アメリカでインバウンドマーケティングが提唱されてから日本でもコンテンツマーケティングが注目を浴び、企業はこぞってブログ型のオウンドメディアサイトを立ち上げ、潜在層や見込客に情報を提供するようになりました。
SNSマーケティングが活発に行われるようになると、テキストや画像以外にホワイトペーパーや動画、アニメーションなど、ユーザーに求められるようなコンテンツを制作する重要性がさらに増しました。
そして、コンテンツマーケティングに限らず、施策の効果測定をはじめとするデータ分析やコンテンツ制作など、さまざまな場面でマーケターがデジタルツールに触れる機会も確実に増えています。
こうしたマーケターを取り巻く状況を受けて、2019年11月28日(木)、株式会社日本SPセンターが運営するメディア「CONTENT MARKETING LAB」主催、コンテンツマーケティング支援などを手がける株式会社クマベイス共催で、コンテンツマーケティングに特化した専門カンファレンス「CONTENT MARKETING DAY 2019」が開催されました。
「エムタメ!」では、当日の様子を数回にわたりレポートしていきます。第七回は「BtoB Content Marketing World 2019 視察レポート」の模様をお届けします。
村上 健太氏(CONTENT MARKERING LAB シニアリサーチャー)
BtoB企業向けセッションの最後に登壇したのは、CONTENT MARKERING LAB シニアリサーチャーである村上 健太氏でした。冒頭の自己紹介では、Content Marketing Academyの講師も務め、2019年からCONTENT MARKERING LABに関わるようになったそうです。
プランナー・コピーライターとしてキャリアをスタートし、Webアナリスト、紙媒体・Web・映像のコンテンツディレクターを経て、マーケターからWebサービスのプロジェクト・マネージャー、リサーチャーと幅広い職種を経験してきたと経歴を紹介しました。
携わってきた分野も、電気機器から観光まで多岐にわたるそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
つづいて、「BtoBマーケターにつきまとう3つの疑問」と、「コンテンツマーケティングの定義」が紹介されました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
画像引用元:当日の登壇資料より引用
コンテンツマーケティングは、2000年頃にJoe Pulizzi氏とRobert Rose氏の二人が立役者となり、概念の提唱や著書などで広まったといいます。両氏の思想を元にした団体がContent Marketing Institute(コンテンツマーケティングインスティチュート)であり、本セッションで紹介するContent Marketing Worldは、同団体が主催しているものだといいます。
9回目の開催となるContent Marketing World 2019は、米国オハイオ州のクリーブランドで100以上のセッションをもって全4日間の日程で開催され、世界各国から4,000名の参加者が集まったそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
村上氏は、同イベントに参加するにあたり、「マーケティング責任者」と、「現場のマーケターやコンテンツクリエイター」という二人のペルソナを設定し、彼らの視点でセッションを聞いたそう。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
画像引用元:当日の登壇資料より引用
最初に、マーケティング責任者視点で見聞きしたセッションの模様が紹介されました。
米国のBtoBにおけるコンテンツマーケティングの実施状況として、91%が実施しており、未実施の9%のうち半数以上が半年以内に実施予定であるというデータがあるそうです。
その領域は、オウンドメディアやSNS、メールなどさまざまで、実施体制として専門チームを組んでいるといいます。
チームの習熟度の割合は、洗練:9%、成熟期:25%、青年期:31%、少年期:25%、幼児期:9%という結果がアンケート調査により明らかになっており、もっとも多い青年期とは、「戦略をもって一定の成果を出しており、データやリサーチ結果を元にブラッシュアップしてより高みに昇ろうとしている状態」を指すといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
また、米国では企業のマーケティングの予算のうち30%以上がコンテンツマーケティング関連に充てられているといい、今後2年でさらに増加するという予測が出ているとも紹介。
一方で、マーケティング・テクノロジーが5,000以上もあり、マーケティング責任者は膨大なテクノロジーのなかから自社で採用するものを選ばなくてはならない状況に置かれているといいます。
また、ROIに関しては、米国でも日本と同様で、「有用な現状分析やレポートが不足している」「予算の裏付けが欲しい」など悩みが尽きない様子が明らかになったといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
これらを打開するためにマーケティング責任者たちがもっとも大切にしていることは、最適な人材であるということがアンケート調査により判明しているそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
画像引用元:当日の登壇資料より引用
一方、現場のマーケターやコンテンツクリエイター視点では、代理店を含むチームが抱える不満としてもっとも多かったのが、コンテンツの質であると紹介。次点が、データを元にした実用的な洞察とイノベーションがないという点、三つ目がROIを向上したいが成果が出ないことだそうです。
裏を返せば、これらは米国のマーケターやコンテンツクリエイターが実現したいことでもあると述べました。
データと示唆に関する悩みでは、「現状のデータ取得・分析プロセスでは有用な示唆が出にくい」が39%でもっとも多く、「KPIの決定に苦慮している(22%)」「意思決定に必要なデータが不足している(21%)」と続くと紹介。
また、コンテンツマーケティングのチーム体制としてもっとも多いのが、「組織の中で唯一または少数のコンテンツマーケティングチーム(53%)」であり、少ないリソースで重要な戦略を立案している実態が明らかになったといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
つづいて、主催のContent Marketing Instituteの創設者であるJoe Pulizzi氏によるキーノートの視察レポートが紹介されました。
講演は、コンテンツマーケティングの未来の予測として「マーケティング2030」をテーマに行われたといいます。
Pulizzi氏によれば、現場のマーケターの苦悩の多くが、上層部が理解していないために起こるといい、社内を十分に説得できていなかったり、上層部の判断で突然オウンドメディアが閉鎖されてしまうことが挙げられたそう。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
コンテンツマーケティングの特性として、読者を獲得してリターンを得るには年単位の時間がかかることや、優良な読者の獲得をまず優先すべきで、収益への貢献はその後に始まることが挙げられたと紹介。
「マーケターは、根気強く社内を説得し、予算を獲得していこう」との応援メッセージがあったそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
また、Joe Pulizzi氏は、コンテンツマーケティングを恋愛に例え、たくさんのコンテンツが重なってエンゲージメント(婚約)し、さらにコンテンツが重なって初めて売り上げに結び付くのだと説明し、ワンナイトラブ(一時的なキャンペーン施策)では成功しないため、顧客との永続的な関係性を構築するために最低でも18ヵ月以上実施することを推奨したといいます。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
日本とは異なる米国の事情として村上氏が紹介したのが、米国マーケターが不安を感じているのが「第三者プラットフォーム」問題であるという事実でした。第三者プラットフォームとはSNSを指しており、数多くの「いいね!」がつくページが減っていたり、SNS利用者がここ数年で頭打ちになっていることなどから、第三者プラットフォームの運用が伸び悩んでいるのだそうです。
特にFacebookについては、若年層は他SNSへ流れ、ミドル層はSNS疲れ、55才以上ではプライバシーへの不安から利用者が減っており、全世代でFacebook離れが進んでいるという背景がデータを元に紹介されました。
SNSに関してはほかにも、フェイクニュース問題や大規模な個人情報収集と悪用のリスク、政治利用による情報コントロールリスクが挙げられ、Amazonなどの第三者プラットフォームが制作・配信するオリジナルコンテンツも脅威になっているとのことでした。
こういった背景を受けてJoe Pulizzi氏が推奨するのが、メルマガや印刷媒体。マーケター側でコントロールが効き、ユーザーと直接のつながりを持っているこれらの自社媒体の再評価を提案しているそうです。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
Joe Pulizzi氏は最後に、マーケターは数多くの部署と関わりを持つため、さまざまな要望が寄せられるが、お人よしにならず、ダメなことにははっきりと「No」と言おうとのコメントがあったそう。
村上 健太氏(CONTENT MARKERING LAB シニアリサーチャー)
最後にまとめとして、ここまでの内容をまとめたスライドが投影されました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
マーケティング責任者は、ROIと予算、チーム構成、経営陣との連携を行って現場のマーケターを支援し、それに対し、現場のマーケターやクリエイターは、自分たちでコンテンツ戦略を作り、PDCAを回して、データを用いて示唆を導き、成果を出すことで応えるという相互関係があるといいます。
従来型のマーケティングは、例えるなら「企業間の総力戦」で、「トップダウンで戦略・方針が決定され、組織一丸となって成果が出るまで行動する」「マス認知の規模を拡大し、スケールメリットを狙う」「多少のムダがあっても、直接売上に結び付くハードセルを重視」といった特徴があるのに対し、コンテンツマーケティングは、市場が細分化され、不確実性が高く、予測が厳しい状況下において、無駄なくピンポイントで効率的に顧客を狙う、事前に想定した戦略目標に向かい、現場で自律的に判断し、行動するというボトムアップ型で、素早いPDCAで実践しながら改善を加えていく手法であると村上氏は分析しました。
画像引用元:当日の登壇資料より引用
また、日本と米国のコンテンツマーケティングを比べた際に、日本の企業は元来、ボトムアップの組織であり、米国に比べてあまり苦労せずに導入しやすいのではないかと述べました。
村上氏は、米国はコンテンツマーケティングの理論や規模においては先行しているものの、同じ条件でのコンテンツの品質はさほど変わらないと述べ、米国にあって日本にはないものとして、次の三点を挙げました。
1.コンテンツマーケティングを指揮・実行する人材
2.コンテンツマーケティングが対応する規模・範囲
3.企業、業界を横断したノウハウの共有
画像引用元:当日の登壇資料より引用
それぞれに対し、日本が米国に追いつくためのポイントとして、以下が紹介され、セッションは終了しました。
2020年の開催も既に決定していて、11月20日(金)に昨年と同会場の恵比寿でおこなわれます。
三年目となる今回は「直感と理性のマーケティング」をテーマに、実用的なコンテンツマーケティングを学ぶ機会、そしてコンテンツマーケティングに取り組む人々同士をつなぐイベントとなるようです。