であらためてポジションを獲得し、新たなビジネスモデルを構築してマネタイズするための、ノウハウや企業事例が丁寧に説かれています。
あらゆるものがデジタルにつながる時代はすでに訪れており、自社が継続的に成長していくためには、自社を中心としたプラットフォーム構築は必須項目ともいえます。本書は日本の先進企業の事例が多く用いられていてイメージもつかみやすいため、自社のビジネス展開や成長方向性に悩みを抱えている方はもちろん、日本の製造業において熱い変革マインドをもつ方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。
まとめ
製造業プラットフォームについて解説しました。
技術力には自信があるもののデジタル分野には疎い…という企業ほど、デジタルプラットフォーム構築によってその技術力を活かせる時代がやってきた、ともいえます。
製品製造で伸び悩んでいると感じている企業でも、自社を中心とするプラットフォームを形成し新たなビジネスを展開することで、継続的に売上をあげていけるようになります。また顧客のみならずパートナー企業やサプライヤーとの連携によって、生産性をあげられるだけでなく、企業成長に役立ついくつものヒントを得られるはずです。
ぜひ自社のビジネス展開の方向性として、「プラットフォーム戦略」に取り組んでみてください。