投資評価の5つの指標とは、数ある投資評価指標のなかでも基本的・代表的な「NPV:Net Present Value(正味現在価値)法」「IRR:Internal Rate of Return(内部収益率)法」「ペイバック:payback period method(回収期間)法」「Discounted Payback Period Method(割引回収期間)法」「PI:Profitability Index(収益性指標)法」です。
 
投資評価の5つの指標は、それぞれ、万能なものではなく、多少の差はあれ問題を持っているため、状況に合わせて選び、複数の指標を総合して判断することが大切です。
 
本コラムでは、これら投資評価で代表的な5つの指標について解説します。
投資評価とは、投資を行うべきかどうかを判断するために、その投資によってどれだけの利益が見込めるか、複数の投資先のうち、どれに投資するのがもっともキャッシュフローが良いかなどを精査することをいいます。
 
投資評価を行う際は、数値化した指標を用います。
たとえば、その事業を行うべきかどうかを期待できるキャッシュフローで判断したり、複数事業における指標を比較し、どの事業を採用するかを判断したりします。
投資評価の主な指標のなかから、本コラムでは、「NPV:Net Present Value(正味現在価値)法」「IRR:Internal Rate of Return(内部収益率)法」「ペイバック:payback period method(回収期間)法」「Discounted Payback Period Method(割引回収期間)法」「PI:Profitability Index(収益性指標)法」の5つの指標をご紹介します。
NPV(Net Present Value(正味現在価値)法)は、投資が生み出す利益の合計を現在価値で示した指標で、投資に関する指標のなかでもっとも代表的なものです。
金銭の時間的な価値に対する考え方を反映した方法で、比較条件を「現在の価値」に統一する点に特徴があります。
IRR:Internal Rate of Return(内部収益率)法と同じ結果を導きます。
 
NPVは、次の式で計算します。
 
NPV=投資が生み出すキャッシュフローの現在価値‐初期投資額
 
なお、「投資が生み出すキャッシュフローの現在価値」はPV(Present Value)に当たり、次の式で計算します。
 
投資が生み出すキャッシュフローの現在価値=将来受け取る金額÷(1+利率・割引率)^n(年後)
 
「^」は、n乗(n回かける)という意味です。
計算結果で出てきた1円未満は四捨五入して求めます。
利率には銀行預金の金利などが、割引率には資本コストが相当します。
PVを計算するに当たってはまず、投資により生み出されるキャッシュフローを予測する必要があります。
 
最終的に求められるNPVがプラスになるかマイナスになるかで投資判断を行います。
つまり、プラスになれば投資すべき、マイナスになれば投資すべきではないということです。0であれば、損もしない代わりに利益もありません。NPVが大きいほど大きな利益が見込めます。
また、複数の投資先のなかでNPVがもっとも大きなものに投資すべきという判断が成り立ちます。
IRRは、前項でご紹介したNPVが0となるときの割引率で、投資期間内の利回りがわかる指標です。
 
IRRは、次の式で成り立っています。
 
初期投資額+C1/(1+IRR)+C2/(1+IRR)2+C3/(1+IRR)3+・・・+ Cn/(1+IRR)n=0
 
Cnはn年目のキャッシュフロー総額です。
計算式は複雑ですが、この式に初期投資額と各年のキャッシュフロー総額を当てはめればIRRを求められます。
このことから、初期投資額とキャッシュフロー総額のみがわかるケースで利用されます。
特に、キャッシュフローの金額・生じるタイミングが毎年異なるような投資において活用されます。
 
IRRがハードルレート(投資を行う上で最低限必要とされる利回り)より大きいかどうかで投資判断を行います。
つまり、IRRがハードルレートより大きければ投資すべきで、小さければ投資すべきではないということです。
 
NPV同様、ファイナンス理論に基づいた方法で、基本的にはNPVと同じ結果を導きますが、投資期間中にキャッシュフローの+‐が入れ替わる場合や、事業規模の大きく異なる複数事業を比較する場合などでは誤った評価を導くことがあるため、注意が必要です。
ペイバックは、初期投資額がどれくらいの期間で回収されるかを見る指標です。キャッシュフローの合計額が初期投資額に達するまでの期間が投資期間を下回れば投資すべきという判断です。
 
ファイナンス理論に基づいた方法ではありませんが、直感的に理解しやすいため広く使われています。
 
ペイバック法では、
 
初期投資額=C1+C2+C3+・・・+ Cn
 
が成り立つn年後を求めます。年数が小数になることもあります。
つまり、単年のキャッシュフロー総額を合計していき、初期投資額と同じ年数が回収期間となります。
 
たとえば、初期投資額が1億円で、毎年1,000万円のキャッシュフローがあるとすれば、回収期間は10年になります。投資期間が10年未満であれば投資すべきではありません。
また、投資には「カットオフ期間(投資を回収すべき期間)」という考え方があり、全投資期間ではなくカットオフ期間と回収期間を比較することも多いです。
 
もし、複数の投資先があれば、ペイバックが短い方の投資先を選ぶという判断になります。
 
ただし、ペイバックを利用する際の注意点として、ペイバックにはNPVのような時間価値が含まれていないという点、回収後のキャッシュフローについては考慮されていない点などが挙げられます。
このため、複数の指標とともに補助的に利用することが望ましいです。
前項の「ペイバック:payback period method(回収期間)法」が抱える問題点の一部改善したものが「ペイバック:payback period method(回収期間)法」で、キャッシュフローの現在価値で計算することで割引率を適用したものです。
 
Discounted Payback Period Method(割引回収期間)は、NPVを計算することで導きます。
1年目のNPV、2年目のNPV、3年目のNPV…と計算していき、回収できたところが回収期間になります。
 
割引回収期間法では、ペイバック法の問題点のうち、時間価値と投資リスクを反映させている点では改善がなされていますが、回収後のキャッシュフローは考慮されていないままである点には引き続き注意が必要です。
PI(Profitability Index(収益性指標)法)は、投資に対する収益性を判断するための指標で、将来得られるキャッシュフローの現在価値が初期投資額の何倍になるかを見ます。
 
PIは、次の式で計算します。
 
PI=投資が生み出すキャッシュフローの現在価値÷初期投資額
 
この結果が1以上なら投資すべきで、1未満なら投資すべきではないと判断します。
 
ただし、PIもIRRと同様に「率」のみで考えるため、事業規模が大きく異なる複数事業で比較する場合で誤った評価を導くことがあるため、注意が必要です。
5つの指標をご紹介しましたが、代表的な指標は、NPVとIRRです。
 
特にNPVは、割引回収期間を導くためにも使われるなど、もっとも基本となる指標なので、まずはこれだけでも押さえておきましょう。
 
また、ご紹介した5つの指標はどれも万能なものではなく、それぞれ何かしらの欠点があります。投資予算などに合わせ、金額で考えるのか、それとも率で考えるのかを考えて最適な指標を選んでください。
マーケティング担当者の方で、経営にも携わっている方は少ないかもしれません。
しかし、マーケティングの予算が、経営層が作成する事業計画に含まれている以上、中長期的な視点をもって、経営層にマーケティング予算を申請したり、それを計画的に使って、施策に取り組み、適切な効果測定を行うためにも、投資評価について知っておくことは大切です。
 
基本となるNPVの意味だけでも覚えておくと役に立つでしょう。