「第三回 カスタマーサクセス天下一武闘会 - CS HACK #30」レポート

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以前、当サイトにも登場していただいたことのある日本で唯一のカスタマーサポート(CS)エバンジェリスト:藤本 大輔氏が運営するCSコミュニティ「CS HACK」では、「CS天下一武闘会」というユニークなイベントを開催しています。

「CS天下一武闘会」とは、CSを実践している4社の企業が自社の取り組みや事例をプレゼンし、来場者からの得票数が多かった企業がトーナメント方式で勝ち上がって優勝者(社)を決めるという熱いイベントです。しかも、対戦カードは当日までわかりません。

今回は、2019年5月21日に開催された「第三回 カスタマーサクセス天下一武闘会 - CS HACK #30」の模様をレポートします。

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「CS天下一武闘会」概要

CS HACK Webサイト イベント情報ページより引用

2018年に第一回、第二回を開催している「CS天下一武闘会」の来場者数は、150人、250人と回を追うごとに増えており、第三回である今回は315名の参加者が集まりました。

テーマはずばり「ハイタッチ」。 CS HACKが考えるCSにおけるハイタッチとは、「単体の売上規模が大きな重要顧客へのアプローチ」であり、今回はそうした重要顧客である大企業を想定したうえで、予選では「セールスがどのようにコンバージョンしカスタマーサクセスが案件を引き継いでいるか」、決勝では「オンボーディングするため相手先とどのような取り組みを行なっているか」を観点としたLT(Lightning Talks…稲妻が落ちるような短い時間でのプレゼン)が繰り広げられました。

武闘家たちは以下の4社です(敬称略)。

予選第一回戦:SATORI v.s. ウイングアーク1st

予選第一回戦の対戦は、SATORI株式会社とウイングアーク1st株式会社となりました。

SATORI株式会社からはマーケティング営業部 部長 兼 カスタマーサクセスG グループ長 高橋 美絵氏が、ウイングアーク1st株式会社からはマーケティング部シニアカスタマーエクスペリエンスマネージャーの森山 裕之氏が出場。

予選での持ち時間は各社7分です。

先攻は、SATORI株式会社の高橋氏でした。高橋氏はもともとBtoB向けITサービスのマーケターとして10年ほど勤務しており、現在はSATORIで事業部門の責任者として、マーケティング部門、CS部門などを担当しているそうです。

高橋 美絵氏(SATORI株式会社 マーケティング営業部 部長 兼 カスタマーサクセスG グループ長)

「あなたのマーケティング活動を一歩先へ」をミッションとするMA(マーケティングオートメーション)ツールSATORIがカバーする範囲は広く、買い手の購買プロセスを「①課題解決のため調査をする」「②製品・サービスを探す」「③資料で比較する」「④本格的に検討する」の4つに分けると①~③まで、フィールドセールスが対面で商談を行う前までの段階がサービス領域に当たるといいます。

今回のLTのテーマは「ハイタッチ」=「単体の売上規模が大きな重要顧客へのアプローチ」となっていますが、同社のCSにおいて「大口顧客」という定義はないといいます。それは、料金プランが「月額10万円」と単一で、売上金額が登録カスタマー数増加による重量課金制となっているから。ちなみにユーザーの約半数が定額内での利用だそうです。

つまり、ほぼ全顧客へのサポート「ハイタッチ」に該当するという認識を持っているとして、予選テーマである「セールスがどのようにコンバージョンしカスタマーサクセスが案件を引き継いでいるか」について、同社で取り組んでいる2つの工夫が紹介されました。

一つ目は、「受注時の情報引き継ぎ」。営業担当が申込書の受領時にredmine(レッドマイン:プロジェクト管理ツール)でチケットを発行して申込内容や導入目的などを記録し、提案資料やお客様とのやりとりの記録などとともにGoogledドライブに格納してお客様に関する情報を一元管理しているといいます。このときに、CSとしてお客様に最初にコンタクトをとる担当者も指名している点が特徴的でした。

高橋氏は、この施策の業務上のメリットとして、受注時の対応漏れが減る、担当者への情報共有がスムーズといった点を挙げ、ウェルカムミーティング(同社が利用開始時に行っているオンラインミーティング)の案内を全顧客に行えるようになったと成果を紹介しました。その結果、継続率が11倍に向上したと述べました。

二つ目は、「ヒアリングシートの活用」です。「現状・課題・理想」の3項目を軸にヒアリングシートの記入を行ってもらうことで、導入の目的や担当者の課題感を把握し、MA活用における目標設定までが行えるようになるとのことでした。
施策のメリットは、お客様自身が記入の過程で情報整理が行える点と、同社側もお客様がCSに求めるサポート内容を掴むことができる点。ヒアリングシートは、サポートが始まってからも更新していくことで会社の資産ともなると述べ、LTは終了しました。

後攻は、ウイングアーク1st株式会社の高橋氏のLTでした。

高橋 弘一氏(ウイングアーク1st株式会社 カスタマーサクセス部 部長)

同社では、クラウド型のBIダッシュボード製品「MotionBoard」を提供していますが、ユーザー側で情報を活用するために設計・構築を行う必要があり、導入ハードルとなりがちなこの部分をオンボーディング(ユーザーにサービスに慣れさせ定着化させるためのプロセス)と位置付けて対応しているそうです。

構築を行うのが誰かという観点で、顧客を3つのグループ、すなわち①構築のプロ(社内のシステム担当やSIerなど)が担うグループ、②同社のCSとお客様が一緒に構築を行うグループ、③お客様が自力で構築するグループに分けているといいます。

営業がハイタッチのために行う提案は、活用方法、アップセル、クロスセル、事例取材、セミナーへの登壇など。過去のハイタッチ事例としては、導入にあたりグループ会社も含めた全50回の社内説明会に、採算度外視ですべて参加してサポートしたお客様もいると紹介されました。

最後に、同社が営業部門からCS部門への引き継ぎを行う際の3つのポイントとして、

を挙げ、LTは終了しました。

結果は、SATORIの勝利となりました。

予選第二回戦:アドビ システムズ v.s. BEDORE

予選第二回戦の先攻は、株式会社BEDOREの遠藤氏。

遠藤 功一郎氏(株式会社BEDORE Customer Success Manager)

遠藤氏は新卒で大手電機メーカーに就職し、ICカードのエンジニアを担当後、BEDOREに入社。CSに配属されて1年半だそうです。

同社では、ディープラーニングと構文解析を組み合わせたアルゴリズムで高度な対話性能を持ったAIを提供しており、主な顧客層が大手なので、ほぼすべてが「ハイタッチ」案件となっているそうです。

大手企業がサービスを導入してから実際に利用開始してもらうまでに越えなければならない大きなハードル「リリース」があるのだといいます。大企業では、導入に関連する部署が多く、それぞれの担当範囲が異なるため独自のリリース基準を持っており、かつ、失敗したときの影響範囲が広いため慎重で基準が厳密になる傾向があると指摘します。

その結果、リリースが遅延したり、最悪の場合はリリースがとん挫する恐れもあるため、リリースに際しては戦略を練ることが特に重要であると強調しました。

具体的には、

の2点の説明がなされ、LTは終了しました。

後攻はアドビ システムズ 株式会社の森山氏でした。

森山 裕之氏(アドビシステムズ株式会社 マーケティング部 シニアカスタマーエクスペリエンスマネージャー)

アドビ システムズでは、世界39ヵ国で6,000社以上に導入されているMA「Marketo」を提供しています。Marketo のARR(年額定額収益)は数百万円前半規模(エンタープライズでは数千万円規模)で、ユーザー企業はスタートアップから大企業までBtoC、BtoB問わず利用されているそうです。

同社のCSにおける現状は得営業部門とマーケティング部門のプロセスはそれぞれ確立されているので、精度を高めることが今後の課題となっているそうです。

CSの本質としてまず、お客様の現状とあるべき姿を知る必要があり、そのためのフレームワークとして「お客様のビジネスを知り、人を知り、業界のバックグラウンドを知ること。自社製品を知り、自社がマーケティングにおいて持っているメソッドを知ること。競合他社を理解すること」を明らかにしているといいます。

この全体の背景のなかでお客様をきちんと理解していくことが重要で、さらには担当者の社内でのポジションや役割についての理解も大切だといい、スライド「顧客社内のインフルエンサーマトリクス」を使って解説しました。

役職は低くて目立たないが社内での影響力が大きい「キーパーソン」が重要で、この人をしっかり巻き込めていてきちんとアプローチできているかという点がポイントになるそうです。

また、お客様の課題を把握するに当たり、お客様自身が認識している課題が必ずしも真の課題になっていないケースがあると指摘しました。過去の事例では、お客様自身がMAの導入を検討しているが、MAで何ができるのか、何をしたいかが明確になっておらず、支援して欲しいと希望していた案件があり、競合他社は「設定から何もかも代行する」と提案したそうです。

しかし同社では、お客様のマーケティング成功のためには、単にツールを導入して活用すれば良いわけではなく戦略や戦術が必要と考え、運用体制作りやKPI設定までを含めたコンサルテーションを提案し、受注に至ったといいます。
お客様の成功にコミットするためには、ただツールを購入・運用してもらうだけではなく、本質的な課題を見抜いたうえで提案をしていくことを重視しているのだと説明しました。

改めて、予選テーマは「セールスがどのようにコンバージョンしカスタマーサクセスが案件を引き継いでいるか」ですが、同社では、提案段階からCS担当が入っているため、そもそも「引き継ぎ」の必要がないのだといいます。CSを重視しているため、即オンボーディングに入れる体制を構築しているとまとめてLTは終了しました。

結果は、アドビ システムズの勝利となりました。

決勝戦:SATORI 対 アドビ システムズ

決勝戦のテーマは「オンボーディングするため相手先とどのような取り組みを行なっているか」。持ち時間は各社10分間と、予選よりも長目に設定されています。

決勝戦の先行は、SATORI株式会社の高橋氏でした。同社CSがツールベンダーとして心がけているのは、お客様が自走して成果を出せるようにサポートすることであり、オンボーディングにも注力しているとのことでした。

高橋 美絵氏(SATORI株式会社 マーケティング営業部 部長 兼 カスタマーサクセスG グループ長)

特にハイタッチ施策としては4つ行っているものがあるといいます。
一つ目は、ウェルカムミーティング。利用開始時にオンラインで複数回のミーティング行い、定型の利用開始案内のほか、質問への回答、他ユーザーの活用事例の紹介、同社のマーケティングノウハウの共有などを行った結果、予選でも紹介された通り「継続率が11倍に向上」しという成果を得ています。

二つ目は、「個別相談会」の実施で、セミナーへの参加促進を行い、セミナー終了後に会場でそのまま個別相談会を実施しているそうです。メリットは、訪問せずにお客様の複数の担当者と接点が持てる機会となっており、顧客企業の多面的な理解につなげられていることと、セミナーの内容が記憶に新しい状態での投げかけられる質問が寄せられること。相談会の場でそのまま担当者同士でミーティングが始まることも珍しくないといいます。

三つ目は、少人数制セミナーで、導入から半年後など活用が進み始めたタイミングで行っている施策。ワークショップ形式でのセミナーで、お客様自身の手でPDCAを回せるようにサポートすることに狙いが定められています。導入により最初の課題が解決されても初期設定のまま放置されていれば、離脱につながりかねません。少人数制のため、参加者同士の交流や課題解決のための情報交換の場ともなり、よりSATORIの利用活性化につながっているとのことです。

四つ目は、有償サポートで、個別対応が必要な顧客に対し、有償で3ヵ月間のサポートを行っているといいます。3ヵ月間で何かしらの課題解決を行うことを目標に、宿題を出すなどインタラクティブな時間となるように運用しているそうです。効果として、有償サポートを受けた顧客は、そうでない顧客に暮れべてNPS(Net Promoter Score…顧客ロイヤルティを数値化した指標)が9.3ポイント高いといいます。

こうした一連のハイタッチ施策により、直近一年でNPSが12.4ポイント上昇したとい述べてLTを終えました。

いよいよ最後のLTとなる決勝の後攻は、アドビ システムズ 株式会社の森山氏でした。

森山 裕之氏(アドビシステムズ株式会社 マーケティング部 シニアカスタマーエクスペリエンスマネージャー)

冒頭で、予選でも述べていた「お客様の本質を理解すること」の重要性について再度強調されました。そのうえで、ハイタッチについては特にお客様に合わせた個別のオンボーディングプランを練って対応に当たっているとのことです。

このほか、導入担当者/部門を支援するために、経営層や営業部などの部門長への理解を深めてもらうための取り組みを行うなど、導入担当者/部門の「社内の理解者・応援団」を作ることを意識してサポートを行っているといいます。

まとめとして、①操作方法のレクチャー、②根底にある考え方や戦略・戦術まで伝え、理解してもらうこと、③社内の理解者・応援者を作る支援を行うことの3点が重要であると述べてLTは終了しました。

結果は、アドビ システムズの勝利となりました。

森山氏には、主催のCS HACK代表の藤本 大輔氏よりトロフィーと賞金が贈られ、第三回 カスタマーサクセス天下一武闘会は熱気に包まれたまま終了しました。

CS HACK グループページ

https://cshack.connpass.com/

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