SaaS型サービスベンダー界隈で「カスタマーサクセス」という言葉がよく聞かれるようになりました。 カスタマーサクセスとは、自社の製品・サービスを活用してもらうことで顧客自身の成功を実現する活動を指します。従来のカスタマーサポートのように、顧客が困ったときに連絡してくるのを待つ受け身な存在ではなく、自発的に顧客の成功のための情報提供などを行う点が特徴です。
クラウドの普及により、SaaS型のサブスクリプション式サービスが増加した結果、このカスタマーサクセスの考え方も浸透してきました。買い切り型のソフトウェア製品などのように単発の取引で利益を出すのではなく、継続的に使用してもらうなかで収益を上げるビジネスモデルだからです。
今回は、SaaSやクラウドサービスをはじめ、ソフトウェアなど幅広いビジネスツールに関する口コミプラットフォーム「ITreview」を企画運営し、サブスクリプション式のビジネスモデルで事業を行うアイティクラウド株式会社の代表取締役社長兼CEOの黒野 源太氏にSaaSベンダーのカスタマーサクセスについて、役割や今後求められることなどをうかがいました。
アイティクラウド株式会社 代表取締役 兼CEO
旧ソフトバンクモバイル株式会社マーケティング本部のデジタル広告開発部門、SB C&S株式会社(旧ソフトバンクコマース&サービス)にてマーケティングソリューションやツールの流通事業の統括業務を経て、2018年4月にSB C&S株式会社とアイティメディア株式会社の合弁会社として設立されたアイティクラウド株式会社の取締役副社長兼CEOに就任。2019年7月より代表取締役社長兼CEOに就任。
スターティアラボ株式会社 取締役
Mtame株式会社 代表取締役
2006年スターティアに新卒として入社。2009年にスターティアラボ立ち上げに参画。
2014年にWebプロモーション事業部を立ち上げ、同事業部を2018年にMtame株式会社として分社化、代表取締役に就任。
近年のマーケティングテクノロジーの高度化に伴い、マーケティング効率が飛躍的に高まっている一方、多くの企業がまだまだそれらを使いこなせていないのが現状。それらをシンプル化することで多くのマーケターがより高い成果を生むしくみの普及に努めている。
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黒野氏
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SB C&S株式会社に在籍していた頃、マーケティングソフトウェアの流通事業の責任者をしており、マーケティングオートメーション(MA)など、さまざまなマーケティングソフトウェアをを扱っていました。
新しい製品を探すなかで、海外のソフトウェアについて調べるうちに、あるサイトにたどり着きました。そこに掲載されていた、製品を満足度と認知度の2軸で4象限に分類しマッピングした、一目でサービスの評価がわかるグリッドを見て「これだ!」と思いましたね。
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これは、これからの日本に必要なものだと確信しました。というのも、クラウドのサービスやベンダーが増加していくなかで、日本ではクラウドサービスについての情報が集約されたWebサイトがなかったのです。
それから、米国のITレビュープラットフォーム運営企業であるG2 Crowd Inc.とコンタクトを取る機会があり、業務提携することになったのがきっかけです。
また、実際の利用者のコメントは、検討者の購入意思を後押しする材料となり得ます。G2 Crowdとのやり取りのなかで「レビュープラットフォームは、ITベンダーにとってカスタマーサクセスのツールだ」という話が出ました。最初は、その理由かよくわからなかったのですが、よくよく話を聞いてみると、掲載されている口コミは、G2 Crowd側ではなくITベンダーが積極的に集めているというのです。
ベンダーは、集まった口コミに真摯に向き合い、分析し、機能に関するものなら開発チームに、営業担当のサポートが悪いという声であれば営業担当に伝え、製品改善や満足度の向上のために活用しており、さらにそれを顧客にアピールしているということでした。これを聞いて感銘を受けたと同時に、今後、日本にも必要になると確信しました。
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すべてのサービスで同じ設問になっていることもサービス比較に一役買っています。自社で独自に調査した場合、NPS(ネット・プロモーター・スコア)が業界内で高いのか、低いのかというのはわかりにくいものですし、自社で計測しようとすると頻繁にはできません。「ITreview」を見れば、競合他社と自社の評価がどう違うかをリアルタイムで把握できます。
ユーザーにレビュープラットフォームに口コミを書き込んでもらい、内容を分析して改善につなげるというサイクルを回すことで、顧客満足度を向上できる。この仕組みが米国で支持され、新規参入が相次いでいます。
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その予定です。G2 Crowdでは既にハードウェアも扱っていますし、Web制作などのITサービスも扱っています。たとえば、とある大手クラウドサービスの構築ベンダーを検索し、そのレビューや評価を閲覧できるようになっています。
ITreviewもまずは、わかりやすいSaaSサービスからスタートしましたが、展開するカテゴリーを順次、増やしていきます。日本におけるクラウドサービスの普及率は米国に比べるとまだまだなので、ソフトバンクグループとしてレビュープラットフォームを運用することでクラウドサービスの認知向上や普及を後押ししていきたいと考えています。
もともと、米国ではサブスクリプションでSaaS型サービスが浸透したからこそカスタマーサクセスが浸透したという背景があるので、日本はこれからですね。
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まだ、これからなのではないでしょうか。『カスタマーサクセス―サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則―』という、通称「カスタマーサクセスの青本」とよばれている書籍があります。米国で出版されたこの書籍を日本語に翻訳しカスタマーサクセスのコンサルティングを行うバーチャレクス・コンサルティング社と共同で行った調査では、「日本でカスタマーサクセスをよく知っていると回答した人の割合はわずか3%で、元年はまだ来ていない」という結果でした(※)。ただ、ITベンダーの間では確実に広がっているので、そろそろカスタマーサクセス元年と呼べる頃かもしれません。
※調査結果: カスタマーサクセス「聞いたことがない」86.3% “カスタマーサクセス元年”はまだ訪れていなかった!? 国内での普及はいよいよこれから
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そんなに大きな違いはないと思います。日本人も先ほど出た青本のようなものできちんと研究してから取り組んでいるところが多いです。米国での事例を聞くと、組織によってうまくいっているところも、そうではないところも両方が存在します。
解約率の低減をKPIに、利用状況や満足度、売上金額などをヘルススコアの指標にして顧客の状態を確認するという基本から実践されている企業が多く、特に日本のやり方が遅れているとは捉えていません。むしろ、日本の方がきめ細やかに管理していると思います。
ただ、日本はリセラー文化なので、ベンダーが直接お客様の声を聞くことが難しいかもしれませんね。ワンクッションを置いている分、米国よりも苦労するだろうと思います。ベンダーがリセラー側に許可を取らないとユーザーに声を聞けないところもありますし、リセラー経由で販売した先を知らないということもあります。一方、米国はほとんど直販です。
そうなると、日本では、ユーザーの生の声を集めるために、よりレビュープラットフォームの存在価値が高まりますね。
ところで、日本にはおもてなしの精神が根強くあり、これが海外製品が日本に浸透しにくい一因にもなっていると思います。ITリテラシーの高い人にしか活用できないようなものが多い海外製品と比べると、日本製品にはユーザーに寄り添った手厚いサポートが用意されているという印象が強いです。サポートとカスタマーサクセスの違いがなかなかわかりづらいと思うのですが。
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サポートとカスタマーサクセスには明確な違いがあると考えています。サポートは、使用後にトラブルが発生したときの火消し的な役割で、何件のクレームを処理したかというKPIが設定されることが多いです。
一方、カスタマーサクセスは、更新やアップセル、クロスセルが目的です。ユーザーからのコンタクトが来るのを待たずに「ユーザーが成功するために何をすれば良いのか」を考えて実行するのがカスタマーサクセスです。お客様に伴走して、きちんと効果が上がっているかを確認するカスタマーサクセスは、お客様への関わり方の深度が違うと思っています。
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黒野氏
ありがとうございます。お客様の困りごとを解決するというよりも、マーケティング支援、売上向上に力を入れて、お客様以上にお客様の売上にコミットしていました。お客様のお尻を叩くぐらいの勢いで取り組んでいましたね。
これからは、そのぐらいやらないといけないと考えて、サポートチームを変革させようとメンバーに話をしたのですが、これまでサポートしかしてこなかった部門には「なぜ、サポートが売り上げを追わなければならないんだ」と、なかなか受け入れられず、結局、新しいチームを立ち上げました。
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日本の先駆者たちの取り組みが正しい方法で行われているので、手法については追随すれば問題ないですが、一つ大事なこととして、経営層がカスタマーサクセスの概念や重要性を理解していないと進みません。
現代の日本のITベンダーは、社長も若い人が多く、海外の新しい手法をどんどん取り入れる気風があるので、トップダウンで問題なく実践できていますが、ボトムアップで行おうとすると難しいのではないでしょうか。
御社が取り組まれたような、サポートチームをカスタマーサクセスに転換させるような革新は、トップが言わなければやりようがないですから。MAの導入なども同じだと思います。
そうですね。先ほども出ましたが当社はMAをフリーミアムモデルで提供しています。フリープランから有料化にプランアップしてもらうための営業活動をインサイドセールスで行っているのですが、これはカスタマーサクセスにも該当するのではないかと考えています。
カスタマーサクセスがうまくいっている会社であればフリーミアムでもやっていけるので、これから、一つのマーケティング手法として「フリープランでリードを獲得してカスタマーサクセスを開始し、有料化する」ということが定着してくるのではないかと思います。
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最終的には、そうです。親会社であるスターティアラボの代表も、今後、フリーミアムでやっていく方向性を打ち出していたので、難易度が高く勇気は必要でしたが、挑戦的に踏み切りました。
海外もそうですが、MAベンダーはMA一本で事業を行っているところが多いので、後発である当社が資本力では及ばなくても戦える方法として採用しています。
おかげさまで、結果としてチャーンは低く抑えられ、クロスセル、アップセルで短期的なマネタイズもできています。
5年前に売上重視型のサポートチームを立ち上げて、アップセル、クロスセルの実績がついてきたからこそ、フリーミアムに踏み切れたともいえます。
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ITベンダーが該当します。「ITreview」を見たITベンダーから「自分たちの情報も掲載して欲しい」とコンタクトがあって、掲載後、ユーザーからの口コミが集まってくると、データを分析したい、コンテンツとして活用したいという要望が出てきます。このタイミングで有料化を検討いただきます。
ITreviewに製品を掲載いただいたベンダー様は、ユーザーからの口コミに対して、プラットフォーム上でコメントをお返しすることができます。現在はこの機能を無料で提供していますが、将来的には有償化いただいたベンダー様のみ利用できることを検討中です。米国のカスタマーサクセスでは、このコメントバックが重要視されていて、良い声にも悪い声にもすぐにコメントバックすることが大切です。当たり前のことといえば当り前ですが。
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ユーザー側は、きちんと返信があることで、自分の声が届いたことで承認欲求が満たされます。この積み重ねがチャーンを下げることにもつながります。SaaSやカスタマーサクセスを行ううえでは、レビュープラットフォーム上に限らず、お客様の声に真摯に向き合うことが大切になってくるでしょうね。ヘルススコアなども大切ですが、バイアスのかかっていないお客様の生の声を聞くことが一番大事なのではないでしょうか。
当社のサービス自身も「ITreview」に載っているので、口コミが寄せられています。ここから、機能が追い付いていないとわかれば開発チームへ依頼するなど、改善につなげています。
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掲載するカテゴリーをハードウェアなどもっと増やしていくこと。それから、口コミデータが溜まっていくほどビッグデータになっていくので、どの企業がどのツールを導入すると失敗しないかということも確率でわかるようになっていくと思います。
というのも、従業員規模、業界別で口コミを分析できるので、将来的にはAIも入れて、同業界・同規模の企業の導入ツール遍歴を分析して「サービスAを導入した場合の導入成功率は〇%、サービスBは〇%」といった具合に検索者に対して回答を表示するというサービスも実現できると思います。すると、ツール選びで失敗しないという時代が来るのではないでしょうか。G2 Crowdは、これを念頭に置いてサービスを展開しているのです。すでに約80万レビューを保有しています。
一方、現在の「ITreview」のレビュー数は1万7,000ほど、製品数が1,800ほどです。現在、日本のインターネット検索で見つかるビジネス向けソフトウェア・クラウドサービスの数が約3,000です。掲載製品・レビュー数をもっと増やして、全製品のレビューが閲覧できるようにし、ユーザーがもっとIT製品を選びやすい環境を作っていくことが目下のミッションです。そうなれば、ITベンダー側にとっても集客効果が高いということですから。
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レビューは、コンテンツとしてマーケティングにも活用できます。コンテンツを作るのはなかなか大変なので、MAを活用するなかでも、リードに送るためにどんなコンテンツを作れば良いか悩むマーケターの方は多いでしょう。
また、オウンドメディア上などで集めたレビューではなく、レビュープラットフォーム上の声なら、公平性・信頼性という面でも確かです。良い声も悪い声もオープンにするという姿勢を見せることも重要でしょう。
現に、「ITreview」でもっともユーザーに参照される口コミは「評価の低い声」です。私たちも書籍やレストランなどを選ぶ際に、悪い口コミは必ずチェックしますよね。悪い評価が、その人にとって耐え得る範囲なのか、また、悪い評価に対するITベンダー側のコメントバックがきちんとなされているか、そのあたりが見られるポイントです。
こうした「評判を作る」マーケティングがBtoBでも今後、主流になっていくでしょう。米国でも「レビューマーケティング」という手法が確立しています。
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企業がテクノロジーを活用する上での“信頼できる声”や“確かな情報”の集まる場として「ITreview(アイティレビュー)」をリリース。IT選定や購買の透明性を高め、迅速で自信に溢れた意思決定のできる世界の実現を推進している。
【企業サイト】http://www.itcrowd.co.jp/
【ITreview】https://www.itreview.jp/
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