近年、アニメやキャラクターとコラボレーションした商品のCMを目にする機会が増えています。
このようなコラボレーションは、アニメやキャラクターなどの版権(著作権)を、権利者の許諾のもとで他社が活用する「ライセンシング」という仕組みで成り立っています。
今回の記事では、ライセンシングの基本的な仕組みと、コラボ候補となる人気キャラクターランキングをご紹介します。
ライセンシング(licensing)とはライセンス供与のことで、著作権を有する権利者が、有償で第三者に使用を許諾することをいいます。
許諾する側をライセンサー、許諾を受ける側をライセンシーとよび、キャラクターやブランドといったライセンスの対象物をプロパティとよびます。
矢野経済研究所が2016年4~6月に行ったキャラクタービジネスに関する調査によれば、版権市場は拡大傾向にあり、2016年度のキャラクタービジネス市場規模は前年度比100.7%で2兆4,456億円だったといいます。
(引用元:キャラクタービジネスに関する調査を実施(2016年)~版権市場はキャラクターの積極活用により拡大基調~)
ちなみに、日本を代表するライセンサーである株式会社サンリオの2019年3月期の決算説明資料によると、2019年の国内ライセンス事業の第3四半期までの累計売上高は73億1,800万円となっています。
企業がライセンスを活用する方法は大きく2つの方法にわけられます。1つは「商品化」、もうひとつは「プロモーション」です。
商品化は、企業が販売する「商品そのもの」にキャラクターなどのライセンスを活用する方法で、アパレルや日用品メーカーなどが多く取り入れています。
キャラクターや著名人の写真がデザインされたTシャツなどがその代表的な例です。
商品化の場合、ライセンサーとライセンシーは1年以上の年間契約を結ぶことが普通です。
また、商品化ライセンスの対価は「ロイヤリティ」とよばれ、販売するライセンス商品の販売価格の合計に、一定の料率をかけた金額をライセンサーに支払うことが一般的です。
一方、「プロモーション」は、商品そのものではなく、商品の販売促進の手段としてライセンスを活用する方法です。
比較的広告宣伝費のある、BtoCの商品やサービスに採用されています。
たとえば、コンビニエンスストアの店頭で行われる「商品を○点買うと、キャラクターの景品がもらえる」「ポイントを集めて応募すると、ガジェットがダウンロードできる」などのキャンペーンが良い例です。
プロモーションの場合、1クール(3カ月)~2クールほどの期間で実施されることが多く、ライセンスの対価は「ライセンス使用料」などの名前で、契約期間や契約内容に応じて決められます。
企画によっては、商品化とプロモーションの両方を組み合わせて、大きなキャンペーンが組まれる場合もあります。
前章でご紹介したように、日本国内におけるキャラクタービジネス市場規模は拡大傾向にあり、キャラクターとのコラボレーションがビジネス上、有利に働くことがうかがえます。
ただ、メリットもあればデメリットもあるはずです。
ライセンシーとしてキャラクタービジネス市場に参入する前に、確認しておきましょう。
すでに認知度の高い人気キャラクターを起用することで、商品・サービスや企業の認知度・知名度も高めてくれます。
このようなメリットは、一見、人気俳優やタレントを起用するのと変わりませんが、人間と違い、スキャンダルや炎上の恐れが少ないのは、ライセンスキャラクターの特長です。
同カテゴリにある競合他社の製品・サービスと差をつけ、オリジナリティの高い製品・サービスと印象づけることができます。
商品・サービス群として一般消費者にあまりなじみのなかったものも、人気キャラクターとのコラボが親しみやすさをもたらしてくれます。
人気キャラクターとのコラボにより、これまでその商品・サービスや企業を認知していなかった層の興味をひきつけることができます。
上記4つのメリットの結果、製品・サービスの購入につながり、売上アップが見込めます。
権利者であるライセンサーの仕事は、ライセンスのイメージが壊れないよう、その活用方法を厳しくチェック(監修)することです。
そのため、企業がライセンスを活用する場合、すべての企画は権利者であるライセンサーの許可を得なければなりません。
ライセンスを使わない商品と比べ、企画の調整、デザインのチェックなどには多くの時間が必要です。
商品・サービスのイメージと合わないキャラクターを起用するなど、キャラクター選択でミスすると、イメージダウンにつながり逆効果となってしまいます。
また、熱狂的なファンが多いアニメキャラクターなどを採用する場合は、ファンの反感をかわないような企画内容にするよう注意も必要です。
キャラクターとコラボすることで、商品・サービスのイメージがそのキャラクターのイメージと結びつくため、何かの理由で変更する必要が出てきたときに、消費者に違和感を与えてしまう恐れがあります。
ただし、オンラインゲームなどで月替わりで異なるキャラクターとコラボするようなケースはこの限りではありません。
冒頭でもご紹介しましたが、ブランドやキャラクターといったライセンス供与の対象物を「プロパティ」とよびます。
この章では、プロパティのおおまかなカテゴリをご紹介します。
近年、テレビアニメを活用したテレビコマーシャルを見かけることも多いと思います。
ライセンシングに活用されるアニメプロパティの例としては、「ドラえもん」「ポケットモンスター」「ONE PIECE」「ドラゴンボール」などが有名です。
アニメとのコラボレーションは、そのアニメファンや、テレビの視聴者の興味を商品に引き付けるのに役立ちます。
昔からある子ども向けアニメはもちろんのこと、最近では、コアファンをターゲットとした深夜放送の大人向けアニメとのコラボも増えています。
コアファン向けのアニメは、若い男性客をターゲットとする、コンビニエンスストアのキャンペーンなどに多く採用されています。
もっともプロパティの幅が広く、数が多いのが、この「キャラクター」です。
「ハローキティ」「ミッキーマウス」「リラックマ」のように、もともとキャラクターとして単独で存在しているものから、「くまモン」「ひこにゃん」などのご当地キャラ、「バーバパパ」「ウォーリーをさがせ!」などの絵本のキャラクター、「バービー」「リカちゃん」などおもちゃキャラクター、「ウルトラマン」などのテレビ番組のキャラクターまで新旧幅広いプロパティがそろっています。
携帯ゲームやオンラインゲームの普及とともに、近年増えているのがゲームプロパティです。
「スーパーマリオ」「ファイナルファンタジー」「モンスターハンター」などの著名なコンシューマーゲーム以外にも、「パズドラ(パズル&ドラゴンズ)」「ツムツム」「にゃんこ大戦争」など携帯ゲーム発のキャラクターもプロパティとして、人気が出ています。
携帯ゲームプロパティは、ゲーム内のアイテムをプレゼントするなど、オンラインキャンペーンとの相性が良いのが特長です。
「eスポーツ」の流行からも、ゲームプロパティは今後、注目の分野です。
傘マークでおなじみの「アーノルド・パーマー」、足跡のマークでおなじみの「ハンテン(HANG TEN)」をはじめ、「パーソンズ」「ナイスクラップ」など、さまざまなアパレルブランドがプロパティとなっています。
「チュッパチャプス」や「フリスク」「メントス」「ペッツ(PEZ)」といったキャンディー系のお菓子、「ペプシ」「セブンアップ」などの飲料系が多いなかで、「スパム」といった変り種のプロパティも見られます。
「ボブ・マーリー」などのミュージシャン、華道家の「假屋崎 省吾」といったアーティスト、「オードリー・ヘプバーン」「ドリュー・バリモア」などの女優、「デイビッド・ベッカム」などのスポーツ選手といったプロパティがあります。
ビートルズの「イエロー・サブマリン」のビジュアルなど、人ではなくアート作品単位でプロパティ化しているものもあります。
プロパティのジャンルには、そのほかに乗り物(車、バイク、新幹線・電車など)、雑誌、博物館、学校などもあります。
では、ユーザーに人気の高いプロパティにはどんなものがあるのでしょうか。下記は、日本リサーチセンターが男女別・世代別のキャラクター好感度を調査したデータです。
総合ランキングでは、1位「くまもん」、2位「となりのトトロ」、3位「ミッキー&フレンズ」となっています。
年齢 | 1位 | 2位 | 3位 |
---|---|---|---|
15 - 29才 |
ONE PIECE | ドラゴンボール | ルパン三世 |
30代 | ドラゴンボール | ONE PIECE | ルパン三世 |
40代 | ドラゴンボール | ルパン三世 | ONE PIECE |
50代 | ルパン三世 | くまモン | ふなっしー |
60代 | くまモン | 鉄腕アトム | ルパン三世 |
70代 | サザエさん | ドラえもん | くまモン、鉄腕アトム |
年齢 | 1位 | 2位 | 3位 |
---|---|---|---|
15 - 29才 |
ダッフィー | ミッキー&フレンズ | 魔女の宅急便 |
30代 | となりのトトロ | ミッキー&フレンズ | 魔女の宅急便 |
40代 | となりのトトロ | SNOOPY | くまモン、ムーミン |
50代 | くまモン | となりのトトロ | くまのプーさん、ムーミン |
60代 | サザエさん | ハローキティ | くまのプーさん、となりのトトロ |
70代 | サザエさん | アルプスの少⼥ハイジ | くまモン |
データ引用元:日本リサーチセンター「第5回NRC全国キャラクター調査」
調査時期:2018年
対象:15〜79歳男女個人1200人
次に、ライセンシングの事例を具体的に見ていきましょう。
多くの企業が、ターゲットに応じてさまざまなプロパティをうまく活用しています。
画像引用:アニメ「ONE PIECE」×求人情報検索サイト「indeed」
CM出演俳優が、アニメ「ONE PIECE」のキャラクターをリアルに再現したテレビCMで話題に。
「麦わらの一味を求人する」というユニークなキャンペーンも集客を後押ししました。
画像引用:キャラクター「リラックマ」×コンビニエンスストア「LAWSON」
シールやポイントを集めてキャラクターグッズがもらえるキャンペーンは、コンビニエンスストアの定番となっています。
画像引用:アパレルブランド「FREAK’S STORE」×住宅ブランド「LIFE LABEL」
アパレルブランドと住宅メーカーがコラボし、ライフスタイルを提案しています。
画像引用:食品「キャンベルスープ」×雑貨メーカー「フォルテシモ」×
ロゴマークだけで好印象のあるブランドは、雑貨メーカーに採用されることも多いです。
画像引用:女優「オードリー・ヘプバーン」×化粧品メーカー「ラッシュドールジャパン」
すでに亡くなった方でも、その肖像がライセンスとして活用されることもあります。
最後に、ライセンシングの基礎や、複雑な契約方法、業界知識などを学ぶのに役立つ書籍をご紹介します。
画像引用先:白桃書房
ライセンシングビジネスの仕組みや契約方法、戦略立案方法などを体系的にまとめた一冊。
画像引用先:秀和システム
映画や音楽、アニメ、ゲーム、Webなど、コンテンツ業界の動向を図式化。業界の全体像を理解したい方に。
画像引用先:光文社
長く愛されるキャラクターの秘訣を広告代理店出身の著者が考察する書籍。
これまで見てきたように、ライセンシングには、さまざまなプロパティ、さまざまな仕組みがあり、多種多様な活用方法が考えられます。
最近では、多くの企業がライセンシングを活用しているため、ユーザーに「目新しさ」を感じてもらい、注目を集めるためには、ターゲットに適したプロパティ選択と、ユニークな企画、SNSなどを通して拡散する導線設計が重要となるでしょう。
キャラクターのパワーを最大限に生かすためにも、日頃のマーケティング戦略とともに、より効果的なライセンシング企画を練りましょう。