ユニットエコノミクス(Unit Economics)とは、ユニット単位での事業の経済性を測定・管理する考え方を指し、特にSaaS(Software as a Service、「サース」または「サーズ」)企業やスタートアップ企業においては「顧客1人あたりの経済性(あるいは採算性)」を示すものとして不可欠な指標とされています。
 
近年ではサブスクリプション(定期購買)サービスの普及にともなって注目されていますが、もともと管理経営の用語なので耳なじみがない方もいるかもしれません。
ユニットエコノミクスの数値をみれば、企業はその事業を継続して良いか否かが判断できます。
また、投資家からすると通常の損益計算書ではわかりにくい企業の健全性を判断できるため、投資活動においてもよく用いられています。
 
ここでは、ユニットエコノミクスの算出方法や数値の見方、マーケティング施策や経営判断への活用法と注意点など基本的な考え方をご紹介します。
ユニットエコノミクス(Unit Economics)とは、事業の経済性(収益性)をユニット単位で測定・管理するという考え方で、管理経営の手法の一つです。
主にSaaS企業やスタートアップ企業では、ビジネスにおける「ユーザー1人あたりの経済性(採算性)」を表す指標として活用されています。
 
ユニットエコノミクスは、直訳すると「ユニット=単位」「エコノミクス=経済」で「単位あたりの経済」となります。
ユニットの単位は顧客(アカウント)に限らず、店舗や商品とする場合もあります。
 
ユニットエコノミクスは、顧客が生涯にわたってその企業にもたらしてくれる収益(LTV)と1人あたりの顧客を獲得するためのコスト(CAC)をもとに、次の計算式で求めることができます。
 
ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC
 
 
 
 
サブスクリプション(定期購買)モデルのキャッシュフローは従来の損益計算書や年次(期間)で経済性を管理する財務諸表ではわかりにくいこと、またサブスクリプションサービスが拡大していること受け、ユニットエコノミクスは特にスタートアップ企業への投資判断やSaaS型ビジネスの経営判断の場で注目されるようになりました。
LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)とは、顧客が生涯にわたって総額でどれだけの利益を生み出すかを予測するための指標です。
長期間にわたって継続的に購入・利用してくれる顧客であるほど「LTVが高い」ということになり、企業の長期的な利益をみるうえで重要な指標となります。
一般的に顧客ロイヤリティの高い企業ほどLTVが高いといわれます。
 
また、LTVをみることで、新規顧客獲得のためにどれだけのコストが必要か、どれだけのコストをかけて良いかという目安を明確化することができます。
LTVを算出する方法は業界によっても異なりますが、現在、SaaSで広く採用されているのは次の計算式です。
 
LTV=ARPU(ユーザー平均単価)÷チャーンレート(解約率)
 
 
 
 
たとえば、ユーザーの月々の支払いが5,000円で解約率が月20%の場合は、5,000÷0.2でLTVは25,000円と推計できます。
LTVを求めるにはほかに次のような計算式があり、算出のためには月の解約率(チャーンレート)、ユーザー平均単価(ARPU)、粗利率(GMR)の数値が必要です。
 
 
LTV = ARPU(ユーザー平均単価)×粗利率÷チャーンレート(解約率)
LTV = 顧客の平均購入単価×平均購入回数
LTV = 顧客の年間取引総額×収益率×顧客の継続年数
LTV =(売上高-売上原価)÷ 購入者数
 
 
LTVについては、あくまでも推計値であること、また、顧客の平均単価や粗利率が変わらなくても解約率が変われば影響を受けることに留意しましょう。
CAC(Customer Acquisition Cost/顧客獲得コスト)とは、新規の顧客を獲得し、有料子顧客へと育てていくためにどれだけのコストをかけることができるかを判断するために重要な数値です。
CACを求めるためには、マーケティング費用(キャンペーンや広告費、イベント費用)のほか営業担当者の給与や間接費など顧客を獲得するためにかかったすべての費用を把握し、計上する必要があります。
CACは次の計算式で求められます。
 
CAC=顧客の獲得にかかる費用の総計÷獲得した顧客数
 
 
 
 
CACをみると、その事業が効率的に顧客を獲得しているかどうかがわかります。
CACはユニットエコノミクスとともに、サブスクリプションビジネスの拡大によって注目されている用語です。
LTV(顧客生涯価値)からCAC(顧客獲得コスト)を差し引いてプラスになっていれば、ユニットエコノミクスは健全な状態だといえます。
「LTV>CAC」をみるだけでなく、比率を算出することで特定の時期ごとの傾向を知り、比較検討することができます。
そのためのユニットエコノミクスの指標は次の計算式で求められます。
 
ユニットエコノミクス=LTV(顧客生涯価値)÷CAC(顧客獲得コスト)
 
 
 
 
SaaS企業においては、この「LTV(顧客生涯価値)÷CAC(顧客獲得コスト)」が3より大きい、つまりLTVがCACの3倍より大きければユニットエコノミクスは健全だと考えられ、事業の存続もしくは拡大・成長が可能な状態であると判断される基準となります。
顧客1人あたりの経済性(採算性)を表すユニットエコノミクスの算出は、どのような局面で必要とされるのでしょうか。
ユニットエコノミクスはサブスクリプションサービスの普及に伴って注目されるようになりました。
その理由として、ユニットエコノミクスの指標からは通常の損益計算書からではわかりづらい企業の健全性が評価できること、また、特にスタートアップ企業においてはユーザー数の推移だけにとらわれない中長期的な収益性の判断が不可欠であることが挙げられます。
 
サブスクリプションサービスのキャッシュフローは、従来の売り切り型とは異なり、販売当初は赤字が続くものの、ある時点を過ぎると黒字に転じ、その後は顧客が解約をしない限り継続的に安定した利益を見込むことができるのが特徴です。
 
SaaS企業やスタートアップでは、最初から利益を追求するのではなく、中長期的な収益を見据えてたくさんの顧客と良い関係を構築し、プラットフォームになることが成功につながります。
 
つまり「中長期的に収益を見込むことができる」という根拠をもとに経営することが重要であり、そのために、顧客1人あたりのLTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)に焦点を当てたユニットエコノミクスの指標が必要になるのです。
ビジネスの健全性を表す指標は、一般的に次の二つです。これらを達成できていれば事業は存続可能であり、顧客獲得のための施策をそのまま続けることが可能だといえます。
逆に、達成できていない場合はマーケティングやプロダクトを改善する必要があるでしょう。
 
 
①LTV>CAC×3
②CACの回収期間が6~12ヵ月以内
 
 
たとえばSaaS企業のスタートアップにおいて、「ユーザー数は順調に伸びているのに事業の業績がなかなか伸びない」という場合、一人ひとりのユーザーの獲得コストをもとに算出されるユニットエコノミクスの数値をみれば、ユーザー獲得のためにいつまで赤字を受容していくか、どれだけ広告に投資して良いかを判断する基準を得られます。
 
また、ユニットエコノミクスの数値を追うことで、実施した施策が成功だったか失敗だったかがわかり、経営判断につながる収益状況を把握することができます。
そして投資家からすると、そのSaaS企業の財務状況が健全か健全でないか、投資するべきか否かを判断することができるのです。
顧客獲得に注力するためにマーケティング予算を大きく取ると、顧客への露出は増やせるものの費用対効果は上がるとは限らず、結果的にCACが高くなってしまうというケースもあるでしょう。
そこで、一つの目安となる「1人あたりのマーケティング予算」の算出方法をご紹介します。
 
企業によって顧客獲得コストの算出方法はさまざまですが、ここでは一例として、CACを算出するための顧客獲得コストが「マーケティング費用」と「営業費用」の二本立てとなる場合の顧客1人あたりの獲得コストからマーケティング予算を算出する計算式をご紹介します。
 
 
 
 
この金額を超えない範囲で1人あたりのマーケティング予算を設定しましょう。
LTVやCACは常に変わり続けるものであるがゆえに、一度は健全化したユニットエコノミクスでも、いつ不健全になるかわかりません。
ユニットエコノミクスは変化するものであり、その健全性を常にチェックする必要があります。
 
また、ユニットエコノミクスは一般的に顧客のライフサイクルや顧客層によって変化すること、チャネル内の競合によっても変化することに注意が必要です。
 
特にスタートアップの場合、同一領域に大手の競合や大企業が参入してくる場合には、日頃のネットワーク構築やブランディングのほか、競合以上に効率の良いユニットエコノミクスで対抗する必要があることを意識しましょう。
ここで、ユニットエコノミクスの事例として株式会社メルカリをご紹介します。
個人同士がダイレクトに中古品の売買を行うことができるプラットフォームを開発した株式会社メルカリは、設立から約5年という短期間で上場を果たし、日本でも有数のユニコーン企業となりました。
 
同社のIR情報をひもとくと、2018年の数値から、約1,000万人のMAUが3ヵ月当たり1,000億円を流通させていることがわかります。
 
このことから、1ユーザーの1ヵ月当たりの経済性は
 
1,000億÷3÷1,000万=3,333.3…
 
となります。
 
冒頭でご紹介した、顧客獲得コストに対する顧客生涯価値で表す計算式とは、ユニットエコノミクスの捉え方が異なりますが、メルカリの2018年の1ヵ月当たりのユニットエコノミクスは3,333円であるといえます。
ユニットエコノミクスが健全でない状態、つまりLTVがCACの3倍を下回る状態は、「得られる利益から考慮して、顧客を得るごとに損失がある」「顧客を得るためのコストがかかり過ぎている」といった状況下で生じます。
 
ユニットエコノミクスを健全化するためには、全体の利益を上げ、チャーンレート(解約率)を下げてLTVの向上を図る必要があります。
またCACを抑えるためにマーケティングコストの再検討が必要になるでしょう。
 
ユニットエコノミクスの指標が健全でない状況では、新たな商品・サービスの開発やマーケティングへの投資を控えることが重要です。
特にスタートアップやキャッシュフローが赤字の状態からスタートするサブスクリプションモデルのビジネスでは、事業の初期は収益性が低いとしても、収益を考えなければならない拡大期に差し掛かったときにユニットエコノミクスが健全でなければなりません。
ユニットエコノミクスは、サブスクリプション(定期購買)サービスの普及と拡大にともない、従来の損益計算書ではわかりにくいキャッシュフローを把握できる指標として注目されるようになりました。
投資家による投資活動の判断材料となるほか、特にSaaS企業やスタートアップ企業においては経営判断の根拠として活用されています。
 
特にスタートアップ企業が事業拡大のタイミングを見極める際にはユニットエコノミクスが不可欠であるとされ、ユニットエコノミクスの計測と改善を継続的に実施することがスタートアップの成功につながるといわれています。
 
ユニットエコノミクスの数値を高めるにはLTVを向上させることが最重要だという考え方もあります。
そのためには自社目線から顧客目線でのビジネスモデルへの転換が重要になるでしょう。
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