世界各地にゲリラ的にグラフィティを残すストリートアーティスト「バンクシー(Banksy)」。ロンドンのオークションハウスで1.5億円もの価格がつけられたとたん、その作品をシュレッダーで切り裂くというセンセーショナルな事件を起こし、一躍日本でも有名になりました。
最近では、日本国内でも「もしかするとバンクシー作品では?」といわれるグラフィティが発見されるなど、なにかと話題を振りまいているバンクシー。なぜ、彼の絵は人々の興味を引き付けるのでしょうか。
今回の記事では、話題のバンクシーとは何者なのか?と、その作品の魅力をひも解いていきます。
目次
●社会風刺的な作品を描き、強いメッセージを込めている
●美術館などのパブリックな「美術業界」の空間に、ゲリラ的にストリート・アートを展示
●バンクシーが美術館に勝手に作品を掲示する様子をとらえた動画
●著名セレブが高額で作品を購入
●大英博物館に無断で作品を展示→その後、公式展示が決定
●オークションで高値が付いた作品をシュレッダーにかける
●政治家から「作品」と認められる
4まとめ
バンクシーは、イギリスをベースに活動している匿名の芸術家ですが、その詳細なプロフィールは公式には公開されていません。そのため、彼がどのような人物なのかについて、ちまたで語られている情報はすべて憶測であり、その不可解な存在感が人々の興味をより駆り立てています。
バンクシーは、世界中を舞台に神出鬼没を繰り返し、壁・橋などに、ステンシル(型紙)を使ったグラフィティを残しています。社会風刺的で、ブラックユーモアを感じるメッセージと、そのゲリラ的な発表方法は、多くの人の注目を集めました。
しかし、一方で公共物に絵を描くストリート・アート(グラフィティ)には、「アート」なのか「落書き」なのかという議論がつきまといます。ストリートに描かれた作品は、たとえ作者自身が「アート」であると考えていたとしても、見る人によっては「ヴァンダリズム(破壊行為)」といわれることもあるのです。
ここで、その作品が「アート」か、否かを考えるとき、振り返るべき2つの視点があります。ひとつは「描く人(作者)」の視点、もうひとつは「見る人」の視点です。
描く人の立場から考える場合、作者が「美を追求している」「こだわりを貫いている」ものは、作者自身が「アート」と呼ぶでしょう。他方で、見る人の立場から考えた場合、見る人がなんらかのメッセージ性を捉えたり、美術的な価値を感じたりすることができれば、それは「アート」と呼ばれると思います。
このような視点から考えると、バンクシーの作品は一貫した強いメッセージ性を持つことで、「アート」として人々に支持されてきたことがわかります。彼は、反戦、反暴力、反体制、反資本主義などをテーマに、見る人の心に刺さる作品を残してきました。「何者にもしばられない」を体現したような、バンクシーの自由な作品や行動は、見る人にどこか清々しいような気持ちを思いおこさせます。
しかし近年では、作品が高額な値段で売買されるなど、その影響力が巨大化しているのも事実です。「観光名所になるから」「お金になるから」などの理由で、バンクシーのグラフィティだけを「合法」扱いすることに疑問を呈する声もあがっています。
その注目度や商業的価値の高まりから、今ではバンクシーのフェイク作品や、作品をモチーフにしたグッズが日本でも簡単に手に入るほど出まわっています。「バンクシー」の名がひとり歩きしているようにも思える昨今ですが、ではそもそも、バンクシーはどのような作品が、評価されてきたのでしょうか。2つのポイントにしぼってご紹介します。
画像引用:Banksy公式サイト
もうひとつ、バンクシーが他のストリートアーティストと異なるのは、MoMA、メトロポリタン美術館、大英博物館、ルーヴル美術館などの著名な美術館や博物館に、ゲリラ的に自身の作品を展示してきたことです。これは、本来、権威の高い「美術業界」に、バンクシーのグラフィティ作品の「アートとしての価値」を認めさせ、バンクシーという芸術家のあり方を示すことになりました。
このように、名前も顔も明かさぬまま、サブカルチャー(ストリート・アートの世界)とハイカルチャー(権威の高い美術業界)の境界線を飄々と行き来する姿が、人々を引き付けるバンクシーの魅力のひとつなのかもしれません。
最後に、世の中で話題を呼んだバンクシーのニュースをまとめてご紹介します。
アーティストのクリスティーナ・アギレラは、バンクシー作品を25,000ポンド(約360万円)で購入したそうです。このほかにも、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが彼の作品を高額で購入。キアヌ・リーブス、ジュード・ロウなどの著名人も彼の作品を支持しているといわれています。
バンクシーを「芸術テロリスト」として、もっとも有名にしたのが、これらのパフォーマンスです。2005年、バンクシーは大英博物館に侵入し、『街外れに狩りにいく古代人』のタイトルで、ショッピングカートを押す人間が描かれた壁画を展示します。この作品は、バンクシーが公表するまでの3日間、誰にも気づかれませんでしたが、2018年には公式展示されることが決まりました。
In 2005, #Banksy installed this ‘cave painting’ in one of our galleries without permission, and without anyone noticing. He gave it a fake ID number and label, and it remained on the wall for 3 days before the Museum was alerted to the prank via Banksy’s website!🤦♀️ #IObject pic.twitter.com/ed4rq8YxbJ
— British Museum (@britishmuseum) 2018年8月30日
2018年、バンクシー作品のなかで、もっとも有名な作品のひとつである『風船と少女』が、ロンドンのオークションハウス「サザビーズ」の競売にかけられ、104万ポンド(約1億5,000万円)という高額で落札されました。しかし、売却が成立したとたん、額縁に隠されていたシュレッダーが起動し、絵が裁断されてしまいます。
これは、バンクシー自身がしかけた「いたずら」であり、ストリート・アートをオークションで高額売買することへの反論であったようです。
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2019年、東京都知事の小池百合子氏が自身のtwitterで、東京都内にあったバンクシー作品に似たグラフィティを撮影した写真をポストし、話題になりました。小池氏は、この落書きを歓迎するかのようなコメントを投稿しており、インターネット上で「バンクシーならストリート・アートは合法なのか」などの議論を呼びました。
あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました! 東京への贈り物かも? カバンを持っているようです。 pic.twitter.com/aPBVAq3GG3
— 小池百合子 (@ecoyuri) 2019年1月17日
このように、バンクシーは世界でさまざまな「事件」を起こしながら、強いメッセージを発信し続けてきました。そして、これからの彼のパフォーマンスにも、世界中が注目することは間違いないでしょう。
私たちがバンクシーから学んだことは「描く側が確固たるメッセージを持つこと。そして、そのメッセージが一定数の見る側に伝わる内容であること」で、「落書きは『アート』にもなり得る」ということです。
これは、ストリート・アートの世界だけでなく、デザインやコンテンツ制作全般に共通することなのかもしれません。そのコンテンツの内容が、内輪ネタで終われば、それはただの「落書き」になってしまうかもしれないのです。